気まぐれで人間の兄妹拾ったら可愛い嫁ができました。拾ったのは気まぐれだった。
侍にその身を焼かれそうになっていた少女を結果的に助け、駆け付けた少女の兄らしい少年に「神様」と呼ばれ気分が良くなった。親も頼る大人もいないらしいその兄妹を拾って、何か役に立てれるならそれで良い。役に立たないなら食ってしまえばいい。そんな軽い気持ちだった。
それだっていうのに…
光の差さない地下深くにある豪華で派手な屋敷…そこに住まうは世にも恐ろしき人食い鬼…そんな屋敷で、一人の少年が、その唇を鬼に食らわれていた。
「んあッ…あふッ」
鬼は震える少年の痩せ細った身体をその大きな手で抱き締め、少年の口内を犯し尽くす。
小さな舌に舌を絡ませ、くちゅり、ちゅくと淫靡な音を鳴らしながら己の唾液を少年の口内へ零していく。小さな口からは、鬼と少年の唾液が混ざった蜜が零れ落ち、少年の顎を淫らに濡らしていく。
「ふぅぅッんんッ…んふぁ、あッ」
口と口の隙間から溢れる熱い吐息で紅潮していく少年の頬。その紅潮した頬に、ギュッと閉じた瞼から溢れた涙が伝う。悲しみや恐怖から流れた涙ではない。それは、襲い狂う快楽に耐える為に流れた涙。
「あッ…あふぁ…んッ…んあッ」
鬼が少年の上顎を舌で攻めれば、少年は肩をビクッと大きく震わせ、その小さな手で鬼の派手な着流しの胸元をギュッと掴む。
少年のその反応に、鬼は気分を良くしたのか目元に笑みを浮かべ、口と口の隙間が無くなる程に唇を重ねては、舌で執拗に少年の上顎を攻めていく。
「んッ…んんッ…んッ!」
性感帯なのだろう。口内の上顎を攻め続けられ、頭の中がジンジンと響いて少年はビクッビクッと身体を震わせながら熱を上げていく。その熱を感じながら、鬼はまだ少年の口内を犯し続ける。甘く、ねっとりと、少年を蕩けさせるように。
「んんッ…んッ…んンンッ!」
熱が限界に達した少年の身体は大きくビクンッと震えた。そして、段々と力が抜けていき、ビクビクッとまるで痙攣しているかのように小刻みに震え、鬼の大きな腕にその身を委ねていく。
そんな少年の様子に、鬼はようやく唇を離し、名残り惜しそうに糸を引く舌を口の中にペロリとしまい、満足気な笑みを浮かべ、自分の腕の中でぐったりとしている少年を見下ろしながら、語り掛ける。
「口付けでイケるようになったな、妓夫太郎」
妓夫太郎と呼ばれた少年は、ハァハァと息を乱しながら、薄っすらと瞼を開け、涙で潤んだ空色の瞳で鬼を見上げた。
「んッあ、…ハァ、ハァ…」
「ん。落ち着いてからでいいからな」
言葉を発したいのに、口からは荒い吐息と涎だけが出てきてしまう妓夫太郎に、鬼は優しく微笑み、妓夫太郎の額にある痣に唇を落とす。
「んッ…ぁ、て、天、元様…」
「ん?」
「ぉ、俺の痣…き、汚ぇからぁ…」
「まだんな事言ってんのか?お前の痣は個性的で派手で俺は好きだって言ったろ?」
そう告げ、鬼・天元は今度は妓夫太郎の頬の痣に唇を落とす。
「ぅ、ううぅッ…ゃ、やめてくれぇぇッ天元様ぁぁ」
「止めねぇ」
眉を八の字にして困惑顔をしている妓夫太郎に対して、天元は意地の悪い笑みを浮かべて妓夫太郎の顔の痣全てに唇を落としていく。
天元の唇が中心に近付くと、妓夫太郎は再び瞼をギュッと閉じてしまう。そんな妓夫太郎が可愛らしくて天元は口元の痣に唇を落とした後、小さな唇にも唇を落とす。その思わぬ口付けに妓夫太郎は「ひゃッ!」と甲高い声を上げ、肩をビクンッと震わせた。
「は?可愛過ぎんだろお前。あ、つい声に出ちまった」
「ううぅッ…天元様意地悪だぁぁ…俺可愛くねぇのにそんな事…」
「いやお前可愛過ぎるからな?ぶっちゃけこの世で一番可愛いわ」
「?何言ってんだ天元様。この世で一番可愛いのは梅だろ?」
「あ、うん。お前にとったらそうなるよな」
梅とは妓夫太郎の妹で、あの日侍にその身を焼かれそうになった少女である。その梅は今どうしているのかというと…
「さっき須磨さんにお姫様みてぇな豪華な着物着させて貰ってたんだぁ。そん時の梅の可愛さと綺麗さといったらぁッ」
