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    すすき

    ブラカイ(カ受)/カプ無

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    すすき

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    パラロイのブラカイ。両片想いっぽい感じ
    謎のブラカイ推しっぽいモブおばあちゃんが出てきます

    私もこんなおばあちゃんになってブカのダシに使われたかった……

    一週間の出張から帰ってきたら、部下の耳に見慣れない物が増えていた。美しく輝く緑色は恐らく天然物のエメラルドだろう。カラット数は大したことがなさそうだが、天然物と言うだけで値段が跳ねあがる。あの小ささでも、ブラッドリーとてそうそう手を出せるものではない。だからこそ、借金持ちの部下がつけるには違和感があり、そして送り主にもあたりがついた。
    考えてみれば、今回の出張もいやに唐突だった。原因が分かったところで断れるようなものでもなかったが、ハイクラスの気まぐれに付き合わされているのだと思うと顔を顰めるしかない。
    手を伸ばし、隣に座る部下の耳に触れる。びくりと体を震わせて、慌てたように金の目がこちらを向いた。目元が少し赤い。
    何をするんだと文句を言われる前に口を開く。
    「随分いいモンつけてんじゃねえか、カイン」
    途端に目が泳ぐ。こういうところはいつまでたっても直らないが、無意識に内に人を選んでいるのだとわかっているので積極的に注意する気にもなれなかった。気まずそうに動く視線は中々に楽しめる。
    「その、……貰ったんだ。返そうとしても受け取ってくれなくて」
    困り果てた顔でため息を吐いてから呟かれた名前は、ブラッドリーの予想と同じものだ。脳裏に穏やかそうな仮面をかぶった老婆の姿が浮かぶ。
    政財界の重鎮を夫に持ち、死別した後にその財産の全てを相続して莫大な富を得た女。実権をほとんど持っていないにも関わらず、その富だけで誰もを傅かせている。それは勿論、シティポリスも例外ではない。
    小さく舌を打つ。ブラッドリーでは手を焼く相手にカインがかなうはずはないと分かってはいても、納得できるかは別の話だ。
    耳を掴む指に力をこめると、カインが悲鳴を上げた。暢気なものである。さすがに一言言わなければならないと口を開こうとして、入室の許可を求められた。仕方なしに手を離してイエスと告げる。
    開いたドアから、先程まで脳裏にいたはずの女が優雅に歩いてくる。『署長の労をねぎらいたい』などと殊勝な理由を告げていたが、要は相手をしろとそういう話である。出張から帰ったその足でカインと共に署長室に呼び出された。どこが『労をねぎらう』だと、そう言ったところでこの老婆が聞き入れることはないだろう。
    見覚えのある付き人の男を連れて向かい側に座った女が、柔和な笑みを浮かべた。
    「ベイン署長、出張お疲れ様でした。遠いところで大変だったでしょう?」
    「そうだな」
    おざなりな返答にも老婆の表情は崩れない。変わらぬ笑顔のまま、カインの方に目を向ける。
    「ナイトレイさん、やっぱりそのピアス良く似合っていてよ」
    水を向けられたカインが何か口にする前に腕を引き寄せた。丸くなった目がブラッドリーを見つめている。驚きに固まった体は、抵抗されなくて丁度いい。耳朶に手を伸ばし、素早くピアスを取り外した。そのまま目の前の応接デスクに転がす。
    「未熟な坊主には、これはまだ早えだろ」
    老婆が残念そうに頬に手を当てため息を吐く。
    「だけれど、そうしたらお顔の周りがさみしくなってしまうわ?」
    腹が立つほど白々しい。だが、乗らないわけにはいかなかった。未だに混乱した様子のカインを置いて立ちあがり、仕事用のデスクの引き出しから小箱を取り出す。
    この世に金を出して買えない物はそうそうない。例えば、天然物のエメラルド。例えば、無理なスケジュールでの主張の指示。例えば、誰かが購入した品のデータ。
    カインの隣に戻り、箱を開く。セミオーダーのピアスが、買った時と変わらぬままそこにあった。オーダーしたのは勿論ブラッドリーだが、自分でつけるにはデザインが軽すぎる。これが似合うのはもっと若輩の、アクセサリーに無縁だった男ぐらいだ。
    これ、と呟いた声を無視して、穴が開けられた耳朶を掴む。ブラッドリーが不在だった期間を考えれば、ピアスホールが安定するには至ってないだろう。それでも、奪われたものをそのままにはしておけなかった。
    「ボス……?」
    「じっとしてろ」
    当惑したカインの視線が落ち、緊張したように指先が握り締められる。痛まないよう注意を払い、ピアスをつけた。やはり良く似合う。
    途端に楽しそうな笑い声が響いた。
    「まあまあ。とっても素敵だわ」
    それならこれは必要なさそうね、と笑いながら、女が付き人の男に目配せをする。デスクの上のピアスを回収した男が、そのまま老婆の耳元で何かを告げた。恐らく時間だろう。本当に何をしに来たのかと思わざるを得ない。これだからハイクラスの連中の相手は面倒なのだ。
    小さく頷いて老婆が席を立つ。またお話してね、という言葉を無視して、形だけ頭を下げた。慌てて立ち上がったカインも同じように頭を下げる。赤茶の髪が肩から落ちてゆらゆらと揺れていた。
    ほどなくしてドアの閉まる音がして、気配が消える。盛大なため息が隣から聞こえてきた。力が抜けたようにソファに座り込んでいる。緊張したと呟きながら、耳朶に手が伸びる。ピアスに触れた指先を掴んで止めた。
    「外していいとは言ってねえぞ」
    「……これはあんたのだろ?」
    高価なピアスを返せたのだから役目は終わったと言わんばかりの表情にため息を吐く。貰う理由がないと、本気で思っている顔だった。だからこそ、渡す機会を伺っていたのだ。いつもは素直なくせに時折頑固になるこの男が、ちゃんとピアスを受け取るようになるまで。その機会を強引に与えられてしまったが。
    頑固な指先をどかしてピアスを撫でる。
    「これは、てめえの為に買ったんだよ。それでも外すのか?」
    またプレゼントされたくなきゃつけとけ、と囁けば、カインの頬が嬉しそうに染まっていく。照れたような声がわかったと呟き、反対側のピアスをいとおしそうに指でなぞる。
    これでどうして自覚がないのかと、もう一度ため息を吐いた。
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    すすき

