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    雷が苦手なエマちゃんとグラン。
    お付き合いしているグラエマです。

    繋ぐ雷鳴煩いくらいの雨音と頻繁に轟くようになってきた雷鳴が心をざわめかせる。もう小さな子どもではないのだから屋内にいれば安全だと分かっているのだが、どうにも気持ちが落ち着かない。
    「やっぱり少し怖いなあ……」
    エマは月渡りのギルドホームに設けてもらった自室でギルド連盟に提出する書類を確認した後、小さくため息をついた。気付けばあたりはとっくに静まり返っている時間だ。寝る支度を整えてから仕事を再開していたのでそのまま寝てしまってもよいのだが、思ったよりも外が蒸して暑いからか妙に喉が渇く。
    ──何か飲んだらすぐに寝てしまおう。
    エマは徐々に近付いてくる雷雲の気配を感じながら、月渡りの皆を起こさないように足音を殺してキッチンへ向かうことにした。

    「エマか?」
    夜更けだから誰もいないと思っていたが、キッチンには先客がいた。グランフレアだ。そういえば皆で夕食をとった後、絵を描く準備をしていた気がする。もしかしてこんなに夜遅くまで描いていたのだろうか。
    「こんな夜遅くにどうしたの?」
    「それはこっちの台詞だな」
    まさか仕事をしていたわけではないだろうなとグランフレアに問われ、エマはバツが悪そうに彼を見上げることしかできなかった。図星である。
    「明日も早いんだろう?ギルドキーパーとして働いてくれて助かるが、無理だけはするなよ」
    グランフレアは案の定予想が当たっていたかと苦笑した。エマはグラスに水を注ぎつつグランフレアの気遣いに感謝する旨を告げていると、室内からでも分かるくらいの明るい稲光が走った。続けて一際鋭い雷鳴が轟き、雷鳴に合わせてエマの肩が大きく跳ね上がる。
    「大丈夫か?」
    「少し驚いただけだよ」
    エマはそう返すものの、グランフレアから見れば彼女の表情に怯えが混じっていることは一目瞭然だった。そしてエマが恐らく強がりを言っていることも。
    グランフレアには、そんなエマが普段よりもさらに可愛らしく見えた。ギルドキーパーとして立派に務めてくれているからつい忘れてしまいそうになるが、自分よりも年齢が下なのだ。そして彼女は今、グランフレアの中で最も大切な存在である。
    「……別に大人だからといって、怖がってはいけないなんて決まりはないからな」
    グランフレアはそのままエマの頭をそっと撫でた。昼間と違ってグローブを外している手のひらに、エマの柔らかい髪の質感が直接伝わってきて心地よい。少しばかり強張っていたエマの表情が緩んでいくのが見て取れた。
    「やっぱりグランには隠せないね」
    エマはそう言いながらやや遠くを見つめた。窓の外では相変わらず叩きつけるような雨音が響き、雷鳴が鳴り響いている。
    「昔、雷が苦手で……こういう時はおばあちゃんにぎゅって抱きしめてもらって、頭を撫でてもらったんだ」
    エマが思い出すのは祖母ゲルダの柔らかくあたたかい手のひらの感触。小さい時、こうして天気が荒れた夜は必ず起きてしまい、怖くなってはゲルダに縋っていた。ゲルダはそんな孫娘を優しく受け止め、彼女が落ち着くまで優しく抱きしめてくれたのだった。
    過去を思い出すエマの声色にほんの少し寂しさが混じっている。その事に気付いたグランフレアはそっと気配を探り、月渡りの皆が起きてこないであろうことを確認しながら呟いた。
    「……皆寝ているか」
    エマが疑問に思う間もなく、身体がやや硬い何かに包み込まれる。程なくしてグランフレアが自身を抱き締めていることに気付き、エマは自らの鼓動が早まるのを感じた。
    「俺では感覚が全く違うとは思うが」
    嫌でなければ落ち着くまでこうしていればよいとグランフレアは囁き、エマが苦しくならないように加減しながら抱き締める。そして大きな手のひらでそっとエマの頭を撫でていった。密着した肌に伝わる互いの体温がやけに高く感じるのは気の所為ではないだろう。
    普段、皆が集まって過ごす場所での行為にエマは気恥ずかしくなって何か話そうとするが、思考がまとまらない。しかしグランフレアに優しく頭を撫でられるうち、少しずつ心身ともに落ち着きを取り戻していった。先程から続く激しい雷雨の気配まで、グランフレアが遠ざけてくれるように感じてしまう。
    「無理をする必要はないんだからな」
    グランフレアは強張っていたエマの身体が解れていくのを確認してからそっと身体を離した。これ以上エマを抱き締めていたら、自身を律することが難しいと分かっているからだ。
    対するエマはグランフレアの熱が離れて落ち着きを取り戻すと同時に、少しばかり物寂しさを感じた。そういえば、最近はお互い仕事で忙しくふたりでゆっくり過ごす時間が無かったことを思い出す。わがままかもしれないが、もう少しだけ温もりを分けてほしい。このまま離れてしまうのが嫌で、エマはグランフレアをじっと見た。
    「グラン」
    グランフレアがエマの呼びかけに応じて視線を合わせると、肩に手をかけられ軽く力を込められる。どうもグランフレアに屈んでほしいようだ。グランフレアがエマに応じて軽くしゃがむと、首に手を回されるとともに不意に柔らかい感触が頬に触れた。
    「ありがとう」
    グランフレアが不意打ちに驚きながらエマを見れば、安心しきった微笑みを見せている。信頼してくれるのは嬉しいが、想い合う異性であることを考慮してくれないだろうか。
    ──必死で我慢しているのに、それは反則だろう。
    そう伝える代わりに、グランフレアはエマの額を唇で軽くついばんだ。
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