狐憑きエンディング2朝灯、エンディング2を辿った場合の話を書く
息が切れつつも走り続ける声、急いでいたのであろう足音、着物がめちゃくちゃになって擦れる音。
そろそろか、と椅子に腰かけノートと羽根ペンを持つ彼は襖の方を見た。
そっちの方を見れば、息を切らした朝──もとい大人の姿の朝灯が崩れた着物さえ直すことなく、彼の目の前に来るのは稀なことだ。
「──あっ、きく……」
ようやく口を開く朝灯、顔を上げることなくフラフラと歩き椅子に座っている彼の元へとやって来た。
「……空希、く……ん」
「朝灯、どうし」
その言葉は途中でかき消された。
目の前で膝を崩した朝灯が、ようやく顔を上げる。
冷や汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔……それを、空希は今までの記憶を辿っても見たのは二度目だった。
「俺っ……ダメだっ……た……」
「……そうか、助けられなかったんだな」
九尾と契約をする人間、通称・狐憑き。
彼が気にかけていた狐憑きは、死んでしまったのか……否。
「またっ……ダメだった……! あの子と同じような道は、辿らせたくないって……そう、思って……なのにっ……!」
震える手を見下ろして、汗なのか涙なのか分からない雫が床へポタリポタリと落ちれば、畳にシミとなって広がる。
「あの時から何も変われてない! 何も……誰もっ……助けられなくて……っ、俺、は……」
早い呼吸、瞳孔の開き具合、身体の震え、抑えきれない感情の噴出。
通称PTSDと呼ばれる症状を見た空希は、そっと朝灯の頭を撫でる。
同じような光景を、過去に見た。それが、繰り返されてしまった──彼にとってどれだけ、その時のことが心に強く刻まれているのかが、今の状態を見ればよく分かる。
「……忘れ、られないよな」
小声で呟けば、朝灯は少しずつ落ち着きを取り戻す。
「…………ごめ、ん……空希……くん……」
「いや、いい。落ち着いたか」
「……うん……」
空希の膝に伏せるように腕を載せれば、朝灯はぼんやりと外を眺める。
彼は、頭を優しく撫で続けながらも外の景色を眺めた。
終