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    ymkrグラエマでブライダルお手伝いネタ。
    太陽グラ→エマで生き絵を都合よく解釈しています。

    pom pom mum「それでね、グランに連盟経由で依頼が来ているの」
    ギルドホームのリビングにあるソファに腰掛けたエマは、少しばかり浮いた表情でグランフレアと向き合っていた。
    グランフレアがエマから話を聞けば、生き絵でウェディングブーケを描いてほしいのだという。近日結婚式を挙げるという依頼主は生花のブーケも用意する予定だが、お色直しの際に別のブーケに持ち替えたいのだそうだ。生花のブーケは種類にもよるが、保水が必要なため重くなりやすい。よほど鍛えていれば別だろうが腕が意外と疲れるし、花も時期によって限られてしまう。生き絵は実体を維持できる時間こそ限られるものの、生花よりも扱いやすく好みの花を選べるのが利点なのだ。
    「花が専門という訳ではないが……請けよう」
    「本当?ありがとう!」
    ここ最近は他に急ぎの依頼もなく、特に断る道理もない。人生で一度しかない機会に関わるというのは責任重大だが、やりがいのある仕事だろう。
    グランフレアの返答を、エマは満面の笑みで受け止めた。そのまま喜々としてキーパーズボードを持ち、誰かへとメッセージを送信している。
    グランフレアはその喜び方を不思議に思い、理由を聞いて納得した。連盟を通した正式な依頼であるが、依頼主である新婦はエマの知り合いなのだそうだ。新郎とも会ったことがあるようで、エマは楽しみで仕方ないという表情を見せている。
    「使いたい花やデザインの希望は聞いているのか?」
    「ううん、グランが請けてくれるのを確認してから話を聞きに行こうと思っていて」
    「月渡りはどこかの誰かのせいで、仕事を選り好みできるほど家計に余裕がないからな」
    グランフレアが冗談めかして返すと、エマはそのどこかの誰かを思い浮かべ、つい口元を緩めてしまった。きっと彼がギルドホームに帰ってきた日には、グランフレアは小言を言いつつも優しく迎え、何だかんだで酒を飲み交わすことを知っている。
    「もしよければだけど、グランも一緒に話を聞きに行ってもらえる?」
    「ああ、勿論だ」
    エマからの提案がなければ、グランフレアは自分から同行できるか尋ねるつもりであった。依頼主の人となりを知った上で、少しでも希望に沿う作品に仕上げたい。そう考えるうちに、グランフレアの口角は自然と上がっていた。人生で大きな思い出となる日に、自分の生き絵で彩りを添えられるとは何と光栄なことだろう。
    ……だが、本当に自分でよいのか。決して綺麗な手ではない自分が、人生において大切な日に関わるものを手がけてよいのだろうか。
    まるで自分事のようにはしゃぐエマを前に、グランフレアは口角をゆっくりと戻したのであった。

