Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    3tnymkr

    @3tnymkr

    ymkr文字書き用。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    3tnymkr

    ☆quiet follow

    グラエマ前提でルージュとグランが飲む話

    Brandewijn「グラン、最近どう?」
    「……お前が毎度毎度拵えてくる借金のおかげで面倒が多くてな」
    「あはは、ごめんってば」
    グランフレアとルージュは向かい合って酒を飲み交わしていた。窓の外を見ればまだ辺りは宵闇といったところだが、テーブルには空いた酒瓶が既にいくつか置かれている。クロウ、イツキ、ノアは依頼で外出しているのでしばらくは戻らないはずだ。かのギルドキーパーも別ギルドの支援に行っており、今日は不在である。仮にふたりして酔い潰れてしまっても、咎める人は誰もいない。
    「それにしても、ギルドホームに俺達ふたりだけなんて珍しいね」
    ルージュはからからと笑いながらグラスにブランデー──ヴァン・ブリューを注ぐ。誘惑に負けてストレートのまま一口含むと、芳醇な香りが全身を包み込んだ。
    「確かに珍しいか。最近は何だかんだ、皆エマの料理目当てで依頼を早く終わらせてくるからな」
    ギルドキーパーとしてエマが来てからというもの、月渡りの生活水準は格段に上がっていた。元々グランフレア以外の月渡りメンバーは家事スキルが低いか、スキルがあっても家事に対する優先度が低い。そしてグランフレアも自身への依頼が立て込めばそちらに手を取られてしまうので、生活水準が高いとは決して言えなかったのだ。
    「やっぱりエマちゃんってイイ子だよねえ」
    「そう思うなら迷惑をかけないように仕事をしろ」
    グランフレアはそう言いながら、先程ルージュが注いでいたブランデーに手を伸ばす。それに合わせてルージュがテーブルを見れば、最初に用意した酒もつまみもいつの間にか殆ど無くなっていた。
    「あれ、やっぱりふたりで飲むと早いね」
    先程よりも頬を赤らめたルージュが次は何を飲もうかと悩み始める前に、ブランデーを注ぎ終えたグランフレアが席を外した。
    「もう少し飲むか」
    「もっちろん!」
    ルージュが喜々として声を上げると、グランフレアは少し待ってろと言いながらキッチンへと足を運ぶ。既にそれなりの量を飲んでいるはずだが、足取りは軽くしっかりしたものだ。席を外した時のグランフレアはルージュからすればいつもより晴れやかな笑顔に見えたから、気分が高揚しているのかもしれない。

    「飲むと思って用意しておいて正解だったな」
    グランフレアが新たなブランデーとともに運んできたのはドライフルーツとクリームチーズを和えてクラッカーに盛り付けた、目でも楽しめるカナッペである。あらかじめ和え物の部分を用意していたらしい。
    「つまみ、いつもと何か違うね?」
    今までもギルドホームにてふたりで飲むことはあったが、その時にグランフレアが用意したつまみといえばすぐに食べられるナッツ等、あまり手がかからず飾り気もないものが多かったことをルージュは思い出す。このカナッペにしたって、クラッカーとディップを別々に用意してどうぞご自由に、という形でも構わないだろうに。
    「何がだ」
    「んー、うまく言えないけど。女の子ウケしそうだなって」
    ルージュの言葉にグランフレアは僅かに眉をひそめた。
    「……女性受けするメニューだとして何が悪い」
    「ひょっとして、エマちゃんに作ってあげたの?」
    それとも作り方でも教えてもらったの、とルージュはカナッペを徐ろに口に運びながらグランフレアに問いかける。彼女の名前を出したのはちょっとした悪戯心と、もしグランフレアがそれなりに酔っているならば彼女との関係について容易に聞けそうだと考えたからだ。最近のグランフレアとエマは、ふと気付くと妙に距離が近い。グランフレアはどちらかといえばパーソナルスペースを死守するタイプだと思っていたのに、エマはその間合いに入り込んでいることが多いのである。
    「……どうかな」
    ルージュの問いかけに対してグランフレアは肯定も否定もせず、そのかわり手元にあったグラスを一気に煽った。グラスにはストレートのブランデーがまだそこそこ入っていたはずだ。もしプリムスクラブのバーテンダーがいたならば、そんな飲み方をするもんじゃないわよと窘められていたかもしれない。
    そのまま無言でつまみを口にするグランフレアの姿を見ながら、ルージュはゆっくりと頬を綻ばせた。
    「大事にしてあげなよ」
    「言われなくても分かっている」
    何を、誰を、とは言わなかったのに即答するグランフレアを見てルージュは更に口角を上げた。
    ──やっぱり。
    かねてからグランフレアとエマがお互いに好意を抱いているのだろうと薄々気付いてはいたが、正面切って確認するのも野暮だからそっと見守っていた。
    グランフレアもエマも夢に対して直向きで、時には頑張り過ぎてしまう。そんなふたりは似た者同士として上手いこと支え合えるのではないかと感じたのだ。そしてエマの真っ直ぐな芯の強さは、今のグランフレアの原点となった経験も丸ごと包み込んでくれるのではないかとも。
    「エマちゃん、グランのこと大好きでしょ」
    「……そうだといいが、自信はないな」
    ルージュはかなりの量の酒を干しており、段々頭が回らなくなってきていた。それを言い訳として包み隠さず聞いてしまう。対するグランフレアも素直に答えているので、やはり酔いが回っているのだろう。
    「絶対そうだって。ふたりの愛にかんぱーい!」
    ルージュもグランフレアも、明日の予定が無いことは飲み始める前に確認済である。
    ──どうせならもっと飲んで、グランから根掘り葉掘りエマちゃんのことを聞いちゃおう。楽しいし。
    少し放置した分、香りが開いてきたブランデーを一口含んで舌の上で転がしながら、ルージュはグランフレアから何を聞き出そうかひとり作戦会議を始める。夜はまだ長いのだ。
    ルージュが鼻から抜ける香りを味わいながらグランフレアの顔を見れば、慈愛に満ちた眼差しで自身の手元を見つめていた。ただ酔っているのか、それとも想い人に思いを馳せているのか。初めて会った時も外見と中身が一致しないとは思ったが、今の姿を初めて会った人が見たならばきっと同じように思うに違いない。
    「じゃあさ、グランはエマちゃんのどこに惹かれたわけ?」
    「それは……」
    グランフレアはルージュの問いに少しばかり考えながら呟いていく。ルージュは楽しくて仕方ないとばかりに身を乗り出し、更に言葉を重ねる。お互い酔いが醒めないよう、少しずつグラスを傾けながら。今宵は長くも短い夜になりそうだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator