抱きしめるだけだよ?(最悪だ)
真っ白な部屋に閉じ込められたアメリカはそう思った。もう一度、今の状況を理解するために周りを見る。壁も床も白く、小さな白い机に虫眼鏡とストップウォッチが置かれていることと、あとは…まだ気絶しているロシアがいる事以外何もない部屋ということしか分からなかった。
(大体、なんでロシアと一緒なのか意味分かんないんだぞ。閉じ込めるんだったら、せめてハンバーガーとコーラくらい用意して欲しいんだぞ!)
そんな事を考えているとロシアがもぞもぞと動き出した。相変わらずシロクマみたいな動きだ。のっそりと上体を起こして、目を軽く擦った後に2、3回くらい瞬きをした。
「あれ?なんでアメリカ君がここにいるの?」
「そんな事知らないんだぞ…」
どうやらロシアもここに閉じ込められた理由は分からないようだ。そんなことよりお腹が空いたんだぞ…。もう3時間くらい何も食べてないんだぞ…。
「ねぇねぇアメリカ君、こういう感じの部屋に閉じ込められてるのって僕たちだけかな?」
他の子も同じ状況だったらいいね♪じゃないんだぞ!!ずっとこのままの状態が続くのは嫌なんだぞ!どうせ出られないんだったら日本かカナダかイギリスがいいんだぞ!あ、そういえば日本がウスイホンの定番ネタ?で部屋に閉じ込めてお題をクリアするまで出さないみたいなこと言ってたような…って、今まさにそういう状況じゃないか!?
「ロシア、少し協力して欲しいんだぞ」
「僕と?珍しいね、君からそんなこというなんて」
「ここから出るためにはお題をクリアしなきゃならないんだ。」
ふむふむと頷いた後でロシアは
「そのお題ってどういうの?」
「まずはそのお題がなんなのかを探すのを手伝って欲しいんだぞ!」
見下ろすように立ち上がってから言った。ロシアはびっくりしたのかしてないのかよく分かんない顔をしてから、すぐにいつもの何か企んでそうな笑みに戻った。
「アメリカ君の提案で動くのは癪だけど、いいよ。どこから探す?道具とか使うのかな?あ、道具って言ったら僕の水道管ないや」
困ったとか言ってるけど、顔は全然困ってるようには見えないんだぞ。ロシアが言ってたけど、道具か…。と言っても、ストップウォッチが一個と虫眼鏡が二個あるだけなんだぞ。何ができるっていうんだい?
「アメリカ君、なんで虫眼鏡があるのか気にならない?」
「確かに、観察するようなものも近くにないしな。気になるんだぞ」
二人で考えてみても、答えらしいものは思いつかなかった。考えても仕方ないから行動することにした。俺はドアを壊すか外すことができないか試してみたが、失敗。他にも色々としてみたが、ドアはビクともしなかった。バッファローも持ち上げられるヒーローの俺の筋力でも動かせないなんて、ドアのくせにやるんだぞ。ドアを破壊する以外に方法がないか考えていたら、ロシアが何か見つけたみたいで呼んでいる。
「あのね、アメリカ君。ここの壁の隅っこに字が彫られてるみたいな凸凹があるんだ。試しに虫眼鏡を使って見てみない?」
そう言ったロシアの手には虫眼鏡が握られていて、片方を俺に向けていた。俺は取り敢えず素直に受け取った。最初にロシアが見てから俺が見ることにした。ロシアが見て、何が書いていたのか言えば良いじゃないか、って言ったら
「アメリカ君が僕が言ったことを、素直に信じてくれるならいいけど、そうじゃないんでしょ?だったらお互いに見たほうが効率的じゃない?」
そう言った後に虫眼鏡を使って壁を見始めた。文字が小さいのか、書いてある文が長いのか、意味不明な内容が書かれているのか、ロシアが壁を見ている時間が長い。待つのも疲れるんだぞ……。
「待たせてごめんね。内容が内容だったし、理解するのに時間がかかっちゃたんだ。次はアメリカ君の番だよ」
なんか気まずそうな顔をしてるけど、そんなに嫌な内容なのか?取り敢えず見てみるんだぞ!……は?なんだい?5分間相手とハグしないと出られない部屋?ロシアとハグしないと出られないって言うのかい?ふざけるな
「ロシア、ここに書かれている内容は何だったかい?」
「5分間相手とハグしないと出られない部屋って言うふざけた内容だったよ。」
見間違いじゃなかったみたいだぞ…。冗談でも嫌なんだぞ!!なんでロシアとハグしなきゃいけないんだい!?ふざけんなだぞ…。
「ねーアメリカ君、ドアにはもう色々としてみたんでしょ?ドア以外に外に出られるところないか探してみない?」
お互いにあのふざけたお題は最終手段だと思っているのが分かったし、断る理由もないから頷いた。壁の方はロシアが調べて見つかったのが文字だけだったみたいだし、床も調べても何もなかった。残るはストップウォッチと白い机だけだ。
