メイクをするグラエマの話「エマ、朝食のことだが……すまない、メイク中だったか」
「グラン、ごめんね!もう少しで終わるから」
そう言ってエマが桃色の香水瓶を手に取ると、グランフレアは「急がなくても良いぞ」と返しながら浮き足立ったようにドレッサーに並べられたメイク道具達を横目で見た。
「メイク道具、気になる?」
「いや、その……絵の画材みたいだな、と」
淡い春色の愛らしいアイシャドウパレットに、澄んだ青空に羽ばたく蝶の彫刻が施された薄紅のリップ。そしてアイシャドウと同じようにふんわりとした色合いのチークと散らばったブラシ達。グランフレアは普段見ることの無いそれらを一通り眺めては、やはり絵の画材の様だとその目を輝かせた。
このメイク道具の持ち主であるギルドキーパーのエマは、宝物を見つけた少年の様な眼差しで何の変哲もないメイク道具を眺めるグランフレアを見ながらそっと微笑む。
「メイク道具、そんなに珍しい?」
「嗚呼、なにせこのギルドは男所帯だからな。メイク道具を見る機会なんて殆どないさ」
エマのそんな問いかけに気恥ずかしそうにしながら、グランフレアは顔を俯かせてはにかんだ。