目をキラキラとさせた笑顔で、天元の嫁の一人である須磨に着飾られた梅の事を語りだす妓夫太郎。その純粋無垢な瞳の輝きに天元は「やっぱコイツ可愛過ぎ」と吐血しそうになってしまう。
「やっぱり梅はこの世で一番可愛いなぁぁッ」
「やっぱお前はこの世で一番可愛いな」
「梅だろぉぉッ」
「ん〜…梅も可愛いけどな。俺にとったらお前が一番可愛い」
「…天元様、その目、宝石みてぇに綺麗なのに腐ってんのかぁ?」
「真顔で言うな」
目が腐ってるのかと真顔で言われ多少傷付いた天元だが、自分の腕の中で喜怒哀楽の感情を曝け出す妓夫太郎が可愛くて仕方なくて、その表情に自然と笑みを浮かべていく。嫁以外の者…それも人間にこれ程まで心を和まされる等、嫁以外には全く興味のなかった天元にとって初めての事だった。そして天元はそれをとても心地良く思っている。
拾った時はこんなにも大事なものになるなんて思わなかった。こんなにも手放したくないものになるなんて思わなかった。あの時気まぐれで拾った小さな命は、自分の中で何よりも大きく、かけがえのないものになっていた。愛すべき、大切なものに…。
(…拾ったの一週間前なんだけどな。落ちんの早ぇわ俺)
実際拾った一日目に、もじもじとしながら上目遣いで「て、天元様…」と呼ばれた時から天元は妓夫太郎を可愛くて愛くるしい、愛すべきものと認識していた。即落ちである。
(たまには気まぐれも起こしてみるもんだな)
あの日、この兄妹を食らわずに拾って屋敷に連れ帰った自分を褒めてやりたいと心底思う天元は、腕の中にいるその大切な者を優しく抱き締めていく。
「?天元様?」
「妓夫太郎、ずっと俺の側にいろ。良いな?」
額を重ね、優しく囁くようにそう告げる天元。
天元からの言葉に、妓夫太郎は顔を赤く染めたが、瞳を上下に動かし困惑した表情を浮かべる。
「ぁ、ぉ、ぉれ、天元様の側にずっと居て良いのかぁ?」
「当たり前だろ。お前が嫌っつっても俺はお前を側に置いとくつもりだ」
「嫌なんて言うわけないだろぉっ」
「んじゃ決まりだな。お前はずっと俺の側にいる。俺はお前を絶対に離さねぇ」
そう告げて、天元はニッコリと優しく笑い、妓夫太郎に触れるだけの口付けをする。天元からの触れるだけの口付けを受けて妓夫太郎は恥ずかしそうに視線を泳がせながらも「ぅ、ぅん」とコクンッと頷き、天元の側にいる事を誓った。そして、何やらもじもじと自分の胸を掻きながら、
「な、なぁ…天元様ぁ…」
「ん?何だ?」
「その…ずっと側にいるって事はぁ…俺、天元様の嫁になるって事かぁ?」
視線を反らしながら恥ずかしそうにそう質問してきた妓夫太郎を、天元は「クッソ可愛いな」と思いながらその胸に抱き締め、
「お前はもう俺の嫁だよ」
そう優しく囁きかける。低音の落ち着いた声で優しく囁かれ、妓夫太郎は耳をみるみる赤く染めていき、天元の胸に顔を埋めていく。そんな妓夫太郎の様子に天元はクスッと笑って、自分の胸に埋まるその頭にぽふぽふと優しく撫でるように触れていく。
(鬼になって百年以上か…まさかこんなに可愛い嫁ができちまうとはなぁ)
長生きしてみるもんだなぁと天元はしみじみ思う。一時期は、鬼となっても鬼狩りを狩るか、人間を食らうかしかなく、何も面白い事等無いと屋敷に引き籠もっていた天元だが、ここに来てようやく鬼となった事に感謝をしていた。今ならあの上司の無茶な命令も聞けるとさえ思っている。妓夫太郎と梅関連以外の事ならばだが。
「て、天元様ぁ…」
「ん?」
「その…俺、天元様の嫁って事は、だなぁぁ…」
「うん?」
「その…つ、続きはしねぇかぁぁ?」
ずっと恥ずかしさから視線を泳がせていた妓夫太郎がようやく視線を合わせてこちらを見上げてきたと思ったら、上目遣いに添えられた言葉に天元は思わず、「……んッ?」と目を見開いてしまった。
「…続き?」
「あ、ぅ、ぅん…その…く、口付けの続きっていうか、その先っていうか……」
「……」
口付けの先……という事は?
