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    ii0314

    今は主にピオイアや長晋、エドシロとか書いてます。他のもジャンル転々と書いたり書かなかったり。
    基本pixiv前に先行して投下してます。

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    ii0314

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    長晋4本目
    少年時代弓道やってた高杉さんネタ
    捏造含みます

    ゆるめに弓道やってたけどにわかみたいなものなのでおかしな点は目を瞑って下さい。

    角灯はいずれ戸惑いをかき消した 森くんが格好良く見える。
     それに気がついたのは先の食堂での出来事。いや、出来事と呼べるほどのことはない。ただ森長可という男を視界の端に捉えただけだ。すでに食堂にきていた坂本と岡田に声をかけ、さて今日はどうするかと思考していた時のことであった。少し離れた場所で織田達と共にいる彼。戦場での彼からは想像がつかないほど綺麗な所作で白米を口に運ぶ。その手つきに、いや森長可の存在に目を奪われてしまった。
    「どうしゆう」
     そんな一秒にも満たない高杉の異変に目敏くも岡田が気づいてしまった。飯を口に運びながら、食事中の雑談範囲を超えない声色であったことが救いであった。
    「・・・・・・用事を思い出した」
     すっと迷うことなく立ち上がる。岡田たちを適当に誤魔化してここを去ることは簡単だ。それをしなかったのは顔に集まる熱をコントロールできる自信が無かったから。
     何か声をかけようとしてきた坂本の右を通りすがる。前髪で表情が見えないだろうことも幸いし、足早に食堂を離れた。
     どうしたのか、なんてこっちが聞きたい。異様に格好良く見えてしまったこの視界を、意識を霊基異常ならば早く通達して欲しいほどだ。でもそれが何の異常もなく起きていることを自身が一番理解している。
     食堂を出て向かうはシミュレーター。とにかく人の居ない場所に向かいたかった。

    ***

     カルデアには百を超えるサーヴァントがいる。正確な数は把握していない。けれどかなり数は多く、未だ顔を合わしていないサーヴァントもいる。それはマスターにとっても同じことで、用があって探さなければ会う機会を得られないサーヴァントもいるとのことだった。であるならば。高杉が数日顔を出さない程度、気に揉まれることはあるまい。夜は自室に戻っているわけだし、用があればシミュレーターの使用記録を辿るなりどうとでもなるはずだ。
     スパンッ、と的を射る音が届く。精神統一をするならこれが一番手っ取り早い。矢を放った後の余韻、残心を終え足下に重ねた矢を拾う。体勢を整え直し、矢をつがえて大きく一息。邪念を捨て精神を整える。的は狙わない。立ち位置が正確で、所作が正しく成されていれば自然と的を射ることができる、それが弓道というもの。弓を起こし頭上へ、そこからできるかぎりゆっくりと弓を引く。他に誰も居ない、静かな弓道場に弓がしなる音だけが聞こえる。矢が口元まで降りてくる。真っ直ぐに的を見据えて数秒後、乾いた音が空を切った。
     持ってきた矢が全て無くなる頃には陽が傾いていた。改めて弓道場内を見渡す。この場所は赤い弓兵から聞いたものだ。以前弓道だかアーチェリーだかの話を一部のアーチャークラスの者たちが話していた際話題に上がったのがシミュレーター内のこの場所だった。それを覚えていた高杉は当人に尋ね、物はどうしたものかと思っていたところ何を聞くでもなく弓と矢を合わせて渡された。更にはゆがけまで用意されているとは、高杉はすっかり素手で射ることになるかもしれないと思っていたのに。
     少年時代の習慣からか、弓道場内をしっかりと掃除し、終えた頃には完全に陽が沈んでしまっていた。さすがにここで寝泊まりする気は無い。弓と矢はそのままにシミュレーターを後にした。

     そうして数日。効果があったのかは定かではない。幸い戦闘で森と組まされることもなかった高杉は何事もなかったように日々を過ごせていた。ただ、度々あの弓道場を訪れては弓を引いた。そのうち他のアーチャーも足を運ぶようになり、時折賑わいを見せた。日本に縁のないサーヴァントはいくらアーチャーといえども戸惑いを見せ、数度でコツを掴む者もいればやはりいつもの獲物が一番と投げ出す者もいた。驚いたのは弓と矢を用意したあの赤い弓兵が一本も的を外さないことだ。止まっている的に当てることなど目を瞑ってでもできる、なんて言っていたのを思い出す。どうにも鼻にかかる物言いだが、その正確さは本物で。負けず嫌いのきらいがある高杉でも、百発百中ならぬ千発千中を見せられては最早感嘆の声しかでなかった。さすがは様々な時代の英雄が募る場所と言ったところか。同じアーチャークラスであるのに高杉は集中を崩すとすぐに早気になったりと的を掠めてしまう。精神統一には良いものだが作業としては単調なものなのだ。飽きがきていないだけましであろう。そう、単純作業ではあるのに何故だが高杉は弓を引くことは嫌いではなかった。集中力に斑はあるが、調子が良いときは何時間でも引き続けられた。そうして没頭することで、当初の高杉の思惑通りいつしかこの弓道場に足繁く通い始めた理由は余所に追いやられていた。

