エイエド千夜一夜プールに入り、冷え切った身体は今はすっかりとジャグジーとエイトの身体によって温められている。すっかりと潤った蜜壺の奥を責められるたびに、先程から天蓋についた飾りがしゃらしゃらと音を立て、その音に気が付けばエドモンドは視線を向けていた。
「気になる?」
自分の真上から聞こえてきた声にエドモンドは視線を正面へと移す。自分としては何気なく視線を向けたつもりが、エイトはそれをエドモンドが耳障りに感じていると捉えてしまったのかもしれない。苦笑うエイトにエドモンドは口を開こうとして、しかし、それと同時に最奥を突かれる衝撃にエドモンドは開きかけていた口を慌てて閉ざした。
眉間に皺を寄せるエドモンドを見て、エイトが吹き出して笑う。
「ごめんって」
伸びてきたエイトの指先が頬を撫でる。それから指の先で頬を押されてエドモンドはますます顔を顰めた。
「そんな怒るなって。怒った顔も可愛いけどさ」
「何を巫山戯た事を」
「本当だって」
お前は可愛いよ、と口にしたエイトの唇が近付いてくる。その唇から逃れようと顔をそむけたエドモンドは窓ガラスの中にエイトを前にして淫らに足を開く自分自身の姿を見つけ顔が熱くなるのを自覚した。
「自分の元いた世界にもあったな。確かサンキャッチャーって名前が付いていたような気もするけど」
「……ゴホン。あれには魔除けの意味があるらしいぞ。エンテン殿がそう言っていた」
「ああ、そっか。最近どっかで見た記憶があると思ったら火のエリアで見たんだっけか」
幾つものガラスが連ねられたそれは太陽の光を反射してネオンストーンのように光り輝いて綺麗だった事を覚えている。それは死のエリアに近く、その影響を受けやすい火のエリアだからこその光景だったのかもしれないが、開放的な部屋の作り、天蓋付きのベッド。プールなどは光のエリアの貴族の屋敷でも滅多と目にする機会が無い。もしかすればここは火のエリアの豪邸を再現した部屋なのかもしれない。そう気付くなり、ここが火のエリアの邸宅のようにも感じられるから不思議な気分だった。
ただしエドモンドにとって火のエリアの記憶はエイトに反して、あまり良い記憶が残されていない。それは火のエリアの感想としてではなく、火のエリアを訪れた目的に由来している。あのとき急ぎ火のエリアに駆けつけてみれば、エイトは血みどろになってエンテンの肩に担がれていた。
エイトが首に掛けているネオンストーンは光が戻らず、それはさながらエイトの今の状況を伝えているようだった。来る日も来る日も目を覚まさないエイトの手をエドモンドは何度握りしめた事だろう。
いや、それだけではない。あまりにもネオンストーンに光が戻らないものだから、心配したブレイドの提案でエドモンドは眠るエイトに〝魔力の調整〟を行うことになって……
「? なに顔を赤くしてんの、お前。あっ、もしかして……〝おお、美しき騎士殿よ。今宵、お前は私の妻となるのだ〟とか何とか見初められた異国の王と初夜を迎える羽目になった騎士様の話とか思い出しちゃった感じ?」
「なっ! そんな話、私は知らない!」
「え、そうなの? お前の愛読しているシリーズの中に確かあったと思うけど。最初は強引に騎士の身体と心を奪おうとした、とある都の王様が、実は騎士に対して純愛で、騎士もまたそんな王様に心を許し始める物語」
千夜一夜物語のようで個人的にはめちゃくちゃ良かったけど、と残念がるエイトにエドモンドの心臓がドキリと跳ねる。
〝愛読〟というのは些か誤りであるが、しかしエドモンドが暇さえあれば〝騎士様シリーズ〟を執務室だったり馬車の中でこっそりと読んでいるのは本当の事だった。まだその数は片手で数えられる程しかないが、しかしそのようなタイトルは聞いた事もなければ見た事もない。
「……教えろ」
「え、なに? 聞こえなかったから、もう一度」
「だ、だから! その話はシリーズ何冊目のものなのか教えろと言ってるんだ!」
