雨の日とハムスターぽつ、ぽつ、と。雨粒が戸を叩く。先程まで晴れていた空は一転し、灰色の雲があっという間に太陽を覆い隠してる。家で本を読んでいた管理人の女の子は雨の呼び声にふと、顔をあげた。
今にも降り出してしまいそうだ。
「あら、まぁ。大変」
管理人は読んでいた本を閉じると、真っ先に若草色のレインコートに袖を通した。ブーツに、ランタン。そして、少量のお菓子とナッツをポケットに入れて玄関の方へ。外へ出れば、土の香りが混じった湿り気のある空気が鼻腔を掠めた。
それでも、管理人は気にも止めずにまっすぐ森の方へ向かう。
ぽつん、ぽつん。
遂に耐えきれなくなった空から大きな雨粒が落ちてきた。途中で1枚大きな里芋の葉っぱを手に取った。管理人さんは、葉に跳ねる雨音に耳を傾けている。規則正しく鳴るそれは森の中では様々な物に跳ねて一つの歌をつくっていた。
ぽつぽつ、ぴっちょん、ザーザー
誰かが泣くと降り出す雨の歌。
管理人さんは雨のリズムに合わせて歌い出す。泥が跳ね、スカートの裾が濡れるのも気にも止めずに、泣いてる誰かを探して彷徨い歩く。
鼻歌を歌っていると大きな水の塊が彼女の周りを漂い始めた。
こっちだよ、と
水の示す方に行けば、少年を形どった怪物が紫陽花の茂みをただ見つめていた。管理人は特別驚いた様子もなく、怪物に「ありがとう」とお礼をいった。
紫陽花の葉の下を除けば、小さくうずくまった白いハムスターがいた。
「もう、大丈夫だよ」
硬直した小さな、小さな身体を優しく手で包み込む。管理人の暖かな体温が伝わると、手の中の小さな住人はまつぶらな瞳を見開いてキョトン、とした顔で見上げた。
「餌を探してたら、遠くに行き過ぎちゃって、ビックリしちゃったんだよね」
管理人はポケットからナッツを取り出すとハムスターに渡した。白いハムスターは食べ物の匂いを嗅ぎ、恐る恐る小さな口を開けて、ナッツを齧る。モゾモゾと、手の中で一生懸命ナッツを頬張る小さな住人の姿に思わず笑みがこぼれた。
「雨があがったら、元のお家に返すわね」
もうすっかり、ナッツに夢中になった小さな住人は管理人の言葉も露知らず次の餌を探していた。
雨はいつの間にか止んでいた。