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    はなの梅煮

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    はなの梅煮

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    ハッピーハロウィーン🎃
    ハロウィンにするかハロウィーンにするか結構迷ったよ。
    勢いで書いたので、だいぶ荒い文章。珍しく短い。

    ハロウィンだよ! ここは業平の自宅の一室。存在感を示しすぎる、見るからに高級そうな革張りのソファに道真は座っていた。
    「そういえばお前は何の仮装もしていないな。せっかくのハロウィンだというのに」
     ソファの後ろに立っていた業平が道真に声をかけた。そう、今日は十月三十一日、ハロウィンだった。
    「ハロウィンなんて、そんなくだらないことに興味はありません」
    「お前らしいな」
     業平は声を立てて笑うと、持ち手の付いているやたら大きな紙袋を持ってソファに近づき、道真の隣に座った。そして、自覚のある人好きのする笑みを道真に向けながら、その紙袋を差し出した。
    「だが、年に一回のイベントだ。一緒に楽しもうじゃないか」
    「どのイベントも年に一回でしょう。……というか、なんですか。その紙袋」
     業平が道真に差し出した紙袋。それは年始に販売される福袋くらいの大きさがあり、中には何かがパンパンに入っているようで見るからに重たそうだった。
    「お前用の衣装だ。仮装をしよう。二人きりのハロウィンだ」
    「興味ないと言いましたよね?」
     明らかに怒りが混じった低い声がしたが、業平は特に気にすることなく、道真に差し出していた紙袋を再び自分の手元に戻すと、その中身を探っていく。
    「道真、魔女とメイドだったらどっちがいい?」
    「私の話聞いてます?」
    「聞いてるぞ。私も言ったろう。折角のハロウィンなんだから一緒に楽しもうと。たまには息抜きも必要だ。……で、だ。道真、魔女とメイドだったらどっちがいい?」
    「……魔女はともかく、何故メイド…」
    「ハロウィンだからな。冥土ということだ」
    「は?」
    「いや、忘れてくれ」
     業平としてはちょっとした冗談のつもりだったのだが、笑うどころかゴミを見るような目が飛んできた。
     作り笑いでもしてくれたらいいものを。いや、かえって惨めか……とあまりの気まずさに業平は道真から目を逸らした。余計なことは言うものではないな、と身に沁みて分かった。
    「残念ながら私覚えがいいんです。一度聞いたら忘れないもので」
    「お前もなかなかに鬼だな」
     引き攣った笑みを浮かべた業平に、道真は嫌みたらしく笑った。
     こんな形ではあるが、機嫌を少しでも取ることができたらしい。
    「というか……何故女物なんですか。私は男ですよ」
    「知ってるぞ」
    「あぁ、そうですか」
     何を当たり前のことを言っているんだ、と言わんばかりの業平の顔に道真はこれ見よがしに盛大な舌打ちをした。
    「…………それで?業平さんはどんな仮装をするおつもりで?」
    「うーん、吸血鬼とかか?」
    「自分は男物なんですか。本当卑怯な大人」
    「なんだ、道真。私の女装が見たいのか?」
    「はぁ!?違いますよ!あなたと一緒にしないでください!」
    「おや、それは悪かった」
    「この……!」
     業平の棘のある言葉にも余裕のある態度。何を言ってもひらりひらりと躱し、何も堪えていない様子。
     まるで業平の掌の上で転がされているようで、道真はぎりっと唇を噛んだ。
    「で?魔女とメイドだったら?」
    「は?どっちも嫌ですけど」
    「……全く仕方ない奴だな。じゃあ他のものにしてやる」
    「何が仕方ないですか。私は別に頼んでません。そもそも仮装なんてしないと――」
     ぶつぶつと文句を言う道真の目前に業平が掌に乗せた何かを突き出した。一瞬驚きに身をすくめた道真だったが、差し出されたものを見ると、業平の掌の上にあるのはぐるぐると円を書くように巻かれた白いものった。
    「包帯?」
     何故?と首を傾げる道真に、業平がにやりと笑った。
    「ミイラ男とかどうだ?」
    「……」
     魔女やメイドに比べたらミイラなんてものはただ包帯を身体に巻くだけ。女装ではない。
     そう、巻くだけなのだ。だが、業平のことだ。完成度はきっとこだわる。外に出るなら別だろうが、二人だけの仮装となると、服の上から包帯を巻くなんてことは許さないだろう。やるからには本格的に、と地肌の上から巻くこと強要してきそうだ。いや、それどころか、自分が巻くとか言い出しそうで。
