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    melly96262246

    @melly96262246

    主にTwitterに載せていた小説を載せていきます。
    たまにitchyなものもこちらに格納する予定です。

    ※無断転載はおやめください

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    melly96262246

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    モデルパロ👹視点。
    モブが出張ってきます。

    モデルパロ👹視点 ヴォックス・アクマは名が表す通り、悪魔のような魅力をもって見るものすべてを魅了する。
    ファッション業界で彼の名を知らぬ者はいない。それほどまでに彼の名前は力を持ち、ヴォックスの心を置いて独り歩きしてしまっていた。
    実際ヴォックスと親しい者たちは、彼がそんな神聖視される人間ではないと口をそろえて言うし、人間くさい愛情の塊であることを知っている。
    それでも、ステージに立つヴォックスを見た観客たちは神に愛されたという言葉で彼を賛美するのだった。

    「初めまして、闇ノシュウです」
    まだ年若いやっと少年期を抜け出したような青年が握手を求めて来る。
    ヴォックスはにこりと笑ってシュウと名乗った青年の手を握り返した。そうして、気取られないように慎重にシュウの反応を見る。
    若いモデルは経験の少なさから、ヴォックスのように人気と実績のある相手に微笑みかけられただけで舞い上がり、相手を盲信したり、悪ければストーカーまがいの行為をしかねない。
    果たしてシュウはどうだろうか。
    ちらりと盗み見たシュウは変わらぬ爽やかな笑みを浮かべ、わ~有名人だ~と口にした。お世辞でも、賛美でもなくただ事実を口にしたかのような口調に、知らずのうちに強張っていた肩の力が抜ける。
    「よろしく、シュウ。私はヴォックス・アクマだ」
    「んはは、知ってます。あなたはすごく有名だから」
    自然体で接しているであろうことがわかり、ヴォックスはもしかしたら彼とはいい友達になれるかもしれないと希望を抱いた。この業界は個性のぶつかり合いで、他者を蹴落とし合う、常に勝負の世界だ。それ故に信頼できる友人などできるはずもなく、まわりからいくらほめそやされていてもヴォックスはいつだって独りぼっちだった。
    「敬語は堅苦しくて好きではないんだ。もし、君が良ければもっと気楽に話してほしい……そう、例えば友達と接するように」
    「え、あ、うん? 努力はしてみます」
    「はは、そうしてくれると助かる」
    助かるという言葉を聞いて、シュウは小さく吹き出した。どうかしたのかと問えばネットのミームで“これが欲しかった”とか“大丈夫、むしろありがたい”という意味があることを教えてくれた。
    「あんまりにも状況にぴったりで思わず笑っちゃった、ごめんね」
    「いや、大丈夫だ。私はそういう若者の文化に疎いから教えてくれると嬉しい」
    「待って! ヴォックス、君、僕の事いくつだと思っているの?」
    急にシュウがそんな事を言うものだから、ヴォックスは若くて十代、多く見積もっても二十になったばかりに見えると正直に答えた。
    シュウはそれを苦虫を噛み潰したかのような表情で聞いていたけれど、内緒話でもするかのようにヴォックスの耳元に顔を近づける。
    「実は……」
    そうして囁かれた彼の年齢を聞いてヴォックスが驚愕の表情でFワードを叫んだことは未だにシュウに会うたびに話題にされるのだった。

     それからシュウとはよく撮影や、イベントで顔を合わせることが増えた。
    その度にヴォックスがシュウに構い倒すものだから、次第にシュウもヴォックスの扱いを覚えたようでぞんざいに扱うようになった。
    「Ohシュウ~! 君はいつもかわいらしい!」
    「それ本気で言ってる?」
    「いつだって私は本気さ、さあお手をどうぞレディ」
    「あ、そういうのいいんで」
    まるで気心が知れた友人同士のようでヴォックスは、その扱いを気に入っていた。
    何度か言葉を交わすうちに、シュウは年相応に落ち着いているかと思えば突飛な発言で周りを困惑させ、回転の早い頭でこちらを飽きさせないような立ち回りをすることを知った。それと同時に、以前暇を持て余した待ち時間の間にやったピュアリティスコア診断で、驚くほどの高得点をたたき出した彼を汚してはいけない聖域のような存在だということを知ってしまった。
    ヴォックスはシュウの前では、普段息をするように使うFワードや下世話なジョークを言わないようにと心がけている。それが保たれるのはどれだけ頑張っても最初の三十分が限界だったけれど、それでも努力はしているのだ。
    「シュウこの後の予定はなにかあるのか?」
    「確かこれで終わり。どうかしたの?」
    「いや、たまには一緒にディナーでもどうかと思ってね。オーガニックのレストランを見つけたんだ」
    「いいね~! じゃあ撮影が終わったら待ってるよ」
    シュウはヴォックスの誘いに頷いた。もう時期次のファッションウィークに向けて調整期間に入る頃だ。その前に一度食事に行きたいと常々思ってはいたのだ。けれど、ヴォックスは引く手あまたの人気を博しているせいで中々スケジュールに空きがないのだ。
    やっと手に入れたつかの間のオフをシュウの為に使おうと決めていた。
    そのシュウから了承を得て嬉しくないはずがなかった。ヴォックスは楽しみにしていると言い残し、軽い足取りで控室を出ていった。