顔を真っ赤にして声を荒げるエドモンドに、エイトの目が瞬く間に輝く。待ってましたと言わんばかりの様子に、それはもしかすればエイトの罠であった可能性も無くは無かったが。
「ふぅん、この話にそんなに興味があるんだ。仕方ないなあ。それじゃあ、俺が手取り足取り、どんな話だったかをお前に教えて、あ・げ・る♡」
白い歯を見せたエイトがエドモンドの肩に手を置く。その力強さに先ほどの予感は確信に変わっていた。エイトはやはりこうなることを見越して、エドモンドにその話を持ち出したのだ。
そうこう考えている間にもエドモンドの蜜壺を満たしていたエイトのものが抜け、エドモンドはほんの少しの寂しさを後ろに感じてしまう。が、それが愚かな考えである事をエドモンドは直ぐに理解する事になった。
普段はあまりじっくりと見る事のないエイトの痩せ細った身体には不釣り合いなほど逞しい肉茎がエドモンドを前にして漲ったままでいる。
王国直属の騎士でありながら、こんな痩せ細った男の言いなりになっている自分に、エドモンドは恥辱を感じると同時に間違いなく充足感を感じていた。騎士として貴族として生きてきた自分の人生の中では味わったことも無い感覚だ。
熱の籠った眼差しを返してきたエドモンドにエイトは眼を細めた。
「じゃあまずはシャワーを浴びに行こうか」
「風呂なら先程」
「でも、ここ、俺のでいっぱいになっちゃっただろう?」
そう口にしながらエイトがエドモンドの後孔に指を埋めてくる。途端に聞こえてきた下品な水音にエドモンドは耳を覆いたくなった。
「初夜の前には身体を清めないと」
耳に囁かれた言葉にエドモンドはごくりと息を呑み込む。
「初夜」
「そう、〝今宵、お前は私の妻になるのだ〟」
ここで、と口にしながら中に埋められたエイトの指が突起を押してくる。思わず上がりそうになった声を掌で抑えて、エドモンドはエイトが視線を向ける先へと目を向けた。
この部屋に入った時から気になっていたガラス張りの個室には便器と簡易的なシャワールームが見える。
「あ、あんな丸見えのところで」
「興奮するだろう?」
エドモンドの中から指を抜いたエイトがエドモンドの右手を掴み自身の陰茎へと導く。
「ほら。お前との初夜を期待して俺のここもこんな事になってる」
「っ」
「〝早くお前が欲しい〟」
そう口にするエイトの声は熱に掠れていて、その声音にエドモンドは熱を上げた。
エイトに背中を押される形でベッドから降りたエドモンドは浴室の前に立ったところでもう一度後ろのエイトを振り返る。
「身体を洗うだけで本当に良いんだろうな?」
「もちろん」
「君が何を求めているのかは知らないが」
溜め息を吐いたエドモンドは透明なガラス扉に手をかける。中に入れば普段であれば隠される筈の行為が丸見えの状態に気が付けばエドモンドの呼吸は速くなっていた。
ベッドから移動する最中は腹に力を入れていたのだが、エドモンドの中がエイトのもので満たされている事は紛れもなく事実だ。
窓ガラス越しにエイトを見やれば、まるでそんな状態のエドモンドを知っているかのようにエイトは笑顔を向けてくる。その笑顔を恨めしく思いながらエドモンドは蛇口に手を掛けた。
頭上から降り注いでくる湯に全身の汗は流せても、尻の奥に溜まったものは自分の指で掻き出す以外に術がない。
桃色をしたガラス容器に入っているものは身体を洗うためのものだろうか。中身を掌に開けるとケーキのような甘い香りが浴室に充満する。その香りを胸いっぱいに吸い込んで心落ち着けた後でエドモンドは掌を身体に当てた。
首から肩、肩から腕へと掌を滑らせた後、エドモンドは自身の胸へと視線を向ける。頂きでは先程までエイトによって姿を見せていた筈の乳首が今はすっかりと頭を隠している。普段であれば、ここは念入りに洗うようにしているのだが。暫し考え込んだエドモンドは覚悟を決めたように泡を胸の上に置く。胸板の上に掌を滑らせた後で、エドモンドは両の人差し指を乳頭の上に置いた。
