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    ii0314

    今は主にピオイアや長晋、エドシロとか書いてます。他のもジャンル転々と書いたり書かなかったり。
    基本pixiv前に先行して投下してます。

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    ii0314

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    長晋3本目
    特異点SAITAMA以来の遭遇をカルデアで果たした二人が、最終的に二人で深夜にラーメン食べる話。

    二度目のラーメンも優しさの味がした。「うわっ」
     カルデア内の曲がり角、何か面白いことでも思いつかないかと当てもなく歩いていた昼下がり。角から現れた大男とぶつかる寸前で一歩足を引いた。カルデア内はもっと巨体の、人だかそうじゃないんだかなものも多いが高杉の知っている基準では十分大男に入る人物が角から顔を出した。
     反射的に出た声は何もぶつかりそうになったからだけではない。真っ赤な髪との境目がわからなくなるほど血濡れた顔や鎧。その装いに少なからず驚きを得たからだった。
    「一応聞くがそれは全て返り血か?」
     一体どこまでが返り血でどこからが彼の血なのかまるで判別がつかない装いの彼に声をかける。彼の逸話を聞く限りでは全て返り血でも不思議ではない。ましてやマスターとのシミュレーション帰りであるならば治療もせずに廊下を闊歩しているわけもなかろうことは予想ついていた。気に留めるほどでもないと思いつつ、それでも声をかけてしまったのは、認識した手前無視するのもどうなのかという気持ちと、幾ばくかの興味。SAITAMAで初めて出会った彼のことを少しばかり気にかけていた。あわよくばもう少し話してみたいとも思っていたのだ。
     声をかけられたことで漸く高杉を認識したのか。鬼武蔵の名を現すが如くの形相で視線だけを高杉に向けた。
    「んだてめぇかよ社長。・・・・・・あ?もう社長じゃないんだったか?」
    「確かに今は違うが、近々そうなるのも吝かではないな」
    「なんかやろうってんなら今度こそその首獲るからな。それとも今殺っちまうか!」
    「おいおい、悪巧みとは言ってないだろ!」
     断定的に今すぐ殺しにかかってきそうなバーサーカーに否定の声をあげる。悪巧みしてないとも言ってないがそれはそれ。楽しそうに笑ってのける彼が高杉の問いに答える気配はない。冒頭の質問を覚えてるのかすら怪しい
    「で、なんだったか・・・・・・。この血か?」
     返ってこないだろう問いに、これは全て返り血だなと結論付けたとほぼ同時。思い出したように突如笑いを止めた。この感情の読めなさは狂化スキル故なのか本来の性質か。
    「なんだよ社長も血浴びしたかったなら言えよ。殿様に言ってもっかい暴れるか!」
     返答になっているのかいないのか怪しいが、血浴びである以上自分の血ではないのだろう。ここまで血飛沫を浴びるほどとはどんな戦い方をしたらそうなるのか。意図的でもここまで血濡れになるのは難しそうだ、と思考して存外興味が沸いてきていることに気づいた。
     とは言っても高杉自身が血浴びをしたいわけではない。その意思を伝えるべく見上げた男はもうその場にはいなかった。驚いて辺りを見渡すと廊下の奥の方でマスターに声をかけている森の姿が視界に入った。完全に止めるタイミングを失った高杉はたまには良いかと、装いを黒と朱の混じった和装へ切り替えた。
     これが高杉と森のカルデア内でのファーストコンタクト。特異点SAITAMA以来のやりとりであった。

    ***

     森に捕まった高杉はマスターの素材集めとやらに駆り出され、午後いっぱい森とともにシミュレーターに居座ることとなった。
    「人間無骨!!」
     高杉のスキル破天の麒麟児と、どういう仕組みか足下に花を咲かせた男のスキルで攻撃力を強化された森が叫びながら敵に突っ込んでいく。刺した敵を空に掲げていればそりゃ血塗れになるわけだ、とどこか冷静に納得しながら高杉自身も剣を振るった。
     共に並んで敵を切り伏せても、森と違って高杉は殆ど血を浴びていない。正確には衣装の色合いもあって血を浴びていても目立たない。それは返り血であれ自分の血であれ同じこと。
    「げほっ、ごほ・・・・・・。元気だな彼は・・・・・・」
     午前中もマスターと素材集めをしていたのではなかったのか。微塵も疲れを感じさせない、逆にまだまだ暴れたりないと言わんばかりの森を尻目に口元の血を拭う。やはり、装いを変えておいて正解だった。
     少し離れた位置から聞こえるマスターの声が今日のシミュレーションの終わりを告げた。素材はまだ足りないから良ければ明日も、と告げるマスターに考える素振りを返す。ただそれも振りだけで、勢いよく敵陣を駆け抜ける鬼武蔵と呼ばれる彼の戦場の姿は見ていてとても飽きないものであった。彼がいるのならまた明日付き合ってみるのも悪くない、なんてことは口には出さず。気が向いたらとだけ伝えてシミュレーターを後にした。
     シミュレーター後の彼の動向に興味がないと言えば嘘になる。ただ恨めしくも高杉の体にはその余裕はなく、シミュレーターを出て別れた森の後ろ姿を目で追うこともなく真っ直ぐに自室へ赴いた。
     正直、シミュレーター内でも何度かマスターにバレるのではないかと思う瞬間があった。しかし、これまたどういうわけか目の前を花が過ると手元にあったはずの血が消える。高杉の髪の色にも似た品種不明の春色の花だけが手元に残っていた。
     誰の仕業かは容易に想像がつく。何を成した英雄なのか、英霊として知識のインストールを行わない限り微塵も知らない男だ。されど高杉はその知識を求めることなく自室の布団へ沈み込んだ。