    ***

     深夜のカルデア内は静寂に包まれており、人の気配はない。サーヴァントは霊体化しているだけの可能性はあるが魔力感知するほどのことでもない。姿を消しているものが敢えて声をかけてくるわけもない。
     余った部品から制作した角灯がほんのりと足下を照らす。これまでも時間を忘れて弓を引き続けることはあっても、ここまで遅くなったのは初めてだ。暗い廊下を歩み進め、ふと人影が視界に入る。その人影の形と、暗闇の中でも認識できる紅の髪を捉えたとき、手元の角灯が如実に戸惑いを表した。
     何故こんな時間に廊下を歩いているのか。そのまま自分に返ってきそうな言葉が脳裏を過る。角灯が僅かに照らす彼の後ろ姿。まだ全体が見えてもいないのに顔に熱が集まるのを自覚してしまった。慌てて踵を返し、最大限足音を立てぬよう配慮して走り出す。
     再度シミュレーターに入った頃には走ったからか高揚によるものか判別のつかない熱が体全体に広がっていた。乱れた呼吸の理由もわからずひたすらに息を整える。なんのことはない、これまで行っていたのは現実逃避以外の何物でも無かった。運良く視界に入らず、近々関わることもなかったから思考の端に追いやれていただけだった。最早実害がありそうな動揺に顔を伏せって道場内を転がる。どうするべきかと思考を巡らせたまま静かに意識を手放した。

     スパン、とここ数日幾度も聞いた音で意識が浮上する。朝の日の光が閉じた瞼へも浸食しており、明朝特有の冷たい風に身を震わせる。もう一度、小気味いい音が聞こえてくる。昨夜はどうしたのだったか。痛む節々に自身が寝転がる底が固い床であることを認識する。そうだ、ここは弓道場で、であるならばこの音は誰かが弓を引きにでも来たのだろうか。こんな明朝から弓を引きに来るなんて変わったやつもいるものだ。
     寝ぼけ眼にその人物を捉えようと顔を上げる。朝日が逆光となり判然としない姿を右手で陽を遮ってなんとかその輪郭を認識し、そして。
     がばりと身を起こした。
    「君、弓も嗜んでいたのか!」
     驚きの声をあげる。最初に出る言葉がそれか、と心の中で思いつつも動揺を禁じ得ない。いつもの鎧姿ではなく、白い着物のままであったが昨夜見たばかりの後ろ姿と赤い髪は間違えようもない。
    「おぉ、目が覚めたかよ」
     弓をつがえた直後であった彼は高杉を一瞥することなく弓手を構える。弓道の基本動作、射法八節を丁寧にこなしていく。一つ一つの所作から基本がしっかりと備わっていることが見受けられ、不覚にも見惚れてしまった。この数日で何人もの弓を引く姿を見たのに、生前にも見てきたのに、高杉にとっては一番綺麗で凜とした佇まいであった。
     弓手から離れた矢が真っ直ぐとしなり一直線に的を射貫く。それで手持ちの矢が無くなった森はようやっと高杉を視界に入れた。
    「てめぇオレのこと露骨に避けやがって」
     第一声。不機嫌を隠す気もなく告げる。ずんずんと高杉との距離を縮めてくる。未だ床にへたり込んでいる高杉の視界から彼の顔が外れる。
     避けたことは意図したものではない。最初と昨夜はわかりやすく逃げたが、それ以外は本当に運良くたまたま遭遇しなかっただけだ。そう言い訳したいのに口ははくはくと空気を吐き出すだけだ。言葉に出ない。
     だってあまりに格好良くて、こんなのずるいじゃないか。

     ゆがけを外した森が弓を床にそっと下ろす。そんな些細な動作でさえ胸を締め付けるには十分過ぎた。
    「どこからが髪かわかんねぇな」
     これ以上ないほど赤く染まった高杉の右頬を、桃色の髪ごと森が掴んだ。にっかりと笑った顔に、もう駄目だと自覚してしまった。目を逸らし続けた感情の実体を掴む。溢れ出た感情はとっくの昔に名前を知っている。悔しくもあるが、抑えることなんてできない。そんなこと、食堂で視界に捉えたあの瞬間からわかっていた。
    「森くん、君のことが、」
     これ以上赤く染まる顔を見せまいと、彼の背中に腕を回した。
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    ii0314

    DONE長晋3本目
    特異点SAITAMA以来の遭遇をカルデアで果たした二人が、最終的に二人で深夜にラーメン食べる話。
    二度目のラーメンも優しさの味がした。「うわっ」
     カルデア内の曲がり角、何か面白いことでも思いつかないかと当てもなく歩いていた昼下がり。角から現れた大男とぶつかる寸前で一歩足を引いた。カルデア内はもっと巨体の、人だかそうじゃないんだかなものも多いが高杉の知っている基準では十分大男に入る人物が角から顔を出した。
     反射的に出た声は何もぶつかりそうになったからだけではない。真っ赤な髪との境目がわからなくなるほど血濡れた顔や鎧。その装いに少なからず驚きを得たからだった。
    「一応聞くがそれは全て返り血か?」
     一体どこまでが返り血でどこからが彼の血なのかまるで判別がつかない装いの彼に声をかける。彼の逸話を聞く限りでは全て返り血でも不思議ではない。ましてやマスターとのシミュレーション帰りであるならば治療もせずに廊下を闊歩しているわけもなかろうことは予想ついていた。気に留めるほどでもないと思いつつ、それでも声をかけてしまったのは、認識した手前無視するのもどうなのかという気持ちと、幾ばくかの興味。SAITAMAで初めて出会った彼のことを少しばかり気にかけていた。あわよくばもう少し話してみたいとも思っていたのだ。
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