卑怯者のワルツ 手紙というのはとても便利で、同時に不便でもある。
声なら感情を読み取ることもできるし、同じ言葉でも真剣さを伝えることもできただろう。
逆に言えば、どれだけ真心を込めて文字を羅列しても、感情を補いきることはできない。ましてや、たった六文字で何を伝えようというのか。
それでも、机の上に置かれた紙を見て。そこに残された文字を眺める男は、きっとこう思っていることだろう。
あの旅人はなんて卑怯なのだ、と。
蛍が、このメロピデ要塞の主人であるリオセスリに想いを告げられたのは、もう一か月前になる。
夜の一時。恒例とは言えずとも、いつものと称せる程度に行われていたお茶の席で、まるで世間話のように軽く、愛していると。
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