    依頼を受けると決めた日からしばらく経った後。結婚式場の片隅に場所を借り、グランフレアはキャンバスと向き合っていた。今日は依頼主の結婚式当日。エマもグランフレアと同じ場所に控えている。グランフレアがお色直し用のブーケを完成させたら、エマが新婦へと届ける手筈となっている。
    グランフレアが向き合うキャンバスには、ピンポンマムをメインとした愛らしい印象のラウンドブーケが描かれている。あとは最後の仕上げをおこなえば完成だ。
    グランフレアはあらかじめ何度か新婦と打ち合わせをしながらウェディングブーケを描き進めていた。何せウェディングブーケの依頼は初めてである。依頼主の要望にできる限り応えたい、そう思っていつも以上に丁寧な仕事を心がけて進めてきたが、新婦が笑顔になるような生き絵が描けたと自信を持って言い切れなかった。
    自分が幸せを象徴するような絵を描いていいのか、過去を思い出して迷いが出てしまう。そしてその迷いが筆の運びを鈍らせる。あとは仕上げだけなのに、それが中々進まない。刻一刻とお色直しの時間が迫り、グランフレアは僅かに焦りを覚え始めていた。
    「……」
    エマは張り詰めた空気の中、ただじっとグランフレアとグランフレアが描くブーケを見つめている。建前はギルドキーパーとして、グランフレアの仕事を目に焼き付けておきたいと思ったから。けれども、本音はグランフレアが描く、幸せの形に惹かれてしまったから。
    「……このブーケを貰えるなんて、幸せだろうな」
    そしてつい、本音が漏れてしまった。この場にはふたりしかおらず、小さな声であったものの思いの外部屋中に響いてしまった。エマからの突然の言葉に、グランフレアの纏っていた空気が少しだけ穏やかなものに変わる。
    「突然どうした?」
    「グランがこんなに真剣に向き合っているんだもの。ちょっとだけ、羨ましいよ」
    エマはそう言いながら、グランフレアに向けてはにかむような笑顔を見せた。そんなエマを見て、いつの間にか眉間に皺を寄せていたグランフレアの表情が幾分柔らかくなる。
    エマの飾り気のない真っ直ぐな言葉がグランフレアに染み渡る。第三者が、何よりエマがそう言ってくれるのであれば大丈夫だ。自分の作品は誰かの思い出になれる、そして生きる力添えができるのだと思うことが出来た。
    グランフレアは一度筆を置いてエマに近寄り、そっと囁く。
    「ありがとう。エマのおかげだな」
    「……?」
    エマは何が何だか分からないといった面持ちで固まっている。そんなエマを横目にグランフレアは再びキャンバスに向かい、そこから流れるような筆さばきでブーケを見事形にしていった。

    ブーケは無事にお色直しまでに完成し、今は華奢な新婦の手に収まって彩りを添えている。一仕事終えたグランフレアとエマは、スタッフ兼参列者として新郎新婦を会場の隅から見守っていた。
    新郎新婦はそんなふたりの姿を認めると、その幸せそうな表情から弾けるような笑顔を見せてくれる。どうやら、ウェディングブーケは気に入ってもらえたようだ。ちょうど他の参列者が新郎新婦の周囲にいないタイミングであったため、エマはそのまま新婦の元に向かい、お喋りに興じ始める。
    本日の主役である新婦は勿論輝いているが、グランフレアの目にはエマも同じくらいの輝きを放っているように見えた。新婦もエマも、心からの笑顔がよく似合う。

    ──次のウェディングブーケの依頼は……エマの式まで取っておきたいものだな

    「グラン、どうしたの?」
    物思いに耽っているうちに、エマはグランフレアの隣に戻ってきていた。そこでグランフレアはエマの姿をあらためて見る。いつも着ているギルドキーパーの制服ではなく、淡いブルーのドレスを身に纏っていた。関わるマイスターの皆に対して等しく思いやりの心を持つ、エマの澄んだ心を表しているようでよく似合う。
    もし彼女が望んでくれるのであれば、またエマにブーケを贈りたい。何よりエマとマイスターとギルドキーパー以外の関係性を築きたい。思ったよりも欲深い事を考えていると気付き、グランフレアは誤魔化した。
    「いや……なんでもないよ」
    「そっか、お仕事お疲れ様!」
    エマはいつものように優しくグランフレアに笑いかけ、労いの言葉をかけてくれる。そんなエマの気遣いで一息ついたグランフレアはエマに向かって微笑む。懐に忍ばせていた筆と小さな紙を取り出し、そのまま筆を走らせた。
    「今回はエマのおかげで依頼主の要望に応えられたな。ありがとう」
    そう言って、新婦のブーケに使ったのと同じピンポンマムを一輪、エマに手渡した。グランフレアがピンポンマムを選んだ理由にエマが気付くかは分からない。もしエマがその意図に気付いてくれたのであれば、次は花一輪でも小さなブーケでもなく、両手で抱えきれないほどのブーケを渡そうか。密かに目標を定めたグランフレアは、新郎新婦と参列者が織りなす幸せな空気を楽しんだのであった。
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