エマの心音を聴くトワのトワエマ「嗚呼、キーパー様は「生きている」のだな」
エマの胸にそっと耳を当てながら、トクトクと規則正しく脈打つその音にトワは意識を預ける。自分には発することの出来ない、柔らかで力強い命の息吹を感じるその音に、目の前の彼女、エマが確かに"生きている"と強く実感した。
だがそれと同時に、生きていると言うことは寿命が存在すると言う事、その自然の摂理には抗うすべもない。……人間であるエマは、必ず自分を置いて先にあちらへと逝く。機械<オートマタ>のこの身では彼女と一緒に年老いる事など出来ず、あちらへ行くことも出来ない。故にこの姿を保ったまま、その最後を看取るのだ。息もしない、心音ももう聞こえない彼女の冷え切った手を握りながら。
──それは、とても……。得体のしれない気持ちが底から溢れ出し思考を司る回路がじわりと熱を孕んで、内部に埋め込まれた歯車達がかたかたと軋む。それに連動するように体も小刻みに震えた。異常はどこにも無いはずなのに止めようとしてもこの震えは、止まらない。
「(これが、「恐怖」と言う感情?)」
初めて味わうどうしようもなく苦しいこの感情に、回路が焼き切れそうになる。怖い、いつか目の前の彼女が何処にも居なくなってしまうのが、彼女の居なくなった世界に独りになってしまうのがとても怖い。
「トワ、震えてるの?」
「キーパー、様……エマ」
もし摂理を壊せるのならば、この先もずっと隣に居て笑い合って欲しい。だがそれは所詮、絵空事で無理なことだから、胸に秘めておくしか無いのだ。
「なんでもない」と、この恐怖を隠しながらトワはそっとエマの背中に手を回してその体を抱きしめた。