何が面白いのか、ここはいつもエイトが舌や指だったり這わせてくる場所だ。特に念入りに洗っておかなければならない。
普段であれば処理的な行為もエイトに見られていると思えばどうしてこうもむず痒く感じられるのか。
指先の下で乳首が芯を持ち始める。半ば信じがたい気持ちでエドモンドが下を見やれば、エドモンドのものが僅かに〝兆し〟を見せ始めていた。
「あっ、は、どうして……普通に身体を洗っているだけだというのに」
恐る恐るとエイトを見やればエイトの目が欲に濡れている事に気が付く。唇を舐めたエイトが、その手を自身の陰茎へと運ぶ。その光景を目にしてエドモンドの身体は期待に震えていた。
「あっ、嫌だ……こんな下品な格好を、私は……」
エイトに見せて良いのだろうか。
彼は本当に引かないのだろうか。
葛藤すればする程に、どうしてか指の下の突起が硬くなり始める。エイトがしてくれているみたいに少し強めに擦れば、膨らんだ乳輪に押し出されるみたいにそこが頭を出し始める。今度はその突起をこねくり回すように洗えば、エドモンドが胸から手を離したとき、すっかりそこは野いちごのような姿を胸の頂きで見せていた。
下腹部には重さを感じるが、しかし、そこに目を向ける勇気は今のところエドモンドにはない。
〝ほら、エドモンドの可愛いここ。顔を出してきた〟
ふと、エイトの声が耳を掠める。収縮した後ろの孔からどんどんとエイトのものが溢れ出してくるのをエドモンドには止める事が出来なかった。
「あっ、あっ、やぁん」
ふるりと顔を振れば長い髪が背中に張り付く。その細かな刺激すらも今のエドモンドには興奮材料に過ぎない。
その場に崩れ落ちたエドモンドは堪らず尻の割れ目をタイルに押し付ける。ひんやりとしたそこが気持ち良くて、エドモンドは無我夢中でタイルに後孔を擦り付けていた。
「あっ、は、気持ちが良いっ♡」
むず痒いそこがタイルの溝で擦られる度に確かな快感が育まれていく。
「エイトっ」
強請るように上げた声は果たしてエイトに届いてしまっているだろうか。いや、そんな事はもう正直どうでも良い。
へこへこと床に尻を押し付けていたエドモンドは堪らず四つん這いの格好で腰を上げる。もともと身体を清めて来いと言ったのはエイトの方で、エドモンド自身はその指示に従っているだけに過ぎない。そう気を改めて、エドモンドは尻の中に自分の指を埋めた。埋めたところで、収縮する後孔に押し出されて、エイトのものはもう殆ど残っていなかったりするのだけれども。
「あっ、ん、きもちいい♡ 中を清めているだけだというのにっ♡」
は、は、と犬のように息を乱すエドモンドは指を奥へと進める。途端に襲いきた快感は得も言われぬもので、エドモンドは無意識に蜜壺を犯す自分の指を増やしていた。
ずぼずぼと指を抜き差しすれば開けた口が閉じられなくなるほど気持ちが良い。
「これでは本当に犬のようではないか……しかしっ♡」
この快感は最早エドモンドには止められようがない。やはりこの行為はエイトを前にしてするものじゃない。そう知覚しつつ、エドモンドは絶えず腰を振り始めていた。
腰を振るたび太腿に挟んでいた筈の肉茎が腹を打つ。あと少し。あと少しの刺激で達する事ができる筈だとエドモンドが反対側の手を前へと伸ばしかけた。そのとき。
「おっと、そこから先はベッドの上でしような?」
耳孔に囁きかけられ、エドモンドは身体を震わせる。
ああ、どうしてこの男は自分の身体を憎たらしいほど知り尽くしているのだろう。
「エイト」
呆然と視線を向けるエドモンドにエイトは人の悪い顔をしている。
「〝旦那様〟だ」
「〝旦那様〟」
「〝そう、いい子だ〟」
エドモンドの頭を撫でたエイトは立ちあがるとシャワーヘッドを手に取る。エドモンドの上体を起こすとその身体を掌全体を使って清め始めた。
