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    shin08_s

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    shin08_s

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    1817。IF設定の導入だけでどんだけ行を使うんだろうなと。完成したら良いなあの気持ちを込めたアゲ。
    誤字とか表現とかは多分追々と修正する。

    今書いてる1817の本編までの導入部分。「18‼︎」
     賞賛と絶望を一斉に持ってきた爆発音と硝煙に、数字を叫んで無我夢中で駆け寄った。たかが数字、されど俺たち『ミッキー・バーンズ』におけるこの数字は今や個々を示す第二の名前となっている。
     やっと過去の全てを知った上で分かり合える相棒、兄弟という存在よりも密に自分を知る相手、かけがえのない家族と言っても良いと思えた奴の数字(なまえ)を何度も叫ぶ。
     鉄屑の隙間に倒れる自分と同じ顔をした男。その片腕があった場所は肉塊と化し、胸郭から下は何も無い。おそらく片肺は爆撃で潰れ、微かに聴こえる呼吸はゼェヒュゥと濁音混じりでか細く汚い音を繰り返す。
     生きているのが奇跡だ。それは俺ですら分かった。何度叫んでも土気色をした顔はこちらを見ることはなく、薄目から覗く瞳はおそらく何も映しちゃいない。絶望的だ。
     何度も繰り返し死にゆく自分の身体を他人事のように見てはきたが、心臓が止まる瞬間なんて見たこともない。どうすることも出来ず、回らない呂律で叫び続ける俺の声は虚しく空に拡散していくだけだ。
     まただ、また独りになってしまう。
     動かない思考で触れる手は血や硝煙でどす黒くなったベストを無意味に触るだけで何も生産性はない。俺はこんな時まで、どこまで行っても役立たずで、こうやって自分すら救えない。
     どんどん動きが小さくなる胸郭に自分の呼吸さえ止まりそうになっていると、視界の隅から無数の触手が伸びてきて18の身体を持ち上げる。
    「乱暴にしないでくれ‼︎死んじゃうだろ‼︎下ろしてくれ‼︎」
     ボタボタと普通は聞かない重い音を立てて多量の血液が地面に滴り、18の口から呻き声が漏れた直後には血を吐き出してしまった。16の時もこれだけの血を吐いた数十分後には死んだっけ。
     本当に死んでしまう。
     無我夢中で触手に掴みかかって18を取り戻そうとした時、俺の胸元からあの低く間延びした、翻訳機を通したママ・クリーパーの声がした。
    『オ前ノ同類ガ、こいつヲ呼ンデイル』
     弾かれるように見上げた母船の先で、この翻訳機を持たせてくれた彼女が窓越しに必死に両手を振っているのが小さく見える。
    『「リプリント」。運ベト』
     俺たちのバックアップレンガは既に壊されたとか、あそこまで間に合うはずがないとか、18がリプリントされてしまえばそれはもう彼(18)じゃなくなるのではないかとか、そんなこと考える余裕なんて何もなくて。もしかしたらあの機械なら、何か助けられる方法が本当にあるのかもしれないと、藁にもすがる思いで触手に掴みかかっていた手の力を抜いた。
     触手の中で顔だけ見えた18は蒼白で、既に生きているのかも分からないくらいなのがまた不安を増長させる。
    「早く」
     さっきまで引き留めていた自分なんて居なかったみたいに何度も叫んで急かす俺を尻目に、クリーパーたちが触手伝いに18を母船へと運んでいく。早々に母船の側面を這い上がるクリーパーが見えはしたが、その時にはもう18の姿なんてクリーパーの大群の中で見えやしなかった。
    「ミッキー!」
     それから数分だったのか、たった数秒しか経っていなかったのか、それすらも分からないほどに放心状態だった俺を呼ぶナーシャの声で我に返る。興奮して18はどうしたのかと問い詰めるナーシャに、混乱で何も言葉に出来ない俺はナーシャの腕を掴み、途端に母船に向かって駆け出していた。
     ラボに着いた頃にはマシンの中にいる18が目に入った。既に無くなっていたはずの腕は肘あたりまでのリプリントが完了している。ちょうど胸郭から下の部分にリプリントが始まっているようだけど、18の呼吸がか細く、顔色が悪いのは相変わらずだ。
     健常な腕の方には何本か点滴が繋がれてるけども、俺にはそれがなんの薬剤かは分からない。
     母船から手を振っていた彼女が俺を見つけて駆け寄ってくる。その顔は嬉々として目を輝かせていて、動揺している俺が間違ってるみたいな気分にまでさせる。
    「すごいわ、ミッキー。この身体なら出血多量で既にショック状態になって死んでいてもおかしくない。ママ・クリーパーの唾液で傷口が止血されてる。本来は治癒能力があるかもしれないけど、人体に影響を及ぼしたのは止血効果だけみたい。でもそのおかげでラボに着くまであの身体で耐えられたの」
     興奮して褒めてくれているのは分かるけど、18の姿を見ていると、同じ人間としての扱われ方をされてる気がしないなとつくづく思う。彼女自身にそんなつもりはなくて、彼女は実験に真剣に向き合ってて、俺は実験の協力者ってだけで見下してるわけではないのは分かるけど。でもやっぱりなんだか複雑ではある。