    ***

     素材集めに付き合うことは吝かではない。そう思っていたのは事実であれ、自らマスターのもとへ尋ねることもしなかった高杉は、何の因果か度々森とともに素材集めにでることになっていた。時には初回同様に廊下で森と遭遇して連れられ、時にはシミュレーター出発直前のマスター達に遭遇し成り行きで。森の戦う姿は見ていて刺激されることも多く、プロトアラハバキの改良にもインスピレーションを得られた。そうこうと断る理由もなく恒例行事と化してきていた何度目かの今日。昼前に廊下で会った森にまたシミュレーターに誘われるかと思ったが、どうやら今日は行かないらしい。
     それならば、とこれまで数度思考に及んでいた言葉を口にした。
    「よし、一緒にラーメンでも食べないか」
    「あぁ?」
     けして低身長ではない高杉を見下ろす男は不機嫌にも・・・・・・ではなく。デフォルトで瞳孔を開いたまま声をあげる。
    「何言ってんだてめぇ。死にてぇのか?」
     それが普段からの彼の物言いであることはこれまでの付き合いから十分に察せられた。高杉は気に留めることなく要件を続ける。
    「昼餉はこれからだろ? せっかくだからこの長州一イケてる僕と共にしようじゃないか!」
    「断る」
     いつも通り格好良く誘いをかけた高杉の言葉を森は取り付く島もなく一蹴した。
    「あっちょっ」
     今日も今日とて血塗れとなった彼は、廊下に滴り落ちる血も意に介さず廊下を突き進んでいく。その後ろ姿からこれ以上声をかけても意味ないことが見て取れた。
    「・・・・・・」
     行ってしまった、と高杉は独りごちた。共に戦闘シミュレーターでマスターの素材集めを手伝って、お互い知らない仲ではなくなったと思っていた。せっかくならばシミュレーター以外でも話をしてみたい。そう思っての問いかけであった。
     カルデアには面白い人物や武器、機械など幾らでもある。けれど特異点SAITAMA以来の彼との関わりで、どうしても気にかかってしまうことを高杉自身に自覚はあった。それがたた、面白いやつだからで収まる範囲なのか、それとも別の何かなのか。まだその答えは得られずにいる。

    ***

     ふと目が覚める。サーヴァントに睡眠は必要ないとはいえ生前の習慣はそう簡単に抜けられない。聖杯戦争や特異点といった戦場であれば話は別だが、カルデア内は夜間就寝するサーヴァントも数多いと聞く。
     高杉はのそのそと布団から足先をだし、下ろした髪を煩わしそうに払う。ゆったりとした動きでしかし目的が明瞭としている足取りで部屋の外へと足を向けた。
     廊下に出ると電気は非常灯のみとなっており今が真夜中であることを察せられる。長い淡色の髪が高杉の歩調に合わせて揺れ、ゆるやかに動きを止めた。灯りの少ない廊下に、隠れきれぬ影が視界に入ったからだ。この少しの期間で何度目かの出会い頭。片手では足りないことだけは把握している。
     まだ少し距離のあるからか彼の全身が視界に収まる。鎧を外している姿は新鮮だ。
    「夕方ぶっ倒れた割には元気そうじゃねぇか」
    「森くん・・・・・・」
     すっぽりと抜けた記憶に大方の察しはついていたものの、森の言葉で明確なる真実へと変わる。最早マスターもいつもの面子を呼ぶ感覚で森と高杉に声をかけた素材回収中。あと少しで今日集めたい分は終わるのだと言っていたマスターの顔だけはしっかりと記憶していた。
    「はぁ・・・・・・こうならないようにしていたつもりだったんだが」
     これまでも何度か吐血することはあれど、変化したスキルのおかげかシミュレーター中に大事に至ることはなかった。今後も問題ないと思っていた自身の甘さに内心舌打ちする。何より、マスターが気に病んでいないかが気がかりだ。
    「てめぇが気にしてるようなことにはなってねぇよ。あのなんだったか・・・・・・花のなんちゃらってやつが言ってたぜ」
    「!」
     その言葉から大体の事情を察する。幻術を使うであろう軽薄そうなあの男がどうやらうまく誤魔化してくれたようだ。何のためにしたのか、目的も意図も不明だが恐らくそれは高杉側ではなくマスターに由来する事情だろう。何か企んでいる故にとは見受けられなかった。彼に高杉のためを思う気持ちがなかったろうことは想像に容易い。高杉がこれまで見て推測できる花の男はそういう性質のものだった。だとしても、これは今度何か礼をする必要がありそうだ、と考えたところで高杉の腹が盛大に音を鳴らした。
    「・・・・・・」
     数秒の沈黙と、吹き出す声が頭上から降る。
    「なんだ、腹の虫も元気じゃねぇか!」
    「しょ、しょうがないだろ! サーヴァントになったというのに何故かお腹は空くんだよ!」
     サーヴァントは食事が不要なんじゃなかったのか。当てのない憤りを小さくもらす。そもそれが目的で、着の身着のまま自室から出てきたのだ。
     夜中だというのに特に音量を抑えることなく盛大に笑った赤髪の男は、日中とは裏腹に白い和装姿で高杉の腕を掴んだ。
    「うし、じゃあ行くか」
     高杉の手首を余裕で一周して余りある手が、無遠慮に高杉の腕を引っ張る。高杉に背を向けた大きな背中は、明瞭な足取りで目的地へと踏み出した。
    「待ってくれ、行くってどこに」
    「食堂だよ食堂。ラーメン食いたいんだろ」
     どう考えても血吐いた奴が食うもんじゃねぇけどな、なんて言いながらしっかりと高杉の腕を掴んだまま前へと進む。腕を引かれるまま後ろ姿を唖然と見つめていた高杉は、慌てて彼の歩幅へと合わせた。