     撮影は滞りなく進み、予定よりも幾分か早い時間に終えることができた。
    着替えて控室に戻れば、待っていると言っていたシュウの姿がない。不思議に思って周りを見渡してみれば、シュウのiPhoneやカバンはそこにあって、本人だけが居なかった。
    嫌な予感がしてヴォックスは控室を飛び出した。ヴォックスは、己の影響力を失念していたのだ。
    自分を盲信する者が少ないないことを、そしてそれを言い訳にヴォックスに近づく者を排除しようとする行為があることも親しい友人ができたことで浮かれていてすっかり忘れていたのだ。
    廊下を通りがかるスタッフにシュウを見なかったか、と余裕なく片っ端から聞いていく。一向に行方がわからないまま、焦りばかりが募る。
    「あ、あの……」
    そんなとき一人の若いスタッフが怯えたように声を掛けてきた。
    「あっちの方に、シュウさんと、オーガスタさんが歩いていくのを見ました……」
    オーガスタ。確かイタリア系の女性モデルで、以前からしつこくヴォックスに言い寄ってきていたことを思い出す。まさか今回の撮影に来ていたとは思わなかった。
    もしかすると、仕事ではなく勝手に来たのかもしれないけれど。彼女はその名が示す通り、気性が荒いことで有名だった。
    「ありがとう。君の勇気ある行動に感謝する」
    「い、いえ! 早く行ってあげてください!」
    「……わかった」
    スタッフに背中を押され、ヴォックスは教えられた空きスタジオへと駆けて行く。
    重たいドアを開ければ、オーガスタがシュウに掴みかかり、シュウはそれを冷めた目で見ていた。
    「何をしているんだ!!」
    ヴォックスが声を荒げ、二人の間に入る。ちらりと様子を見たシュウは何度か殴られたのか商売道具の顔を赤く腫らしていた。それを見て、ヴォックスは目の前が赤く染まるのを感じた。
    思わずオーガスタに殴り掛かろうとしたその腕を止めたのは、意外にもシュウだった。
    「ヴォックス、だめだよ。暴力じゃなにお解決しない」
    そうでしょう?とオーガスタを見つめるシュウの瞳は何処までも澄み切って、汚いことなど一つも知らないとでもいうかのような色をしている。
    「アンタが悪いのよ!? ヴォックスに近づいて! 対して実力もないくせに彼に目を掛けられるなんて許せるわけないわ!」
    「君は何を……」
    「ヴォックス、黙って。今彼女と話しているのは僕だよ」
    そう言ってシュウはオーガスタの前に一歩踏み出す。
    「確かに僕はヴォックスみたいに華があるわけでも、実力があるわけでもないけれど」
    さらに一歩近づく。
    「でも僕は一人の友人としてヴォックスと一緒にいるだけ、彼から何かをしてもらおうなんて考えたこともないよ」
    真っすぐに射貫くような力強さでオーガスタを見つめる。オーガスタは一歩、後ずさる。
    「僕はヴォックスをモデルとして尊敬している。一人の人間として尊重だってしているんだ。それを君がとやかく言う道理はないよ」
    ヴォックスからはシュウの表情が見えないけれど、彼がとても怒っていることがわかる。
    「君のそれは、勝手な独占欲だよ。それはヴォックスをしあわせにできるの?」
    「アンタなんかになにがわかるのよ……」
    「君よりはヴォックスの近くにいるからね」
    遂にシュウはオーガスタを追い詰めた。逃げ場を失ったオーガスタは自慢の顔を歪ませて酷い表情でシュウを睨みつけている。
    「君の行動こそがヴォックスを苦しめるんだよア××レ」
    「ひっ……!」
    シュウの表情がすっと消えてなくなり、温度のない声で威圧的に囁けば虚勢を張っていたオーガスタは短い悲鳴を上げて膝から崩れ落ちた。
    震えながらシュウを見上げるオーガスタの顔面は蒼白で、見たこともないくらい見たこともないほどか弱い姿を見せている。
    「シュウ、そこまでにしてあげなさい」
    「あ、ごめん。僕つい……。大丈夫ですか?」
    ヴォックスの言葉で我に返ったシュウは、慌てたようにオーガスタに手を差し伸べ助け起こそうとしゃがみ込む。
    突然、態度を変えたシュウにさらに恐怖を募らせたオーガスタは、シュウの手を振り払ってスタジオから逃げて行った。
    その姿を不思議そうな表情でそれを見送ったシュウは、ヴォックスに向き直る。
    「ごめん、探した?」
    くるりと振り返りヴォックスに向き直ったシュウはいつも通りのシュウで、先ほどの騒動など一切感じさせない落ち着き払った様子で申し訳なさそうに笑うのだった。
    「ちょっと話しがあるっていうからついてきたんだけど、顔、腫れてるかな?」
    「ああ、きっと夜にはもっと腫れると思う」
    「そっか、仕事どうしよう。メイクで誤魔化せるかな」
    「……シュウ!」
    何でもない事のように語るシュウに、ヴォックスは声を荒げる。
    「私の、責任だ。君は巻き込まれた被害者だから、仕事のことは気にしないでいてくれ」
    「どうして?」
    どうして、と首を傾げるシュウは自分なんかよりもこの世界に長くいるはずなのに事もなげに言う。モデルは華やかに見えてシビアな世界だ。一度信用をなくせば次の仕事はもう来ない。それを知らないはずがないがというのに、初めて会った時と同じようににこりと笑ってそこに立っている。
    「これは僕が選んだ行動の結果だから、ヴォックスは悪くないよ。だから、ねえ、そんな顔をしないで」
    「シュウ……」
    まるで小さな幼子に接するようなやさしい手つきだヴォックスの溢れそうになる涙を拭う。
    「ごめんね、ディナー楽しみにしてたでしょ? でも今日はもう遅いし、また今度にしよう」
    そう言ってヴォックスを慰めるように艶やかな髪をひと撫でして、何事もなかったかのようにシュウはスタジオから出て行ってしまった。
    薄暗いスタジオにヴォックスを一人残したまま。