ぞわぞわと沸き起こる快感を拾っていると、やがて頭の上に何かをのせられた事に気が付いてエドモンドは目を開ける。
「ああ、やっぱり綺麗だ。お前に似合ってる」
青空のように澄んだ眼を前にエドモンドは頬が熱くなるのを自覚した。いったい彼は何を自分の頭の上にのせたのだろうと手を運んでみれば。
「……ベール?」
「そう、さっき部屋の隅にあるのを見つけたんだ。こうすれば、ますます異国の雰囲気が出て良いだろ?」
可愛いと口にしながらエイトが額に口付けてくる。その額の上には人工の花冠まで載せられていた。
「ああ、これにベビードールがあれば最高なんだけどなあ」
「ベ、ベビ……?」
「こっちの話。そんな事よりも」
エドモンドの腰に腕を回してきたエイトが唐突にエドモンドを抱きかかえる。
「な、何をする! 降ろせ!」
「えー、だめだめ。俺の為に身体を綺麗にしてくれたんなら、その褒美はちゃんとやらないと。それに何より腰が抜けた状態のお前をあのままあそこに放置しておけないし、俺だって放置されたくないの。こーれ♡」
そう口にしながらベッドの上に放り投げられたエドモンドの前には赤く濡れるエイトのものが目に入る。よくその状態でエイトよりも体格のある自分を運んで歩けたものだ。いや、感心してる場合でもないか。
先ほどよりも明らかに嵩の増しているエイトのそれに逃げを打とうとするも足首を掴まれる。
「こぉら、逃げないの」
「だ、だが、君はさっき三回も」
「だーかーらー、〝君〟じゃなくて〝旦那様〟だって」
「だ、旦那様……お願いだから、もう、激しくしないで」
せめてもと懇願の言葉を口にしたエドモンドは上目でエイトを捉える。緩く立ち上がった己のものをベールで隠そうとするも、しかし欲に正直な身体は太腿を擦り合わせている。
「あのさ。お前。それ、逆効果だって気付いてる?」
「なに?」
思わず疑問符を頭に浮かべるエドモンドの身体を翻すと、エイトは密に濡れたエドモンドの最奥に剛直を突き刺す。
「ああああっ、駄目だ! そんな、突然、奥深くにっ」
「けれども、俺のエッチな奥様はここが好きなんだろう?」
ずんずんと奥を突かれる度に蜜壺が切なくエイトを締め付ける。エイトが腰を抱え上げればエドモンドの奥が赤子のようにエイトの先端に吸い付く。その心地よさにエイトは眼を細めていた。
「ああ、いい、凄く気持ちいい、お前のなか。分かる? お前の奥の部屋が、もう俺の子どもを欲しがって吸い付いてくる」
「な、なにを馬鹿なことをっ!」
「えー、でもさあ。エドモンドは俺との子を欲しくないわけ?」
エイトの言う奥の部屋をノックされながら、エイトが不貞腐れたようにエドモンドの身体を折り曲げる。
「お、さすがは副団長。身体が柔らかいな」
感心したように声を上げるエイトの顔が至近距離に見える。その顔を前にして、不覚にもエドモンドのなかはエイトのものをぎゅっと締め付けていた。
「な~あ? どうなんだよ?」
「わ、私は別に、もし君との子を授かれるというのであれば」
「いうのであれば?」
どきどきとする心臓を必死で宥めていれば、ふと顔にエイトの吐息がかかる。
「ふふ、……なーんちゃって、冗談♡」
「……は? っ、君という人は!」
「ごめんごめん。でも、お前の言葉は嬉しかったよ。これは本当のこと。ありがとな、エドモンド」
――愛しているよ、私の可愛い花嫁。
そうエイトが耳に囁いてきた言葉は物語の中にあった言葉か、はたまたエイト自身の言葉か、その真相は物語を読んでいないエドモンドには分からない。しかし。頬に与えられたエイトの唇は甘くて優しい。ああ、本当に彼の子を孕めたら良いのに。そう一瞬でも思ってしまった自分も異国情緒に流されているのかもしれないと、意趣返しと、それからこの旅を計画してくれたほんの少しの礼を込めて、エドモンドはエイトの横顔にキスを送ると同時に、そっと中にあるエイトものを精一杯締め付けてやった。そう、耳に聞こえるエイトの悲鳴をエドモンドは心地良く感じながら。