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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    作家ちゃんみのその後です

    門弥「おう弥鱈、いいかげんにせんか」
    「何がですかあ…」
    「死人が出る」

    どさ、とデスクに積まれた弁当のタワーをすすす…と手で遠ざける。食べている暇はないのだ。
    「お前、この間の時点で締め切り二日前とか言ってたな」
    「まあ~、はい」
    「なんでまだ作業してる?納品してないのか?」

    前回の訪問で得た語彙を用いて会話を試みてくる門倉は正直面白かったが、今はそれどころではないのだ。
    「雄大くん、俺たちの事なら気にしなくていいから…」
    「交代で休ませてもらってるし、受け持ちが終わったらほんとに終わりだから!」
    目下作業中の二人が自分の代わりに返事をする。あとの二人は今休憩のターンに入っていてここにはいない。
    「お前らはいい。いくらなんでも人材を使い潰す奴じゃないのはわかってる。けどこいつは違うだろ、休んでるのか?」
    つい、と門倉の方から視線を外してエナドリを呷った。が、飲み干しきれないところで缶を取り上げられてしまった。
    「お前なあ、こんなん飲んでたら寿命縮むぞ。立ち会い以外で死ぬのはしょうもないだろうが」
    「男にはやらなきゃいけないときがあるんですよ。そういうのお好きでしょう。」
    めげずに新しい缶を開けて呷る。今こうして会話をしている暇も惜しいのだ。
    「…立ち合い、無傷だったのか」
    「ええ。ほら指もまっさら。前の本を前倒し入稿したので時間が出来たんですよね」
    「…で、その次の本とやらの納品日は」
    「今日です。あと半日後。」
    「…今日終わるのか」

    門倉の後ろから入って来た別の黒服がデスクに置かれたままだった弁当のタワーを持ち去り各机に配布しはじめる。
    「…とりあえず、邪魔しないで頂けますか?その分早く終わります」
    門倉のこの剣幕にももう慣れた物なのか、弁当を配っていた古参の黒服は「一個余ったよ」と門倉に弁当を渡して自分は帰っていった。
    門倉は前回は無視したyogiboに腰を下ろし弁当を開ける。どうやら居座る気らしい。
    弁当を食べ始めれば門倉は静かなものだったので、後ろにいる二人にも適当な所で飯を食えとだけ伝えてヘッドホンを装着した。

    *
    門倉は自由なものだった。連れて来た黒服は早々に帰り、門倉は門倉で仮眠室を見つけて勝手に寝たり風呂に入ってサッパリするなどして、気に入ったのかyogiboを仮眠室に持ち去ってまた寝たりしていた。
    そしてやって来た入稿の時、三人の目でミスなどをチェックし、さながらケルベロスといった様でモニターをのぞき込み入稿した。
    これで何もなければもう一冊が出る。ギリギリになったのはそうだが、まだ通常入稿の範囲内だった。
    時間を金で買う割増が嫌なわけではないが、一度してしまえば抜け出せない誘惑が割増なのだ。できるだけ避けたい。
    「終わったか」
    いつの間にか起きてきてやってきた時と同じようにスーツを着こんだ門倉が立っていた。

    「ええ終わりました。少し寝るのであなたも帰ったらどうですか?」
    「いんや、少しじゃなくてもっと寝ろ」
    門倉は弥鱈を俵担ぎにし、凶器となる脚をしっかりと固定して運んでゆく。
    「は!?おろしてくださいよ!仮眠室はそこ!おい!下ろせ!」
    「寝るならどこでもいいだろ」
    追いかけて来た黒服から携帯だけ受け取り、黒服に開けられたドアから弥鱈を運び出していく。
    「片づけとかはしておきます。お休みになられてください。」
    「下ろせ!下ろしてください!」
    「サブの方のログボもとっておきます!」
    門倉雄大の黒服を使って原稿していた事の仇が今来るとは。二人とも助ける気などはさらさらなく、むしろ門倉の誘拐事案に協力的だった。

    門倉の私用の車の後部座席に放り込まれ満足に抵抗もできないうちに発進された。
    掴まっては面倒だからと一応シートベルトをするというのには従ったが、携帯だけ持ってボロボロの服装のまま裸足でどこにつれていかれようというのか。
    とにかく疲れているというのに。そう、疲れているのだ。だから今すぐに寝たいというのに―――!
    赤信号のうちに運転席の背もたれを2、3度強く蹴る。それに特にリアクションなどすることもなく、門倉の車は見知った駐車場に入っていった。

    「…何ですか。ヤリませんよ。風呂も入ってないし。」
    連れてこられたのは門倉の住居だった。先手を打って釘をさしておいたが、本当に今はただひたすらに眠いのだ。
    「最初から弱いもんいたぶってもしょうがないだろうが。いいからこっち来い。」
    子供にでもそうするみたいに手を引かれる。連れていかれたのは家の一番奥、ベッドルームだった。
    「風呂さぼってるんだろ。別にいいから来い。」
    手を引かれるまま、キングサイズをさらに特注したベッドに乗り上げる。そのまま腰を抱かれ、あっけなくベッドにぽすりと倒れた。

    「ぶっ殺してやりたいとは思ってるけど、死んでほしいとは思ってないからな」
    がっちりと抱きしめられ、逃げ場を潰された。枕元のリモコン照明が薄暗くなり、門倉の体温があり、ベッドシーツはひんやりとして気持ちがいい。
    「終わったんだろ。寝ない理由があるなら聞くから。」
    徐々に移ってくる体温は門倉の肌にある時よりもいくらかぬるくて、あっという間に睡魔がやってくる。
    「…別に、理由とかないですけど」
    もう瞼を開けていられない。半目になるくらいなら、と目を潔く閉じる。その先、次に目が覚めたのは16時で、その時もまだ自分は門倉の腕の中にいた。
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    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173