「アメリカ君の力を疑ってるわけじゃないけど、僕もドア壊せないか試してくるね」
ロシアがそう言ってから俺は床に寝っ転がった。どう考えてもあのお題をクリアしなきゃ出られない気しかしないんだぞ…。ロシアがドアの方に行く前に机もストップウォッチも調べたが何も仕掛けられてなかった。一緒に閉じ込められたのがロシア以外が良かったと何度も思った。
「アメリカ君、僕でもドアを壊せなかった。やっぱりあの水道管がないと無理みたい。」
しょんぼりした顔で近くにきたロシアに気づいて上体を起こした。
「お題どうり5分間ハグする?」
「嫌だぞ」
「なんで?」
「嫌なものは嫌なんだぞ!!」
「えーでも、僕はアメリカ君のお願いを聞いてあげたよね?だったらアメリカ君も僕のお願い聞いてよ。ヒーローなんでしょ?」
「っ………。」
「なんとか言ったらどうなの?自称世界一のヒーロー君?」
「自称じゃないんだぞ!!」
「だったら、大人しくお題実行しようよ。ね?僕だってしたくてする訳じゃないんだから。」
「……わかったぞ。」
「うふふ、アメリカ君ならそう言ってくれると思ったよ」
ストップウォッチをセットしてから、両手を広げて待っているロシアに正面から抱きしめられた。カウントダウンが始まった。
本当に嫌だぞ。親しくもない相手とハグしなきゃいけないんだい……。このお題を考えたやつは相当趣味が悪いんだぞ。にしてもロシア、体温高いんだな。てっきり低いのかと思ってたんだぞ。こんな状況なのに空腹だからかちょっとだけ眠いんだぞ…。残り4分。やっと1分経ったんだぞ。5分って思ってたより長いな。会話しなくてもいいのは楽でありがたいけど、流石に暇なんだぞ。でもさっきまで言い合いしてたしなぁ、顔を合わさないで自分家の美味しい食べ物の話とか宇宙の話でもしようかな?いや、でもなぁ…。残り3分20秒。後もうちょっと耐えればいいんだな。それにしてもロシアが喋らないのが気になるんだぞ。いつもみたいに嫌味のひとつくらい言ったらどうなんだい?イギリスじゃないから皮肉とかは苦手なのかい?黙ってると君が悪いんだぞ…。残り2分38秒。今まで何もしてこなかったロシアが俺の頭を撫で始めた。急に何するんだい!?こっちは君の背中に腕を回した途端に腕が動かせなくなったのに!
「アメリカ君の髪の毛って手触りいいね。イギリス君に育てられてたからかな?」
ロシアがそう言いながら優しい手つきで頭を撫でている。柔らかいけど硬いロシアの胸が今はいい枕にしか思えないんだぞ…。うぅ〜眠い。いや、寝たらダメだぞ!何されるかわからないからな!残り1分55秒。ロシアがナンタケットを弄り始めた。
「んっ」
思わず声が出てしまった。手で口が塞げないんだぞ…。
「あれ?どうしたの?変な声出てたけど、なんかあったの?」
「へ、変な声なんか出してないんだぞ!君の聞き間違いじゃないかい?」
そうだ。俺は変な声なんか出してないんだぞ。出してないって言ったら出してないんだぞ!
「ふーん、じゃあいっぱい触ってもいいよね♪」
「へ?」
宣言通り頭を撫でながらナンタケットも触ってくる。やめてほしいけど上手く声が出せないぞ…。下唇を噛んで無理矢理抑えるのも限界があるし…。
「や、やめてくれロシア!何が目的なのか分かんないけど、頭を撫でるのをやめてほしいんだぞ!」
目をパチクリさせた後、目を細めて笑った。
「うん、わかったよ」
ほっとしたのも束の間、ロシアは確かに頭を撫でるのはやめてくれたが、ナンタケットを弄るのはやめてくれなかった。5分間経つまで弄られた。ストップウォッチが鳴ったと同時にロシアから解放された。ハァ、やっと出られるんだぞ。にしてもひどい目にあったんだぞ!
「ロシア、なんで急にナンタケットを弄り始めたんだい?」
「え〜、イタリア君達と同じなのかなって気になったからだよ?」
「そんな好奇心を満たすために俺を使わないでくれないかい!?」
「だってアメリカ君の反応いいんだもん。アレもコレも試してみたくなってくるんだ♪」
嫌な予感しかしないぞ…。
「じゃあ、出よっか。」
「一番に出るのは俺なんだぞ!」
そう言って、勢いよく飛び出したら
「よう、二人とも随分と仲良くしてたな。」
「え?イギリス、なんで君がここにいるんだい?」
奥にフランスと日本とモニターが見えるけど、何か映画でも観てたのかな?
「アメリカ、ちょっと俺といい事しないか?」
「もちろんするんだぞ!!」
正直、この後の事は言いたくないんだぞ……。