砂嵐の国にて『ねえ!全然落ちないんだけど!』
「悪かったよ、俺もちっと予想外だった…」
世が羨む高層ビル群の中の一つ、そのバスルームで梶は大騒ぎしていた。
お国柄御法度であるはずのギャンブルの予定がこの地で立ち、それに対する自陣の足場を整えるためににやって来たこの国で、早速洗礼を受けた。
数年間隔であると聞いていた砂嵐がピークを迎えているのがまさに今日この日だとはだれが予想できただろうか。
すでに用は済み、二人は宿泊先ホテルに向かう帰途のわずかな徒歩の間に猛烈な吹き戻しに襲われた。
白いジャケットにイエローのシャツを着ていたフロイドはそこまでの被害があったようには見えなかったが、ひどいのは梶の方だった。
繊維の目が粗いシャツにスラックス、そして無造作な頭髪。その全てが真っ黒で、汗ばんでいた肌にまでびったりとついた砂でまるできな粉でもまぶされたのかという様相になってしまっていた。
こりゃいけねえ、とフロイドは梶の手を引き足早に逗留先に駆け込んだ。
「服はあらかた落としたが、クリーニングに任せるしかないな。まあ慣れてるだろうよ。」
フロイドは自信も衣服を脱ぎ梶のものと共に早々にクリーニングに引き渡した。着替えはあるがまだシャワーを浴びていない身のこのざらついたままではバスローブすら身にまとう気にはなれない。
洗面台に腰かけて煙草に火を着けてため息のついでに紫煙を吐く。スモークの張ったガラスの向こうにうっすらと見える影はとにかくバシャバシャと激しく音を立てて湯を浴びている。
『ダメだ…あんな一瞬だったのにもうずっと砂が出てくる…』
フロイドは自分の髪の筋の間に指を入れる。言わずもがな、整髪料のおかげで砂まみれだった。
『なんかシャンプー全然泡立たないよこれ!洗えてるのこれ!』
「そんなわけあるか、こんなグレードのホテルでそんな訳…」
これ、と梶がドアの隙間から差し出して来たのはどう見てもリンスだった。
そんな初歩的な間違いをする奴が居るのかよ、と声を上げて笑ってしまいそうだったが、ぐっとこらえてそのボトルを受け取った。
「しょうがねえな、手伝ってやるよ」
さっさと下着から脚を抜き少し開いたままのドアを大きく開けた。
「おわっ、入ってくるなら言ってよ」
目をぎゅっとつむったままシャワーに打たれている梶が面白くて、「こりゃリンスだ」というのはもう少し後にしようと思った。