準備はしっかりと『シュウ、今度のデートどこか行きたいところある?』
ルカからメッセージ。
シュウはうーんと一人ベッドに転がりながら考えた。
お互い会うには少し距離があるため、前回のデートは数ヶ月前。
その時はカフェで楽しく過ごしたのだった。
久々に会えるなら、何をしようか。
正直シュウはルカとのデート以外であまり外には出ない為、行きたいところと言われて簡単に思い浮かぶほどアクティブではなかった。
インターネットページを開いてデートスポットを検索する。
するとお互いの家から中間程の距離にある場所に何やら新しくテーマパークが出来たらしい。
普段自分もそういうところには全く縁もなく、ルカもテーマパークは行ったことがないと聞いたことがある。
たまには浮かれてみても罰は当たらないだろう。
『新しくテーマパークができたんだって、行ってみない?』
テーマパークのサイトのリンクも一緒に貼り付けて送信すれば、すぐに返事が返ってくる。
『POG‼︎いいじゃん、行こう。シュウの都合のいい日はある?』
『一日空いてる日だと、来月の火曜日だけど、ルカは大丈夫?』
『もちろん。日程押さえておくね。』
『チケットはどうする?それぞれネットで購入する?』
『よかったら俺がまとめて購入しておくよ』
『じゃあ、お言葉に甘えて。当日払うね。』
シュウは嬉しくてパタパタと足で布団を鳴らした。
「・・・なに着て行こう。」
ルカとのデートはいつも何を着るか迷う。
少しでも彼の隣に立った時に恥ずかしくないように。
クロゼットを漁るが、如何せん前回のデートの時とは季節感が異なる。
思い立ったら即行動。
普段の買い物は腰が重くてネットに頼ってしまうが、こうルカのことになるとワクワクで身体が軽く感じる。
シュウは部屋着から簡単に着替えると家を後にした。
明日のデートの為に揃えた衣服とアクセサリーを綺麗に並べてから、シャワーを浴びる。
使い切りパウチのちょっといいシャンプーを使ってみたらいい匂いに包まれる。
浴室から出た後は、肌の保湿も忘れずに。
「・・・楽しみだなぁ。」
寝坊しないようにアラームをセットして、シーツに潜り込んだ。
パチ。
まだ空は暗い。
時計を見る。
─2:34。
もうひと眠り。
次に瞼を開けば、アラームの10分前。
身体を起こして、アラームを解除する。
用意しておいた服を着て、準備完了。
鏡に映る自分の顔は、あまりにもニヤけていた。
『おはようルカ』
電車に乗ってから、メッセージを送る。
ちゃんと起きてるかな。
しばらく画面を見つめているとルカがメッセージを送り返すモーション。
『おはようシュウ!今日は楽しみだね』
文字の後にライオンがニコニコしているスタンプ。
返事の代わりにバナナに顔がついたキャラが喜んでいるスタンプを返した。
ゆらゆらと電車に揺られていれば、駅に到着した。
『着いたよ』
メッセージを送れば次は着信が返ってくる。
「もしもーし」
「あ、シュウ?俺も着いて、改札前に居るよ!」
「ほんと?えーっと・・・」
スマホを耳に当ててキョロキョロしていると、こちらに手を降る人物が。
「あ、居た」
そのまま足を進める。
「「シュウ〜」」
目の前の人物と耳元のスマホから二重に声が聞こえる。
そっと通話画面を切って、改めて声をかけた。
「ルカ、おはよう。」
「POG」
軽くハグのつもりだったがしばらくぶりのルカの姿に回した腕が離れなかった。
「・・・シュウ?」
「あ、えっと、ごめん」
「ふふ、可愛い。そろそろ行こっか」
ルカはポンポンとシュウの頭を撫でてから、そっと手を繋いだ。
テーマパークは新しくできたこともあり賑わっていた。
入口には大勢の人の列。
「わぁ、すごい人だね」
「うん!はぐれないように手は繋いだままね」
「・・・うん」
シュウはちょっと照れながらも、繋いだ手に少し力を込めると、握り返された。
「大人2名で」
「はい、どうぞ〜!」
スタッフさんが手を降っていってらっしゃいと微笑んでくれる。
「まずはどこ行こっか」
「僕あんまり場所とか調べてなくてわかんないんだけど・・・」
「さっき地図もらってきたから一緒に見よう!」
少し人混みから外れた影で、地図を一緒に覗き込む。
ざっくりと円になっている地形。
「このルートで回っていけば順番に何か乗れるんじゃない?」
シュウが道を指差した。
「いいね、そうしよう!・・・あ」
「ん?」
ルカがこっちを見て何かに気づいたような声を出すので顔をあげる。
─ちゅ。
柔らかいモノが、唇に触れる。
「っ?!?!」
「ふははは!」
いたずらに笑うルカ。
「なっ、ななな・・・!」
「誰もいないの確認したから、へーき!さぁ、行こう!」
ワナワナと顔を赤くしているシュウの手を取り、ルカは歩き出した。
いくつかのアトラクションに乗って。
待ち時間も、周りの人たちが楽しそうにしているのを見ながら一緒に笑って楽しんだ。
「次どうする?」
「あ、あれ乗ろうよ!」
ルカが指さしたのは、宇宙船に乗って敵をやっつけるシューティングゲーム。
「・・・負けた方が、罰ゲームね」
「望むところ!」
