エイエドがしっぽり温泉旅行に行く話クラインスト王国にやってきてから、もうそろそろ季節は夏を迎えようとしている。日照時間は長く、夕方近くになっても窓の外ではぎらぎらと太陽が輝いている。睨めるように視線を向けたエイトは堪らずベッドの上に倒れ込んだ。
こうも暑いと何をするにしてもやる気が起きない。
「いや、暑すぎないか!」
自分の暮らす国も大概暑かったが、この国も大概暑いものである。というか、そもそものこと空調機器が何一つないから暑いのだろう。
暑い暑いとベッドの上で転げ回っていれば首根っこを持ち上げられる。んげ、と声を漏らしながら隣へと目を向ければ、まるで暑さなど無関係な顔をしたエドモンドが眉間に皺を寄せていた。
「君は今日この部屋から一度も出ていないではないか!だらしがないぞ!」
「それはエドモンドもだろ?」
「うっ!」
いつもは整えられたエドモンドの髪が今は毛先が四方八方に跳ねている。
真っ赤になって「君のせい、だろ」と弱々しく呟くエドモンドの身体をエイトは再びベッドの上に縫い付けたくなった。けれども流石に真っ昼間からずっと無理を敷いてきたので、これ以上の無体は強いる事が出来ない。
体内に燻った熱ともども息を吐きだすエイトをエドモンドが怪訝な目をして見てくる。どうしてこうも、この副団長さんは自分の色気を理解していないのだろうとエイトは枕に顔を埋めた。
そういえば、今日だって普段からその艶めかしいボディにぴったりとフィットしたスーツに汗を滲ませながら視察だとか言ってやってきたのだ。透けた肌色、くっきりと浮かんだ性器の形にブチリと神経は焼き切れた。こんな真っ昼間から、と文句を言いながらも抱きしめれば——おそらく無意識なのだろうが——腰を押し付けてくる。そんなだから恨み言一つも言いたくなるってものだろう。
シーツはいまだに色んな体液で濡れているし、身体だってベトベトとしている。よくそんな状態でエドモンドはスーツを着れるものだ。
「あー、そろそろ水浴びじゃなく、ちゃんとした風呂に入りたい。そう、欲を言えば温泉とか」
「……温泉?」
何だそれは、と不思議がるエドモンドの声にエイトは顔を上げる。
「地中から噴き出した湯のことだよ。クラインスト王国にも熱したストーンに水掛けて温めた蒸気を浴びて汗を流すところがあるだろ。それの直接湯を浴びる感じ」
「ああ、間欠泉の事か?」
「えっ!クラインスト王国にも温泉が湧き出してるところがあるのか!?」
初耳だ。びっくりして顔を上げたエイトにエドモンドは首を傾げた。
「確か水のエリアの端っこの方に、その湯を利用した入浴施設があった筈だ。ただ施設と言っても屋外であるし、今から行ったところで夜遅く」
「それが良いんじゃないか!今すぐ行こう!」
「今から馬車を出すのか?夜盗に襲われないだろうか……」
「襲われたところで、お前がいるから大丈夫だろ?」
「それはそうだが」
そんな絶対的な信頼を置かれても、等とぼやくエドモンドの耳は赤く染まっている。照れているのだと知って、エイトは思わずエドモンドの耳たぶに口付けていた。