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    rurisaka_gytn

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    転生学パロGive me the moonシリーズのその後。この先を書くかどうか悩み過ぎてだめ。

    Moonrakers 突然降って湧いた休日だというのに、何もする事がない。橙色の夕映えを頬で受け止めながら、本日幾度目かの欠伸をする。教師の仕事はやり甲斐はあれど激務で、こういう休みは貴重だ。先月、出張で留守にした同僚の穴埋めをした。クリーンな経営にこだわりのある理事長のお陰で、余計に働いた分は休暇を、という事になったのだ。そうして迎えた祝日でも何でもない木曜日、俺はすっかり暇を持て余していた。いつも通りの時間に起床し、ジムで一通りのトレーニングをこなしたものの、まだ時間がたっぷりある。困ったものだ。
     独りで生きる事には慣れていた。それなのに、恋人が出来る前の自分はどうやって日々を過ごしていたのか、まるで思い出せない。少なくとも、こんな風に暇だ暇だと考えてはいなかった。それだけは確かだ。口にする事さえ憚られる相手ではあるけれど、教え子に当たる竈門炭治郎という恋人は、止める間もなく俺の生活に入り込んできた。互いの休日は大抵この部屋で、慎ましい逢瀬を楽しんでいる。若者らしく外で遊べと言っても聞かないのだ。頭が固くて生真面目で、妙に大人びたところのある、それでいて可愛い少年である。恋人になる手前までは、互いに無理をしてまで会っていた。密やかに想いを確かめ合って以降、俺は節度ある付き合いを心掛けている。会わない時間が延びたところで、その分余計に愛おしさが募るのだ。俺はすっかり骨抜きにされていた。
     今日も明日も平日である。当然、炭治郎と過ごす訳にはいかない。ふと時計を見遣れば、下校時刻は過ぎていた。炭治郎の実家が営むパン屋へ行くのはどうだろう。ちらとでも顔が見たいという下心と、晩飯時の近い空腹とで、それはとても良い思いつきに感じられた。俺は早速、コートを羽織ってアパートを出る。数日前から良い天気が続き、分厚いダウンジャケットの出番は終わっていた。もうじき卒業式がある。春が顔を出す季節だ。俺は慣れた道を歩きながら、明日以降の仕事内容に思いを馳せる。竈門家は、のんびり歩いてもすぐに到着する場所にあった。
     下心を多分に含んだ見込みは外れ、パン屋のレジに立っていたのは、竈門兄弟の母親である葵枝だった。俺は気に入りのパンを二つほどトレーに載せる。炭治郎と会えずとも、空腹は紛れそうだ。トレーをレジに持っていくと、葵枝はにこやかにパンを包んでくれた。自分は、彼女の大切な息子に手を出した不埒な男だ。喉の奥が詰まるような罪悪感を抱きつつ、素知らぬ顔をして代金を支払う。どうせ諦められはしないのだから、葵枝に罪を懺悔して赦しを乞う事はない。適切な時期までは、罪の意識も自己嫌悪も、この恋ごと抱えるつもりでいた。
     ありがとうございました、という明るい声に見送られ、店を出る。少し歩いたところで、今度は炭治郎に似た面差しの少女と出会した。
    「冨岡先生。こんにちは」
    「ああ。今、帰りか」
    「はい」
     セーラー服の上にピーコートを着た少女は、炭治郎の妹の禰豆子だ。兄妹は仲が良く、四六時中一緒に居る。校則違反を繰り返す炭治郎を追いかけているうちに、この少女とも顔を合わせる機会が増えた。
    「兄はどうした。いつも一緒の電車で下校しているだろう」
     炭治郎はまだ学校に居るのだろうか。そう思って問いかける。禰豆子はスクールバッグを抱え直し、気まずそうな顔をした。
    「お兄ちゃんは、早退したんです。気分が悪そうだったから」