     道真はこれらの思考を一瞬で済ますと、業平の言葉を即座に切り捨てた。
    「嫌です」
    「決まりだな」
    「いや、嫌だって言いましたよね!?」
    「お前は何を見せても嫌だと言うだろう」
    「当たり前でしょう!私は仮装なんてしないってずっと言ってるんですから」
    「話が進まないから、私が決めることにした」
    「最低ですよ」
    「私が巻いてやるから」
     やっぱり。
    道真は頭の中の予想通りの道を現実が歩いてこようとするのを止めるように即座に切り捨てた。
    「結構です」
    「まぁ、そう言うな」
    「絶対嫌です」
     道真はこの話はこれで終わりだと言うように業平から顔を背けた。けれどその直後、業平から侘しげな雰囲気を感じた。傷つき、悲しんでいるような、そんな雰囲気。
    「ゔ…………」
     悪いのは決して自分ではない。自分ではないのだが、この雰囲気は耐え難かった。
     道真は不本意ながらも居た堪れなさを感じ、ちらりと視線だけを業平へと向ける。すると、こちらを凝視する業平の目とかち合った。
    「な、んですか……」
    「どうしても駄目だろうか」
     下がった眉に哀愁を浮かべた眦。それに道真はぐっと息を詰めた。
    「……その顔をしたら私が折れると思ってるんでしょう」
    「そんなことはない。私はただ、道真と二人でハロウィンを楽しみたいだけだ」
     業平の顔が徐々に道真へと近づく。
    「ただでさえ一緒に過ごせることが少ないんだ。忘れられない思い出を作りたいと思うのは悪いことだろうか」
     心地のいいテノールの声に道真の身体がぶるりと震える。それを見た業平は密かに口端を吊り上げると、互いの息がかかるくらいにまで顔を近づけた。
     ここで焦ってはならない。
    「人混みを嫌うお前だから、二人でハロウィンを楽しむなら…と考えたことだったんだ」
     釣り針に魚が食いつくのを待つように、悟られず、冷静に。
    「お前がどうしても嫌だと言うなら無理強いはしないが……。どうだろうか」
     そっとソファの座面についていた道真の手に業平の手が重ねられた。その業平の手はするすると動き、指を道真の指と重ね合わせていく。
     絡み合う指と、息がかかるほど近くにある業平の恐ろしく整った顔に道真の顔にはじわじと赤みが増していく。
     掛かる、と確信があった。
    「なぁ、道真」
     切なげに、そして強請るようにゆっくりと名前を紡ぐ。すると、道真は業平の手を振り払い、叫んだ。
    「あぁもう!分かりましたよ…!本当にずるい大人ですね!着ればいいんでしょう!着れば!」
     喚くようにそう言った道真は、業平の手から奪うように包帯を取ると勢いよく立ち上がった。そして、キョトンとする業平を置いてリビングの扉まで行き、ドアノブを握ったかと思うと急に動きを止めて業平を振り返った。
    「今回だけですからね……!」
     そう言うと、道真はバタン!と大きな音を立ててリビングから出て行った。
    「…………」
     突然嵐が湧き上がりそのままの勢いで消え去ったようだった。あまりに早い展開に呆気に取られていた業平だったが、シンと静まりかえった部屋にくすりと笑った。
     自分が道真に包帯を巻いてやろうと思っていたが、どうやらそれは無理だったらしい。けれど、あの様子ならば道真はきちんと身につけて再びリビングに戻ってくるだろう。このまま逃げるように自宅に帰るということはない。そういうところは律儀な人間だ。
    「しかし、まぁ……」
     業平は腕を組んで苦笑をもらす。ほんの少し庇護欲を唆したものなら、すぐに折れてしまう道真。言葉は丁寧ではあるが、ずけずけとした物言いで冷たい人間だと思われがちではあるが、なんだかんだ困っていたり、傷ついている者を放っておけない人間なのだ。
     今のようにあまりにも情につけ込まれると弱いことに心配にはなるが。
    業平はキッチンへと足を進めると棚と棚の間に隠すように置いていた菓子が入った包みを手に取った。自分のために、羞恥心を押し殺し仮装をして戻ってきてくれるであろう道真に渡すもの。実は何日か前から用意していたのだ。
     道真はハロウィンお馴染みのあの言葉を言うだろうか。もし言ってくれるのであれば、ネイティブばりの見事な発音だろう。
     業平はミイラ男の仮装をして、これ以上ないくらいの嫌悪に満ちた顔をしながら「Trick or Treat」と完璧な発音で言う道真を想像して一人くすりと笑った。
     今日は十月三十一日。二人だけのハロウィンが始まろうとしていた。
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