     そんな俺の苦笑いにも首を傾げて彼女は最新技術について嬉しそうに語り続ける。
    「この部分的なリプリントは欠損部位の死んだ細胞をマクロレベルで切断・除去して、そこから新しい組織をリプリントしていくの。だから人体の活動を最低限度に、仮死状態にした上で断面の出血を抑える必要がある。本来ならこれだけの重症だったら薬剤で仮死状態にまで落とせばそのまま生命維持出来ずに息絶えてしまうの。だからこれは今までは実験段階の技術でしかなくて、今後も応用は不可能と言われてきた。ママ・クリーパーの止血効果と18の生命力で奇跡が起きてる」
     混乱した今の頭ではほとんど理解はできなかったけど、18がまだ生きているんだと、ただそれだけを理解して少し冷静になれた。モニターに映る波形が脈打ち、数字が0より上を表示する。それだけがまだ生きていると分かる判断材料でしかない。忙しなくマシンとモニターをいじる研究員を眺めてるしか出来なかった。
    「ねえ、ミッキー。今までの16人のミッキーが死んでは生き返ってきた。貴方が受け継いできた"生命力"が18を生かしてる。素晴らしいことよ!」
    「俺たちが、18を生かしてる……」
    「そう!貴方だからよ、ミッキー!」
     それはなんだか母船のゴキブリのようで確かに俺に似合ってるとなとは頭をよぎったけど、でもこれで18が助かるならゴキブリ並みの生命力も悪くはないなと思った。
     その後の俺はと言えば、18がリプリントされ続けているなか、がっちりと固定されていたベストや装備品を脱がされて、全身くまなく健康状態を確認された。心配されているというよりは、バックアップが無くなったエクスペンダブルとして、部分リプリントをした18の予後を研究するためには比較対象となる健康的な同個体が必要なんだとか。俺自身を心配してくれるのは隣に座って手を握ってくれているナーシャぐらいなのはトップを消しても同じらしい。
     健康診断(笑)は早々に終わって、何時間もマシンを遠目に眺める。膝あたりをリプリントする頃には、18の呼吸は少し穏やかになっていた。だけどもいまだに顔色の悪さは変わらない。リプリントが完了すれば人工血液の輸血をするとも言っていた。部分リプリント中では断面の血液供給が高まると出血して逆に血が止まらなくなるようで、成分輸血を通常よりも少量で投与するしかないとも言っていた。投与時間に時間が掛かると成分が固まって血栓リスクがどうとか話してたけど俺にはよく分からない。
    「ミッキー」
     いつの間にか疲れ果ててナーシャの肩でウトウトしていたら、彼女の優しい声が俺を呼んだ。
    「終わったわ」
     その一言で飛び起きる。マシンにはもう誰も入っていなくて、ナーシャに腕を引かれて少し離れた場所に設置されている簡易ベッドの前までくる。そこに18は横たわっていた。
     足の指の爪の先までしっかりとリプリントされて完全な肉体に戻ったけれど、一向に目を覚ます様子がない。研究員たちが言うには、薬剤で仮死状態まで生命活動を低下させていたものを今度は別の薬剤で活性化させていて、やっとバイタルの安定を確認したところだという。難しいことは分からないけど、あとは目覚めれば一安心ってことらしい。
     目覚める保証もないとも言われた。目覚めないかもしれない。その不安に下唇を噛み締めると、ナーシャが少し強く俺の手を握り直してくる。大丈夫だと腕を摩られて、数度頷くしか出来なかった。
     それからまた何時間も待った。18の顔を眺めてずっと待機する。ナーシャと交代で交互に肩を借りて仮眠をとりながら、18が目覚めるのをジッと待つ。後から確認したら、爆発が起きてから26時間経過していたらしい。
     ふと18の呼吸が乱れ、モニターのアラーム音が鳴り響く。立ち上がって見下ろしたその額に汗を滲ませて呻き声を上げていた。それだけで俺は18が生きてることをやっと実感して、唇が戦慄いて止まらない。
     繋ぎ目と思われる胸郭下には傷痕のようにケロイドのような色をした線状の痣ができている。リプリントの試作品技術で繋ぎ足したものだからだろうか。完全に新しい部分とは違って不完全な皮膚組織を思わせる。脇腹へと続く線はきっと背中をぐるりと一周回ってるんだろう。血は出ていないのに生々しさが残っている。
     震える瞼の下から覗いた瞳が俺の顔にゆっくりと焦点を当てて瞬きを繰り返す。それからゆっくりと引き上げられた口角から鋭い歯が見えた。
    「奇数は、お前担当だったろ」
    「まだ18.5だからセーフだよ」
     その凶暴さが具現化されたような犬歯は、間違いなく17の俺にはない18だけに発生した歪みであり個性だ。きっと記憶を引き継いで19が生まれたとしても、この顔にはならない。
     嗚咽を噛み殺す俺の胸に、数時間前までは失っていたはずの18の手の甲がぶつけられてしまえば、堰を切って涙が止まらなくて。
    「汚え、落とすなよ」
     鼻で笑った18の手を握って、その時はただひたすら眼球が萎むんじゃないかってほどに泣き続けた。嬉しかった。怖かった。痛かった。全部全部後から頭で理解して、安心も苦しみも全部が感情の滝となって目から溢れていった。
     本当の愛しさや尊さはこんなに辛く切ない感情なのだと、その時初めて俺は知った。
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