    「早退? 体調は、大丈夫なのか」
    「体調というか……」
     奥歯にものが挟まったように口ごもる禰豆子に、俺は不安を覚える。よほど具合が悪いのだろうか。冷たい風が吹き、禰豆子の絹糸のような長い髪が揺れた。
    「先生には、教えておきますね。お兄ちゃんは今日、特別なところに行ったんだと思います。ひとりで、こっそり」
     パンの入った紙袋を持つ手が震える。学校を早退してまで行くべき場所があるなんて、想像がつかない。炭治郎は校則違反常習犯であると同時に、折り目正しい優等生なのだ。禰豆子はスクールバッグの中を漁り始め、やがてペンとメモ帳を取り出す。
    「今日は帰りが遅くなるかも。お兄ちゃんは、この場所に行ってる筈です」
     可愛らしい文字で書かれていた住所は、車で二時間はかかる距離の町を示すものだ。禰豆子は急いでメモを破り取り、俺に差し出してくる。
    「気になるんでしょう。どうぞ」
    「いや、俺は……」
     そう言いかけて、ふと思い出した。かつて夜な夜な家を留守にした炭治郎に理解を示し、家族の説得に一役買ったのは、この竈門家の長女だった。禰豆子は、炭治郎と同じ秘密を共有している。それは前世の記憶とやらに関わっているらしい。俺は前世から漠然とした感情しか引き継いでおらず、話には聞いていても、前世があるという実感は持っていなかった。
    「ありがとう」
     俺はメモを受け取る。禰豆子は少しだけ寂しそうな顔を見せ、挨拶もそこそこに家の方へ走っていった。
     足早に来た道を戻る。アパートの駐車場が見えてくる頃には、半ば走っていた。禰豆子は俺と炭治郎の関係を見守るだけで、深入りはしない。それなのに今日に限っては、兄を迎えにいって、と、言外に頼まれた気がしたのだ。キーケースから車のキーを取り出し、運転手に乗り込む。買ってきたばかりのパンを後部座席に置き、すぐにエンジンをかけた。どうせ暇を持て余していたのだから、夜のドライヴの予定を入れたところで、誰に咎められる謂れもないだろう。

     メモに書かれていたのは、遠い町の市民会館の名称だった。どうしてこんな場所が炭治郎の特別なのか、俺には分からない。カーナビの案内音声を聞きながら、炭治郎の事を考える。去年の秋、堰を切ったように愛情を打ち明けてきた炭治郎は、百年抱えた想いを殺そうとしていたらしい。気持ちの整理がつけばいい、と自分に言い聞かせて、俺に手を伸ばしてきた。まんまと誘いに乗った俺が悪いのに、今でもずっと、全て自分の所為だと思っている。
     恋人だからといって、何もかもを明け渡せる訳ではない。炭治郎の葛藤も苦悩も、俺にどうこう出来るとは思えなかった。俺が夜道に車を走らせているのは、炭治郎を慰める為ではなく、傍に居たいからだ。何の役にも立てずとも、恋人をひとりにはさせたくない。なんとも愚かしい話だが、俺はたったそれだけの理由で、炭治郎に会いにいこうとしていた。
     目的地には予定より早く到着した。駐車場に車を停め、辺りを見回す。市民会館にしては随分と現代的な建物の玄関までは、舗装された並木道を通って行かねばならないようだ。街灯が葉を落とした木々を照らし出している。
     エントランスの手前にベンチが置かれていた。炭治郎はそこに座っていたが、深く物思いに沈んでいるようで、俺が歩いてくる事に気づかずにいた。妙に速い鼓動を宥め透かして、ゆっくりと近づく。炭治郎は上着の類を羽織っておらず、首元にマフラーだけを巻いていた。俺はわざとらしく炭治郎の目の前に立つ。俯いていた炭治郎は弾かれたように顔を上げた。
    「義勇さん……なんで……」
     何故、と聞かれるときまりが悪い。
    「禰豆子が、心配していた。学生がこの時間まで出歩いているのは好ましくない」
    「それは、そう、ですね……」
