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    交際しているグラエマのデート話。
    グランさんがよく分からなくなってきた……

    最合傘「明日は雨だろう」
    エマは昨晩、イツキが小声でそっと教えてくれたことを思い出した。それを聞いた自分の様子がよほどしょぼくれて見えたのか、慌てて「必ずとは言えないが」とフォローしてくれたことも。
    今日、午前中の仕事が終わったらグランフレアとエマはともに出かける約束をしていた。所謂デートである。エマはイツキの雨予報をグランフレアに伝えるか悩み、あえて伝えないことにした。グランフレアの事だから、もし雨が降ると知っていたらきちんと自分の傘を持ってきて、ひとりひとり傘をさす事になるのではないかと思ってしまったからである。折角のデートだから、少しでも近くにいたかった。

    「グラン、お待たせ!」
    エマが連盟本部で一仕事終えて時計を見れば、もう昼過ぎになっていた。慌てて身支度を整え、グランフレアとの待ち合わせ場所に向かうために連盟本部を出る。空を見上げれば、雨が降るとは思えないくらいに晴れ渡った空だった。あまりの空の青さに傘を置いていこうか悩んだが、どうせ大した荷物にはならないとカバンに放り込んだまま歩きだす。
    連盟本部での仕事だったので服は必然的にギルドキーパーの制服になってしまったが、髪を軽くハーフアップにしてお気に入りのイヤリングをつけた。普段もギルドキーパーとしてふたりで行動することもあるが、建前は買い出し等、あくまで業務上必要なことと理由をつけている(実際、月渡りに関わる買い出しは各種物品のストックや家計を把握しているグランフレアとエマでないと難しい)。けれども今日は名実ともに、エマが待ちに待ったデートなのだ。
    ──グラン、気付いてくれるかな?
    恋に恋するお年頃はとうの昔に卒業したが、大好きな人には少しでも可愛い、もしくは綺麗な姿を見てほしい。仕事にも慣れてきて大人になったつもりでいるが、そのように考えてしまうくらいにはまだ幼さが残っているのかもしれない。

    「お疲れ様。そんなに慌てなくてもよかっただろう」
    エマが待ち合わせ場所であるカフェに着いた時、グランフレアは湯気がたつ珈琲を楽しんでいた。時間が時間だから、最初に少しご飯かお茶でもしようと話していたのだ。
    「だって時間も限られてるし、早く会いたかったし……」
    今日は月渡りの皆も夜には各々の仕事を終えてギルドホームに帰ってくる予定になっている。だから、いつまでもデートするわけにはいかない。別に交際自体を隠しているわけではないが、グランフレアもエマも、家族である月渡りの皆と過ごす時間は大切にしたいと考えている。そして折角だからふたりで一緒に夕飯を作ろうとすると、夕方にはギルドホームに帰りたいところだ。
    「……後半、本音が漏れていると思っていいのか?」
    グランフレアが唇を綻ばせながら問うと、エマは自分の発言内容を理解して視線を逸らし、頬を赤くする。
    「まあ、イカついナリの男がこんなカフェにひとりでいるのは場違い感があったからな。それに、俺も早く会いたかった」
    更にグランフレアは付け加える。
    「いつもと違う雰囲気だが、よく似合っているよ」
    グランフレアの真っ直ぐな言葉で更に顔を赤らめたエマは席についてもしばらくの間、グランフレアと視線を合わせることが出来なかった。それをまたグランフレアに面白がられてしまうのであった。

    グランフレアとエマはカフェでやや遅い昼食を楽しんだ後、近くの商店を冷やかすことにした。冷やかすとは言ったものの、少しの間ふたりで別行動した結果、各々目ぼしいものを見つけて購入してしまったのだが。エマは自分の勘定を終えた後、グランフレアが眼鏡の奥で瞳を細めていることに気が付いた。
    「何かあったの?」
    「恐らくだが、天気が崩れ始めているな」
    商店はそれなりに広く、かつ近くに窓があるわけでもないのにどうして外の様子が分かるのだろうとエマが不思議に思っていると、「微かだが、気配が変わったのを感じたからな」と返される。その返し方にエマは僅かに哀しいような、寂しいような印象を受けたが、今この場で問うべきことではないような気がして聞けなかった。