     なんと手際のいいことか。戦闘時からは想像もつかない手際で厨房を漁り、場所も把握しているのか迷うことない手つきで食材を取り出した。大人しく座ってろ、と言われた椅子で手持ち無沙汰気味になった高杉は、何か手伝おうかと立ち上がったときには森が二つの器を持ってきており。目が合った高杉は浮かせた腰を再度椅子に戻すことしかできなかった。
    「なんか、僕が想像したラーメンと少し違うような」
    「文句言ってんじゃねぇ。いらねぇならオレが食う」
     そうは言いつつも強奪する気は一切ないようで、森は自分用のお椀に入ったラーメンに手を付ける。
     その中身は高杉のものとは違い普通のラーメンのようだ。高杉によそわれたものはというと溶き卵が和えてあり、少量入れられた野菜は麺と共に細かく切られている。一口啜ったスープは高杉が先日マスターと食べたラーメンより大分薄味であった。
    「君のも一口くれよ」
    「殿様の前で同じの食えるならやるよ」
     それって今日はくれないってことじゃないか。恨みがましそうに暫し隣のラーメンを見つめた高杉は、一つ息を吐いて目の前のラーメンを啜る。食堂に連れられるまでの間、森に腕を引かれながら通常のラーメンを食べられる自信がないことをどう伝えるか逡巡していた。結局伝えることができなかったというのにこうも見透かされていてはもう何も言えることはない。さらに悔しいのは、高杉用に味を調整されたこれが十二分に美味いことだ。なんともない日でも食べたくなってしまう。
     ただ、先の森の言葉は、またこうやって一緒にラーメンを食べてくれるとも取れる言葉である。
     それを少しの楽しみに、口に広がる薄味の優しさを飲み込んだ。
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    ii0314

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    特異点SAITAMA以来の遭遇をカルデアで果たした二人が、最終的に二人で深夜にラーメン食べる話。
    二度目のラーメンも優しさの味がした。「うわっ」
     カルデア内の曲がり角、何か面白いことでも思いつかないかと当てもなく歩いていた昼下がり。角から現れた大男とぶつかる寸前で一歩足を引いた。カルデア内はもっと巨体の、人だかそうじゃないんだかなものも多いが高杉の知っている基準では十分大男に入る人物が角から顔を出した。
     反射的に出た声は何もぶつかりそうになったからだけではない。真っ赤な髪との境目がわからなくなるほど血濡れた顔や鎧。その装いに少なからず驚きを得たからだった。
    「一応聞くがそれは全て返り血か?」
     一体どこまでが返り血でどこからが彼の血なのかまるで判別がつかない装いの彼に声をかける。彼の逸話を聞く限りでは全て返り血でも不思議ではない。ましてやマスターとのシミュレーション帰りであるならば治療もせずに廊下を闊歩しているわけもなかろうことは予想ついていた。気に留めるほどでもないと思いつつ、それでも声をかけてしまったのは、認識した手前無視するのもどうなのかという気持ちと、幾ばくかの興味。SAITAMAで初めて出会った彼のことを少しばかり気にかけていた。あわよくばもう少し話してみたいとも思っていたのだ。
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