    DOODLE【ブラカイ/パラロ】
    ボスにキスしたいなって思うカインと、カインをかわいがりたいボスの話。
    誕生日ボイスがめちゃくちゃなブラカイで強すぎてしんで、何かもういちゃいちゃしてくれないと割に合わないなって思って書いました。
    いつものいちゃいちゃです
    あ、キスしたいなとふと思った。
    カインにとっては唐突なことではなかったが、うまそうにグラスを傾けるのを邪魔するのは少し気が引けた。今日はとっておきだと言っていたから。でもちょっとだけ、頬や額にならと考えて、それだと満足できないだろうなという結論に至って小さくため息を吐く。ほんの些細な吐息に気づいて、どうしたと聞いてくる視線に、やっぱり好きだなと思う。
    「なあ、ボス。……キスしていいか?」
    結局黙ったままではいられなくて、手元のグラスを置いた。ブラッドリーが楽しそうに喉を鳴らす。
    「さっきから考えてたのはそれか?」
    気づいてたのかとも言えずに頷くしかない。自分でもちょっと挙動不審だったかもと思う。
    テーブルの上のボトルはまだ残りがある。ブラッドリーがカインも好きだろうと選んでくれた酒なのは知っている。いつも飲んでる安いエールみたいに一気飲みして楽しむようなものじゃないのも分かってる。グラスに口をつけたままじゃキスはできないけれど、二人きりでゆっくり酒を飲んで話す時間も大切だ。
    1972

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