     翌日、ヴォックスは無理矢理聞き出したシュウの仕事場へと向かっていた。
    あんな状態で仕事に行くなど、正気ではないとヴォックスは不安で落ち着くことができなかった。
    「あ、おはようヴォックス」
    撮影スタジオに着けば、左の頬を僅かに腫らしたがやはりいつもと変わらない穏やかな笑みでヴォックスに声を掛けた。
    「Hi,シュウ……。やはり腫れてしまったようだな」
    そっと赤くなった頬に触れればくすぐったそうに身を捩り、ヴォックスの手から逃れたシュウは痛いからあんまり触らないでと言う。
    「すまない、つい」
    「悪気がないのはわかるけど、結構痛いから」
    「そうか……」
    行き場のなくなった手をどうしていいかわからずに、ヴォックスは自身の手をさ迷わせる。それを見てシュウは困ったように笑った。
    「そんなに心配しないでよ。ちゃんと冷やしたし、それに今日のメイクさんは凄腕だからこれくらいならカバーしてくれるよ」
    商売道具を傷つけられたというのに、普段通りのシュウに申し訳なさが募る一方だった。その気持ちを汲んで、シュウはディレクターに無理を言ってヴォックスの見学を許可してもらったのだが想像以上に落ちこんでいるヴォックスにシュウは口を開いた。
    「見てて、僕だってちゃんとやる時はやるんだよ」
    そう言い残してシュウは準備の為にメイクルームへと消えて行った。
    手持無沙汰になってしまったヴォックスは、空いている椅子に腰かけ撮影を眺めている。
    ファッション誌の撮影で、さして大きなブランドではないものの長い歴史を持つ老舗の衣装を着たモデルたちが忙しそうに行ったり来たりしている。
    中には見知った顔も混ざっており、時折小さく手を振ったりウインクをして挨拶をしてくるのに手を振って返したりしていた。
    「やあ、ヴォックス。君が見学だなんて珍しいこともあるものだ」
    声を掛けてきたのは何度か共に仕事をしたことがあるディレクターだった。
    小太りで愛想のいい男は、審美眼がすぐれていてどの仕事も完璧にこなすことで有名だった。まさか、そんな彼とここで再会することになるとは思わなかった。
    「ああ、ちょっと気になる子がいてね」
    「シュウだろ? 彼が今日君が来るからって珍しく頼み事をしてきたからね。シュウと仕事をしたことは?」
    「何度か」
    「そうか。その様子じゃ、あれはまだ見たことがないな?」
    ディレクターの含みのある言い方に小首を傾げていると、衣装を身に纏ったシュウがスタジオに入ってきた。
    チャコールグレーに細いストライプの細身のジャケット、同じ生地でできたハイウエストのパンツ、シフォンのフリルシャツにふんわりと結ばれた黒い大きなリボン。
    ともすればウィメンズを思わせる仕立てのセットアップを着こなしたシュウは、ヴォックスに一瞬を目線を送ったけれど、なにも言わずにカメラの前まで進んでいく。
    カメラの正面に立ち、一呼吸。
    顔を上げたシュウはヴォックスの知る彼ではなくなっていた。
    「どうだ、すごいだろう」
    ディレクターが得意気に言う。
    ヴォックスはシュウから目を離すことができなくなっていた。いつも穏やかに微笑むシュウは姿を消し、モデルの闇ノシュウがそこに立っている。
    吸い込まれそうなアメジストの瞳は力強く前を見据え、やわらかなシフォンを揺らし、スーツのラインのうつくしさを最大限に見せつけている。