「その…こ、子作りっていうかぁ…」
頬を赤く染め、眉を八の字にして上目遣いで告げられた言葉に、天元は笑みを浮かべたまま顔を強張らせた…
察しの良い妓夫太郎は天元が自分の言葉に困惑している事を直ぐに感づき、あわあわと取り乱し始める。
「あ、あ、ご、ごめ…ぉ、俺、子供作れねぇもんなぁぁッ。それなのに、子作りとか…あ、あの、、ご、ごめんなさいッ天元様ッ!今の無しでッ…!」
取り乱し、今にも泣きだしてしまいそうな妓夫太郎…変な事を言ってしまった。浮かれてとんでもない事を言ってしまった。この人に嫌われたくない、絶対…。その一心で、溢れそうになる涙を堪えて天元に告げた言葉を謝罪し、撤回していく。
そんな妓夫太郎の必死な訴えに、天元は変わらず笑顔のまま固まっていた…その内心は……
(クッッッソ可愛過ぎんだろッ!!!)
妓夫太郎への溺愛で埋め尽くされていた。
(あぁぁぁぁッ!クソッ!本当は今すぐ抱きてぇがなぁぁぁぁッ!!)
天元は脳内で、ある葛藤をしていた。
妓夫太郎は年齢は15,6で、痩せ細った見た目に反して身体能力も高く、そのへんの人間と比べると身体は頑丈な方であると考えられる。だが生まれつきの病気のせいか、身長は低く、肉付きも悪い。年齢の割には幼く見えるその身体が耐えられると思えないのだ…己の……
(絶対俺のイチモツ突っ込んだらコイツ壊れる!!どんだけ解しても俺のイチモツ突っ込んだら絶対ぶっ壊れる!!だぁぁ!何でデカイんだよ俺のイチモツ!!)
自慢である己の大きな象徴をこの時ばかりは呪った天元であった……。
そんな天元の葛藤など知らない妓夫太郎は、天元が黙り込んでしまったのは自分のせいだ、嫌われてしまった…と堪えていた涙を目尻から溢れさせ始めてしまう…その涙にようやく気付いた天元は「しまった!」と慌てふためき、つい力を込めて、
「妓夫太郎!」
「!?ひゃいッ!」
妓夫太郎の名を大きな声で呼んでしまった。そして突然名前を大声で呼ばれた妓夫太郎は身体をビクゥッと大きく震わせ、裏返ってしまった声で返事をしてしまう。
天元はその返事が可愛過ぎると思いながらも、今は妓夫太郎の涙を止める事が先決だっと、妓夫太郎の両腕をガッシリと掴んで、
「いっぱい美味いもん食って病気治して身体デッカくなろうな!そしたらいっぱい子作りできっから!!」
「へ?」
「俺も早くお前と子作りしてぇからな!分かったか!?」
「え、で、でも俺、子供作れねぇ…」
「子供作れなくても子作りはするからな!!」
「?て、天元様、何か言ってる事おかしくねぇかぁ?」
「おかしくねぇ!全っっ然おかしくねぇ!!なんっっにもおかしくねぇ!!子供作れなくても子作りはできる!!俺が言うんだから間違いねぇ!!」
「え、あ、、て、天元様がそう言うなら、おかしくねぇ…のかぁ?」
涙は引っ込んだが代わりに疑問符が頭いっぱいに浮かんでしまっている妓夫太郎だが、笑顔の天元に押し切られ無理矢理納得させられた形になってしまった。それを良しとした天元は、妓夫太郎をその胸に抱き締め「初めてん時は優しくするからな」と耳元で囁いて妓夫太郎の額に唇を落とす。
壊すわけにはいかない。愛しい大切なこの嫁を。
天元は守るべき愛する者を胸に抱きながら、倫理が欠如している鬼としての本能に負けまいと心に誓うのだった。
だが天元は知らない……その己の誓いを揺るがす者がいる事を……
(ううぅん…天元様は俺がデッカくなってからって言ってるけど……口で奉仕とかはやっぱした方が良いのかぁぁ?)
純粋無垢な誘惑が今後天元に襲い掛かる……。