     炭治郎は心底驚いた顔で俺の顔を見つめている。そのあどけない線を持つ頬が赤い事に気づいて、俺は手を伸ばして両頬を包み込んだ。
    「冷えてる」
    「あ……ずっと外に居たから」
     炭治郎は俺の手に手を重ね、泣きそうな顔をする。泣き出されるかと身構えた。一線を踏み越えた時以来、俺は炭治郎の泣き顔に滅法弱い。しかし硝子玉のような瞳から涙は零れなかった。寧ろ、幸せそうに笑っている。
    「今日は、朝から落ち着かなくて、早退しちゃいました。こういう時は、何をしても駄目なんです」
    「よくあるのか」
    「いいえ。授業に出られないほどなんて、今までに一度もありませんでした。でも今日は特に、記憶が混乱していたみたいで。前世の俺の、命日なので」
     前世とは、炭治郎と俺を結びつけながらも引き離そうとする、得体の知れない過去だ。動揺を悟られまいとしたけれど、炭治郎はぴくりと震えた俺の指先を撫でた。
    「それでこの場所は、百年前、義勇さんが息を引き取った場所です」
    「覚えてない」
    「ですよね」
     炭治郎が苦々しげに眉尻を下げる。話す事が不得手な己には、深刻な話への適切な相槌さえ思いつかない。
    「馬鹿馬鹿しいでしょう。俺もそう思います。百年前の事なんて、俺達が踏んでいる、この地面だって覚えてないですよ。でも、俺は覚えてました。ずっと、少しずつ、思い出してきました」
     この件について、俺はやはりなんの助けにもなれないだろうと察した。予想通りだ。俺は炭治郎の座るベンチに腰を下ろす。炭治郎は、無言で隣に居る俺を咎めない。或いは、前世の俺も口下手で、炭治郎の話す声の優しさに甘えていたのだろうか。
    「馬鹿げた話だけど、全部大切なんです」
    「うん」
    「俺は前世から義勇さんが好きでした。何度振り切ろうとしても、過去の想いに足を取られて、苦しかった。でも、最近、おかしな事になって。俺が好きだった義勇さんが、遠く感じられるんです。そう感じる俺の心が一体誰のものなのか、分からなくなってました」
     記憶を持たない俺には実感の伴わない話だが、過去に縛られた炭治郎の苦しみはよく知っていた。俺もまた違う形で苦しんでいたし、何より、その苦悩に寄り添い続けたかった。炭治郎は何か言いたげに唇をはくりと震わせたかと思えば、出し抜けにベンチから立ち上がる。炭治郎の透き通った双眸が、街灯の他人行儀な光を柔らかく反射した。
    「さっき、義勇さんと目が合った時、気づいたんです。俺はもうとっくに今を生きていて、今、目の前に居る義勇さんが好きです。好きに、なってました。遅いのかもしれないけど、これからも一緒に居てくれませんか。好きな人と生きていきたいんです。かつての俺が悔しがるくらい、ずっと先まで」
     俺は胸に込み上げる熱い感情に戸惑いながら、炭治郎に見惚れる。この少年は、一度ならず二度までも、奇跡のような瞬間を与えてくれるのだ。他の誰が、こんなにも純粋に俺を愛してくれるだろうか。
    「二言はないな?」
     立ち上がりざまに炭治郎の手を掴み、確認した。あたたかい手首に指を這わせる。
    「今の俺と、死ぬまで添い遂げるんだな」
    「あれ……そう言うとなんだか、一世一代のプロポーズみたいですね……?」
    「お前が言ったのは、要するにそういう事だろう」
     我に返ったのか、炭治郎は百面相をした。随分と大胆な告白をしてくれたものだ。俺は掴んだ手を引き、炭治郎を抱き寄せる。やっと自分の一番欲しかったものに手が届いた。腕の中の炭治郎が、おずおずと背中に手を回してくれる。俺は瞼を閉じて、万感の思いを噛み締めた。


    続いたらいいな
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