    あれはいったい誰だろうか、ヴォックスは己に問う。空気がじわじわと浸食されていく。
    「彼は、一体……」
    「あれがシュウの本気だよ。いつ見ても凄まじいものだね」
    「シュウの本気」
    カメラの前でポーズを取るシュウは、今まで見たどの現場でも見たことがない全くの別人だった。
    スタジオの中を飛び越えて、きっと雑誌を通して彼を見たすべての者が彼に魅了されてしまうのだろうと予想する。だって、現に今ここにいる全ての人間の目を惹きつけて離さないのだ。
    ヴォックスは初めて自分の小ささを思い知った。
    頬の腫れなど一つも気にならない、完璧に服を着こなす本物がそこにいる。彼こそが本物のモデルであり、神に愛された天才だと知ってしまった。
    「シュウは普段は穏やかだけど、一度スイッチが入れば素晴らしい作品を作り出すんだ。まあ、めったに見れないんだが、どういう風の吹き回しだろうな」
    ディレクターは悪戯に笑って隣のヴォックスを見やる。
    ヴォックスはぽかんと口を開け、呆けたようにシュウの撮影を見ていた。ディレクターの言葉を受け止めきれず、飽和した思考で眺めていた撮影は気が付けば終わっていた。
    「お疲れ様。どうだった? 今日はヴォックスが見に来るっていうから結構頑張ったんだけど……」
    「シュウ!!」
    着替えを済ませたシュウがヴォックスの元へやってきた。
    いつも通りの朗らかに笑うシュウが居て、先ほどまでの研ぎ澄まされた雰囲気は欠片もない。それに安堵と抑えきれない衝動がない交ぜになったヴォックスは、シュウにハグをしてその頬にキスの雨を降らせる。
    「わわっ! ちょっとヴォックス、どうしたの?」
    「シュウ君は天才か? なんて素晴らしいモデルなんだ! とても美しかったよ!」
    「んはは! それは衣装がいいせいだよ。僕って服を着るくらいしか取り柄もないし……地味って言われるし」
    「誰だそんなことを言うヤツは」
    「え、ちょっと、顔怖いからやめて」
    ハグをされたままのシュウは顔を引き攣らせてヴォックスの腕から逃れようと試みるけれど、ヴォックスがそれを許さなかった。
    端から見れば嫌がるシュウをヴォックスが抑え込んでいるように見えたのか、ディレクターがそこまでにしておけと言った事で、シュウはやっと解放されたのだった。
    「いきなりあんなことするなんてヴォックスはもう少し周りの目を気にしなよ」
    「君がそれを言うのか?」
    シュウの言葉に、ヴォックスは奇妙なものを見るかのような目でシュウを見た。
    自身の魅力も実力も、あまつさえ周りからの評価も見ようとしないシュウに言われたことが不服であった。
    「シュウ、謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ……」
    「謙遜もなにも事実だし」
    本当になにもわかっていないような表情で、シュウは事もなげに言う。
    ヴォックスは呆れ半分、諦め半分。そして徐々に理解させていけばいいかという一種楽観的な思考でその場でそれ以上言及することはなかった。
    しかし、今後短くない間何度も同じ事を言わざるを得ないことになろうとは思いもしなかった。
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