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    かづき@FF14そうさく

    @azeosaru

    ねちねちとしょうせつかくひと。
    基本うちの子ばなしばっかり。よそのこもかりることある。

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    POIPOI 58

    #梓アズ

    第一話 雨「……猫……?」
    『猫? 僕の種族のことを言っているのか?』
    「種族……?」
    『僕はミコッテだ、お前は……見た感じヒューランみたいだな』
    「ちょ、ちょっと待って……なに? ミコッテだのヒューランだの……」

    話が食い違うのに動揺する梓は、目の前の少年を見つめる。
    見れば見るほど似ている。鏡にただ写っているだけなのでは、と錯覚するほどに。それでも、頭にある可愛らしい耳を見れば違うのだろう。
    それに、鏡の中は夜の森の中のようだ。時折、狼の遠吠えのようなものも聞こえるし火を焚べる音がリアルで、梓は更に混乱する。

    『……お前、名前は?』
    「え……梓……華月 梓」
    『名前まで似てるな……僕はアズイル・カヅリエ。吟遊詩人だ』
    「吟遊詩人……? えっと、英雄譚を歌にして旅をするっていう……」
    『それを知ってるなら説明しなくても良さそうだな。僕は、旅の途中で見つけた奇妙な手鏡を拾って野宿しているんだ』

    手に琴を持ち、音を奏でながらアズイルはため息をつく。

    『変なのが出てくるとはなぁ……』
    「なっ……僕からしたら君のが変なのだ!」
    『そりゃそうだろうな、僕らは違う世界に住んでいるようだ』
    「違う、世界……?」

    ファンタジーな小説に出てくる、パラレルワールドとか異世界のようなものか……梓が首を傾げている時もアズイルは琴を奏でるのを止めなかった。

    「……人と話す時くらい弾くのやめなよ」
    『弾かないと野生の動物が寄ってきて襲われるんだ、夜の森は特にヤツらにとって恰好の餌になりやすいからな』

    平然とした顔で言う彼に絶句する。
    そうだ、旅をするという事はそういうことなのだ。
    常に危険と隣り合わせの世界で、彼は生きている。

    「……ごめん、僕……何も知らなくて……」
    『別にいいさ、野宿したことのないやつは大抵言うし……それより』

    チラッと一瞥し、梓の向こう側──窓の外を見た。

    『お前は、曇ってるな』
    「え……」
    『ずっと降ってる雨みたいな顔してる』
    「そんな顔……してない」

    段々と小声になっていく。そして、雨音と雷鳴の中で聞こえる男女の二つの声にアズイルの耳はピクリと動いた。

    『……なるほどな』

    それだけで、何があったのか察したのか琴を奏でながらも火に薪を入れる。

    「……聞こえるか、やっぱり……僕の話、聞いてくれないか」
    『いいよ』

    アッサリしているな、と思いながら梓は重たい口を開けた。


    ……。


    僕は、小さい時から天才ピアニストって持て囃されていたんだ。
    全国コンクールで何度も賞をとったことがあるし、アメリカの有名な音楽学校に大きくなったら来ないかって言われている。

    ──アメリカってなんだ?

    ……アメリカ合衆国って言う国。
    凄く大きい国さ。

    ──ふぅん、ウルダハみたいなものか。

    ウルダハ? よく分からないけど……。
    とりあえず、そんなこともあって……僕は……自分で言うのもなんだけど、金持ちなんだ。

    皆にちやほやされて、いい気になったことなんてない。いつもピアノと一緒にいることが楽しかった。
    小学校は色んな友だちがたくさんできて、皆やさしくて……楽しかったんだ。
    でも、中学校になってから僕は聞いてしまって……。
    友だちだと思ってた皆は、僕の金目当てだった。
    一緒に遊んでいればお小遣いか貰える、だから今のうちに媚びを売るんだって。

    ……僕は、それ以降……他人を信じられなくなった。

    ──信じられない、ね。

    他人を信じられなくなった僕は、今度はいじめの的になった。

    ──いじめ?

    えっと……そうだな……やられたことは、ピアノの楽譜を隠されたりとか……制服……着るものを、棄てられたりとか……酷い時は、殴られたり蹴られたりもした。

    ──どの世界も変わらないな、くだらない。

    くだらないって……僕は真剣なんだけど……。

    ──知っているさ、僕のくだらないはソイツらだ。続けてよ。

    ……それで、僕は次第に学校に行けなくなって……不登校になった。
    原因が分からない父さんと母さんは、僕を巡って更に言い争うようになって……僕は部屋に引きこもりになって……今の状態だ。

    ──更にって、その前から?

    うん、小学生の頃に僕を誘拐しようと家に不法侵入した人がいて……それ以来。

    ──大変だな、お前。


    ……。


    ポロン、と奏でられる音に梓は泣きたくなるのをグッと堪える。
    それを見たアズイルは、しばらく目を伏せてから瞳を開いた。

    「……今は雨が降り続けてる」
    『……え』
    「けど、止まない雨はない。明けない夜はない。お前が、その世界で何を愛しているかで変わる」

    少しだけ、梓の中に降る雨が少しずつ止んで行く。

    『……アズイル……』
    「柄にもないけど、お前の悲しみはいずれ晴れるさ。お前が、音楽が好きならな」
    『……そうか……』
    「音楽で世界を救うことはできないけど、自分を助けることはできる。だから……いつまでも悲しい顔をしていると、音楽が離れるぞ」

    梓の再び泣きそうな顔をするのを、アズイルはため息をついた。

    「泣きたくなったのなら、泣いた方がいい。心の悲しみは泣くことで晴れることだってあるんだ」
    『…………っ、ぅ……ぐ……うぐっ……ううぅっ……』

    ずっと、泣いてはいけないんだと。

    自分は、そんな資格がないんだと。

    それを、赦してくれる人を探していた。

    少しずつ、雨の音が弱まっていく。


    彼の心を、空は写しているようだった。



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