    「本当だ……」
    外に降りしきる大きな雨粒を前に、エマはイツキの予報が当たったことを実感する。さっきまでは澄み切った青空だったというのに。
    「すまないが、傘を持っているか?降ると思っていなかくてな」
    「うん、折り畳み傘だけど一本あるよ」
    もう夕方も近付いてきているし、雨がいつ止むか分からない空模様に見える。これは下手に雨宿りをせずにギルドホームまで帰った方がいいと判断し、ふたりはエマの傘をさして帰ることに決めた。
    しかし、如何せんグランフレアとエマには大きな身長差がある。もし仮に高いヒールを履いていたとしても、エマの身長はグランフレアの肩に届くかどうかといったところだ。そもそも午前中は仕事だったので、連盟本部内をなるべく疲れず動き回れるようにローヒールを履いてきている。そんなエマが、決して大きくはない女性用の折り畳み傘を自分の手で持って相合傘をしようとすれば、かなり無理な体制になってしまう。
    「このくらい、俺にやらせてくれないか」
    暫くの間、エマは私がやると懸命に腕を伸ばして傘をさしていた。しかしグランフレアはエマがさしている傘にそっと手をかけ、あっという間にエマの腕が届かない位置まで傘をあげてしまう。エマは何度か傘に手を伸ばしてみたが、自分の身体を濡らしてしまうだけであると気付いて止めた。その代わりに小さく口を開く。
    「でも悪いよ」
    「そもそも悪いのは傘を持っていない俺だろう」
    グランフレアはエマを見て少し考えた後、傘を持っていない手でエマの肩を引き寄せた。突然のことにエマは驚き、一瞬身体を強張らせる。少しでも近くにいたいとは思っていたが、不意打ちは反則だ。
    「傘が小さいからな、濡れないようにするぞ」
    グランフレアはそんなエマの様子を知ってか知らずか、エマの肩を半ば抱え込むような形で歩き始めたのであった。

    ギルドホームを目前にして、雨脚が強まった。グランフレアは雲の流れから一時的に強まっているのだろうと判断し、多少は雨が凌げそうな木陰に傘をさしたまま身を寄せることにした。風があまり強くないのが幸いだ。
    辺りには、グランフレアとエマのように雨宿りをしてこの場をやり過ごす人や傘を持たずに恐らく目的地まで走り抜けようとする人がポツポツといるようだが、大きな雨音のためか彼らが発する音や気配は希薄だった。
    エマは少し考えて、先程聞けなかったことを聞いてみることにした。この雨音の中であれば、話の内容が聞こえるのは極近くにいるグランフレアだけだろう。
    「そういえば、どうして天気が悪くなるって分かったの?」
    「……勘、だな」
    雨の中、グランフレアは少しばかり口角を歪めて小さく返す。その表情に、エマはやはり問うべきことではなかったと感じて押し黙ってしまう。グランフレアが僅かに言い淀んだことで、それが恐らく戦場を駆けていた経験に起因するものだと分かってしまったからだ。
    エマは多くを聞いているわけではないが、その過去がグランフレアに大きな影響をもたらしていることを知っている。エマはギルドキーパーであり、グランフレアとは個人的に親しい間柄でもあるが、だからといって簡単に掘り下げられるような話ではない。
    雨脚は更に強まり、雨音が煩いくらいに響いている。
    「だがまあ、」
    グランフレアはエマの雰囲気が張り詰め、そして更にやや沈んだことを感じ取った。そこでエマに聞こえるよう、常よりも少しばかり声量をあげて切り出す。
    「今は大切な家族がいるからな。ひとりで考え込んで何処かの深みに嵌まることもない」
    グランフレアは肩を抱き寄せていた手をそっと外し、エマの頭をひと撫でする。エマは自分とは違う大きな手が柔らかく頭に触れる感覚にほうと息をついた。いつのまにか強張っていたエマの表情も緩んでいく。
    「やっぱりグランは強いね」
    「……そうか?」
    「マイスターは大なり小なりみんなそうだけど、グランはその中でも特に芯が強いなって」
    そう言いながらエマは包みを取り出す。先程、商店で購入したハンカチである。小さくあしらわれた花の刺繍が、以前グランフレアが描いていた花と同じ種類だと気付いて目が離せなくなり、つい買ってしまったのだ。
    「もともと持っていたハンカチが濡れちゃってるから、まだタグも切っていないけど使うね」
    そうしてエマはグランフレアの肩あたりをぽんぽんと拭いていく。エマと反対側の肩がびしょ濡れになっていたからだ。エマの上半身は殆ど濡れておらず、グランフレアがエマを守るように傘をさしていたと分かる。
    「すまないな」
    「ううん、傘をさしてくれてありがとう。もしこれでグランが風邪でもひいたら私が怒られちゃうよ」
    「あいつらに限ってそれはないと思うぞ」
    むしろなんでエマを雨の中を連れ回しているんだと言われそうだ、とグランフレアは遠い目をしている。エマも彼らの様子を思い浮かべて笑いながら、密かに安堵した。グランフレアがいつもの活力に満ちた姿に見えたからだ。
    「みんなで夕飯にしたいし、頑張って帰らなくちゃね」
    気が付けば雨脚も弱くなっている。このくらいであれば相合傘でもそこまで濡れずにギルドホームまで帰れるだろう。
    「ああ、早く帰らないと説教されるかもしれないしな」
    普段お説教に回ることの多い自分達が月渡りの皆にとやかく言われる姿はあまり想像ができず、ふたりしてつい笑みがこぼれてしまう。
    グランフレアはエマの肩を僅かに強く抱き直し、ふたりは細雨の中を楽しげに歩いていった。
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