👹👟←🦊「シュ、ウ」
「うるさい、これ以上喋ったらぶん殴る」
どうしたらヴォックスを助けられる。まず血を止めなきゃ、僕の今までの治療経験から
____この状態から回復できる可能性なんて
自分の理性の部分が訴え続けているそれを一蹴してひたすらに手を動かす。
でも、僕は知っている。ほんとは、こんな状態からなんて、ぐるぐるぐるぐる、頭が痛い。何も考えられない。ヴォックス、う゛ぉっくす、
不意にボロボロの、皮膚が爛れた血まみれの手が頬に触れた。生暖かいそれが、肌に優しい。
ふと顔を見ると清々しいぐらいに笑った顔。
なくな、
はくはくと力なく口を動かす。音にならない声。
泣いてない、泣いてないよバカ、人の心配してる場合か。終わりみたいな顔して。
「シュ、う」
「ばか、だから話すなって」
「キス、して」
遮るように聞こえたその言葉はいつものと同じなのに、あの、全てを包み込んでしまうような低くて暖かい声が今にも消えてしまいそうなほど小さくて。
なんだよ、その言い方。もっと明るくいつもみたいな調子で言ってきてよ、なんで、なんで。
脳よりも先に身体が動いた。
史上最悪のキス、血が口の中を汚した。砂利の味と火薬の味が混ざっていた。
キスなんてとても呼べたものじゃなかった。
でも、まだ温もりのあるそれにこんなにもほっとする。でもきっと。
ヴォックスはここで死ぬんだ。
ぼたぼたぼた、血だか涙かわからないものが溢れて止まらない。ただただあんたが生きてることを1秒でも感じたくて抱きしめた。その爛れた手で、誰よりもかっこいいその手で僕を撫でるヴォックスが、
なくな、
また口がうごいた。ばか。だから泣いてねえってば。なぁ、僕、あんたのことこんなに好きだった。こんなに訳わかんなくなるぐらい。今初めて伝えられる気がするんだ、ねぇ。
「ヴォックス、おれ、ヴォックスのことこんなにっ、好きだった、いまきづいた、いま、やっときづいたんだ」
ヴォックスの顔にぼたぼたと自分の涙が垂れた。そのまま染み込んでその乾いた肌を、焼けた肌を潤してくれればいいのに。
「はゃ、く、ぃっ……てくれ」
口から血を流しながら、でもいつもの表情で、その柳眉を困り眉に、口角を上げながら言ってくれる。
もう、終わりにしよう、と治療する速度を緩めた瞬間、右の頬に激痛。ぶたれたのだ。
見上げたら清々しいほどの青が燃えていた。
「見た目からして死にそうなのはこっちだって分かってる!!!!でも1番そばにいたシュウがなんでもう諦めんの!そいつはほぼゴリラだから、もしかしたら、治るかもしれないじゃん!!今までの経験則に、ヴォックスを当てはめるな!」
シュウだけは諦めてくれるな。
と言わんばかりだった。言葉は確かにその通りでもう一度布を強く押し付け止血しながら口で救急パックの袋を破く。ぶたれた頬の痛みはもうない。
「お前もお前だヴォックス!!なに寝腐って諦めたような顔してんだよ!!お前の大好きなシュウと両思いなんだぞ、このまま死んでいいのかよ!!俺がとっちゃうからな!!」
「そ、れはぃ……や、だなぁ、」
自然とやるべき事が分かっているからか驚くほどスムーズに手が進む。弾薬をピンセットで取り除いて止血包帯をきつくきつく巻く。その間にもミスタが腹の出血を強く抑えて止血してくれていた。
その手からも血が流れているのに。
できることは全てした。
もうあとは神様とやらを信じるぐらいしかできることは無かった。
神様なんて今まで崇めたことも信じたこともないけど、
どんな神様でもいいから。
この願いだけを、どうか。
神様より、天使より、信じるべきものは。