二人はギラリと瞳を光らせた。
得点
ルカ 279800点
シュウ 159900点
勝者 ルカ
「POOOG」
「負けちゃった〜」
「シュウはFPSは強いのにね!」
「本物の銃に似たやつはルカのほうが得意だったのかな」
んへへ、と笑うシュウ。
その笑顔が少し悔しそうで。
罰ゲームを撤回しようかと思ったが、男に二言はない。
「シュウが、罰ゲームね」
「何すればいい?」
「・・・じゃあ、あそこのチュロス、食べたい」
ルカが指さしたのは小さなワゴンカー。
「わかった、待ってて」
シュウは小走りでそこまで行くと、2本のチュロスを持って帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、ありがとう。」
ルカは差し出されたそれを一つ受け取る。
「あ、ちょっと食べるの待って」
シュウがストップをかけるのでそのままジッと待っていると、片手でスマホのカメラを起動させる。
「イェーイ」
チュロス同士を重ねて、シャッターをきる。
「ンハハ、これやってみたかったんだ。」
「後でその写真頂戴」
「もちろん。」
後で何かのアイコンにしようと思ったルカだった。
「次は・・・ここかな」
シュウが指差すのは、お化け屋敷チックなアトラクション。
「お、脅かすのはちょっと怖い、かも?」
「乗り物らしいからきっと大丈夫じゃない?」
ホラーが平気なシュウはケロッとして入場列へ向かう。
ルカは置いていかれないように隣をついていくのだった。
「結構暗いね、ルカ、平気そう?」
「シュウ~・・・」
「ほら、手、繋いどこ」
アトラクションまでの建物内はかなり薄暗く、外が明るかったお陰で目が慣れるまでルカは足元がおぼつかない。
シュウは全く平気そうでルカの手を引いて先導してくれる。
『大変混みあっております、前の方に続いてお進みください』
ぎゅうぎゅうと周りから押され、必然的にシュウと密着する形になる。
シュウの身体からフワリと漂う甘い匂い。
「・・・・・・。」
ルカがごくりと喉を鳴らしたのは周りの雑踏音のおかげで聞こえることはなかった。
列はゆっくりと進み乗り込んだアトラクションの座席。
左右のスピーカーから少し怖い音楽と共に動き出す。
そこまで大きくない座席のおかげでまたしてもシュウと身体が触れ合う。
カプセルのような形をしているせいで、周りの視界も遮断されている。
ルカはちらりと横目でシュウを見ると、前を見て楽しそうにしている。
そろりと彼の腰に腕を回してみた。
「わっ・・・ルカ?」
急に触れられたことに驚いたのだろう。
身体をビクつかせてこちらを見るシュウ。
「シュウ」
名前を呼んで、反対側の手で顎を掴む。
「ちょっ、ルカ・・・」
ゆっくりと唇を重ねる。
チュ、チュ─
リップ音は、アトラクションの音に掻き消された。
「も、もう、これ以上は、だめ!」
グッと胸を押されて唇が離れると、ルカはハッと我に返る。
「ご、ごめん・・・」
そのまま二人で黙ってアトラクションを最後まで乗り切った。
アトラクションから外に出れば、空は曇りに変わっており、パラパラと小雨が顔を濡らした。
「雨、だね」
「酷くなる前に、帰ろっか」
「・・・うん」
今日はルカとお泊まりの予定は特に約束していなかった。
もしかしたらこのままお開きかな、と少ししょんぼりするシュウの手がルカによってぎゅっと握られる。
「最後に、寄りたいところがあるんだけど」
連れてこられたのは、小さな子供向けのお城。
プリンセスが過ごしていそうな、キラキラとした装飾が施されている。
ルカがこんなところに来たいだなんて少し驚いたシュウだが、子供向けとはいえ幻想的な場所にうっとりする。
「ルカ、ここに来たかったの?」
「・・・うん」
ルカはキョロキョロと辺りを見渡す。
人が少し減ったタイミングで、記念撮影スポットのキラキラ光る椅子にシュウを座らせる。
「シ、シュウ」
目の前のルカは顔が少し強張っている。
「ルカ・・・?」
「大好き──ちゅ」
小声で囁かれた愛の言葉とシュウの鼻先に軽く落ちる口付け。
「・・・えっ」
ボン、と爆発が聞こえてきそうなほどに、シュウの顔はみるみる真っ赤に染まる。
「い、行くよ!」
座っているシュウの手を引いて、スタスタとその場を後にした。
まだ先程のことがうまく理解できないうちに退場ゲートをくぐり抜ける。
ぼーっとルカの後をついていけば、急に止まる彼の背中にドンとぶつかった。
「ぶっ」
「はっ・・・シュウ」
顔を見上げればハクハクと口から息をするルカ。
その頬まだ少し赤くて。
「えっと・・・ルカ?」
「シュウ、あの、この後、なんだけど」
「うん」
「ホ、ホテル予約した、から、一緒に行きませんか?」
二人で向かい合って、両手をぎゅっと握られて、その手は少し震えている。
予想外のお誘いに、シュウの胸はキュンと高鳴る。
「・・・もちろん。」
ニコリと笑いかければ、パァァァと喜びがルカの顔に浮かぶ。
後で、あのお城の真相をゆっくり聞こう。
そう思いながらホテルへと足を向かわせた。
部屋にいっぱいのバラが置いてあることは、シュウはまだ知らない。