Cry for F…ふたりで入ったダンジョンの出口で、ファルガーが外のスイッチを押してきてほしいとお願いするので、浮奇は外へと足を踏み出した。
しかし外にはスイッチはなく、振り返ると自分とファルがーの間には、壁が立ち塞がっていた。
「フー、ちゃん?」
「ごめん、外に出られるのはひとりだったから、嘘をついた。
お前に生き残ってほしくて。」
それが、最後の言葉だった。
別れた時のことは覚えていない。
辛過ぎて彼の前で死にそうになるほど泣いて泣いて。
でもファルガーは自分を生き残すために別れを選んだので、生き残らなければ、と、こうして1人でダンジョンから脱出し、やっとのことで誰もいない廃れた街へとたどり着いたのだった。
壊れてしまいそうなベッドの上で、浮奇は毎日泣き続けるのだった。
浮奇の涙は枯れることを知らない。
「ふー・・・ちゃん・・・」
何度名前を呼んでも、彼が現れないことはわかっている。
そうしてまた日が落ちて、朝が来る。
ファルガーと出会うまでは毎日ひとりで過ごしていたのに、
今はもうひとりでどう過ごしていたか思い出せない。
正直このまま消えてしまいたいと何度も願ったが、彼の最後の言葉が呪いのように「生きろ」と訴え続けるのだった。
なんであんな嘘を見抜けなかったのか。
一緒にふたりで脱出する方法だってあったのかもしれない。
離れ離れになるくらいなら、一緒に朽ち果てればよかったとも思う。
でも、信じたかった。2人で協力して脱出して、今も、隣に_。
ファルガーは優し過ぎた。
自分が彼に依存していることをわかっていて、嘘をついたのだ。
だからこそ、浮奇は深く、傷ついた。
彼の優しさに、それを心から受け止められない自身に。
目の光を失った浮奇は、自身の手で首を掴む。
「っが、は・・・」
意識が朦朧とする。と同時に手の力も抜けて肺に空気が入る。
浮奇は何度もこうして無意識に自身を殺めようとした。
しかしいつも死に損ねるのだ。
ひとりになってどれくらい経っただろうか。
ファルガーの顔も思い出せないほどに病みきった浮奇だったが、彼の脳裏には“生きろ”という言葉だけが木霊していた。
ある日の夜、浮奇は夢を見た。
『浮奇。生きていれば、きっとまた会える。だから、待っていろ』
待って。
フーちゃん、置いていかないで。
どんなに手を伸ばしても、彼との距離は離れていくばかり。
いやだ、ひとりにしないでよ。
「フーちゃん!!!!」
ベッドから暴れるように起き上がる。
全身が汗と涙でびしょびしょに濡れている。
忘れていた、別れた日の記憶だった。
必ずまた会えるから、俺を信じろと、自信に満ちた顔で自分に笑いかけるファルガー。
その言葉を信じて、止まらない涙と共に浮奇は歩き出したのだった。
何が、また会えるだよ。
ほらまたそうやって、優しい嘘をつくんだ。
ファルガーのいない世界に、生きる意味なんてない。
でも、自分から命を捨てれば、彼にきっと怒られてしまう。
あと何回泣けば、強くなれるのかな。
ぽっかり空いた心の隙間はいつになったら埋まるの?
永遠に枯れない涙が心の傷に沁みる。
浮奇は、もはや涙の理由さえもわからなくなるほどの時間をひとりで過ごした。
生きている理由も、死ぬ理由もなく、ただ毎日、夜には無性に寂しくなって、涙を流す。
そして泣き疲れて眠り、目が覚めると朝が来る。
ただ、それだけの日々を過ごしていた。
また理由のない朝の光に包まれ浮奇は目を覚ます。
食糧は近くの草や動物を仕留めて最低限で食い繋いでいた。
今日もまた理由もなく生きるために街から外へ出た。
「・・・浮奇?」
「_____。」
忘れもしない、浮奇に刻み込まれた声に呼ばれた気がした。
風が浮奇の無造作に伸びた髪を揺らす。
声の聞こえた方に視線を向けると、そこにはひとつの影が見えた。
逆光でぼやけて顔がよく見えない。
わかるのは、光で反射する赤い金属。
おかしいな。まだ外が明るいのに。
いつもは夜にしか出ない涙が瞳から溢れ出す。
自分の感情の理解に追いつかず、その場で立ち尽くす浮奇。
近づいてきた影が、浮奇を抱きしめた。
「やっと_会えた。」
「ファルガー・・・」
浮奇の口から自然とこぼれた名前に、ぽっかり空いていた心の隙間が温かく埋め尽くされる感覚がする。
お互い言葉も少ないままに、流れるように抱きしめ合い、頬を擦り寄せ、唇を重ね合わせる。
とめどなく溢れ続ける涙を、冷たい金属の手が拭う。
浮奇はやっと、あぁ、生きることを諦めなくてよかったと心から思った。