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    ringe_duck

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    今の自分のケシエイの解釈が合っているかを確かめるための連載。最後まで書けたらエロになる予定。
    01は一個前にあげてる、お昼寝ケシエイちゃんです。

    #ケシエイ
    stingray

    誰が駒鳥をXXしたか(02) エイトが『それ』に気付くのに、どれだけの時間を要しただろうか。
     視認したのはすぐだが、状況を呑み込むのはやや遅く。だが、全て合わせても五秒もかからなかっただろう。
     ケシー、と。呼んだ相手は、その体勢を変えないままエイトへ視線を向ける。
     その肩に乗っているのは黄昏の――否、通称トパと呼ばれている白い毛皮の小動物。
     そして……それよりも高い位置。いつもはトパのおやつが隠されているその頭部に乗っているのは、間違いなく小鳥であった。
     一瞬おもちゃかと見間違ったが、小刻みに移動する姿はとても作り物には見えず。そもそも、ここは町ではなく森の中。小鳥の一匹や二匹いるのは当然のこと。
     それが木の上ならエイトもなにも思わなかっただろう。だが、思わぬ相手の、思わぬ場所に居座る小さな命に驚くなと言うのが無理な話。

    「……なに」

     名を呼んだきり沈黙するエイトに向けられるのは、気怠げな催促とトパの鳴き声。それから、思わぬ客人の小さな囀り。

    「あ、いや。食料を届けに来たんだけど……そいつ、どうしたんだ?」

     そいつ、と呼ばれた小さな命は、まるでそこが巣であると言わんばかりに寛いでいる。野生にしては懐きすぎだが、数日前訪れた時にはいなかったはず。
     羽繕いの後はケシーの髪をかき分け、そこに埋もれるように身体を擦りつけ……と。
     動きは忙しなく見ていて楽しいが、無表情な男とファンシーな光景があまりにも一致しない。
     ……いや、案外そうでもないか。
     森に精通している彼なら手懐け方も知っているし、見た目に反して優しい男だ。だからこそトパも彼と共にいる。
     外見ではなく本質に引き寄せられているとすれば、小鳥ぐらい吸い寄せられても不思議ではない。
     なんなら鹿や兎でも……さすがに熊まで行くとメルヘンは吹っ飛ぶが、納得できそうだ。

    「……あぁ」

     実際納得したのはケシーの方で、視線が僅かに上へ向く。
     視界に入らないだろう姿は存在を主張するように一声鳴くが、それだって小さく、か弱いもの。
     ピ、チチ。なんとも朝に相応しい囀りだが、今は真っ昼間。可愛らしくとも、眠りを誘うにはお淑やかさが足りない。

    「……怪我が治るまで置いているだけ」
    「怪我?」
    「翼。他の鳥にやられたんだと思う。あと足も」
    「……助けたのか?」

     聞くまでもない。ここにいる、ということは、そういうことだ。
     現場は目撃していなくとも、落ちていたところをここまで運んできたのは彼自身。
     正直意外だ。森を尊重する彼が、その摂理に干渉するとは。
     襲われるのも、それで怪我するのも、それは野生の世界では当たり前のこと。他の要因だったとしても、そこに不必要に人が介入するべきではない。
     巨大な熊だろうと、手のひらサイズの小さな小さな鳥であっても、ケシーがそこに割り込むことはないと思っていたが……。

    「へぇ……」

     優しいと、そう口にするのはなんだか違うような気がして。それでも歪む唇を止めるつもりはなく。
     結果、ニヤニヤと彼らを眺めることになれば結局は失礼か。
     彼は多くは語らない。故に、エイトに話す以外の、特別な理由があったのかもしれない。
     それでも彼がこの小鳥を助けたのは事実であり、今もこうして好きにさせているのは……やはり、彼が温かいからだろう。
     小さな溜め息が漏れても表情は戻せず、次に聞こえるのは『うるさい』か、あるいは無言のままか。

    「……似ていたから」

     だが、そのどちらでもない回答に呆気なくエイトの表情が崩れる。反して、ケシーの目は柔らかく。僅かに上がる口は、確かに笑みの形で。

    「似てたって、なにに?」

     頭頂部から前頭部へ、そこから滑り落ち、受け止められた身体の大半は灰色。だが、一番目立つのは頭部から首回りにかけての鮮やかな橙色だ。
     翼は少しくすんだ赤褐色。嘴こそ小さくて見えにくいが、黒とも灰色とも見える。
     ただでさえ小さい全長が、ケシーの手に乗れば余計にそう見えてしまう。これがエイトの手であれば、ここまで極端には映らなかっただろう。
     返事はないまま、落ちた身体は手の上でバタバタと藻掻いている。確かに翼の動きはやや鈍いか。
     オリビンに頼めばすぐに治るかもしれないが、それが最善とは限らない。
     助けたのはケシーで、彼はその治療方法を知っている。他者の手を借りる選択肢をエイトから申し出るのは、それこそ違う話だ。
     狭い空間に、聞き苦しい羽ばたきの音が止まない。大丈夫かと思い始めたところで、ケシーの片手が小鳥へ覆い被さる。
     しー、と。唇の隙間から聞こえる空気の流れ。小さな命に比べれば大きすぎる指がその身体を包み、潰さぬようにそっと持ち上げる。
     うつ伏せから、仰向けに。それだけで、あんなにも暴れていたのが嘘のように大人しくなってしまった。

    「すげ……それ、なにしたんだ?」

     いつまでも立っているばかりはあれかと、ようやく隣に腰を落ち着かせる。
     そんなエイトに向けられる琥珀に不快感は浮かばず、一瞥された後に戻るのはやはり手のひらの上。
     二人分の視線を注がれても、小鳥は顔を動かすだけで藻掻く素振りもなく。足はギュウと縮こまったまま。

    「鳥は普段、仰向けになることがないから。こうすると大人しくなる」

     胸元に親指を添えられても噛み付く様子はなく。上部の開いた箱の中に戻すまで、それはずっと大人しいまま。

    「理解するのに時間がかかっているだけだから、ずっとはできない」
    「へぇ……」

     解放された橙色は、自分の身になにがおきていたかも理解していないのだろう。水を飲み、毛を繕う姿は自由気まま。
     色だけ見れば八雲に似ている気もするが……連想するにはあまりに安直だろう。
     小さい、という点で見ても繋がる相手はおらず。そもそも、エイトが知っている相手とも限らない。

    「なぁ、似てるのって俺が知ってる奴か?」

     それぐらいは聞いていいだろうと、箱から男へ視線を戻す。見返す琥珀はどこか柔らかく、表情は緩んだまま。

    「……さぁ」

    『うん』でも、『違う』でもない。彼らしかぬ返答に浮かぶ少しの違和感。
     ――そわり。
     直接心臓を撫でられたような、胸奥の違和感を突き止めることはできず。
     首を傾げるエイトに与えられたのは、愛らしい小鳥の囀りだけだった。
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