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    かづき@FF14そうさく

    @azeosaru

    ねちねちとしょうせつかくひと。
    基本うちの子ばなしばっかり。よそのこもかりることある。

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    🌙の話

    🌙のお話。





    それは、アズイルが部族から逃げて三年後のこと。
    運命は皮肉にも、第七霊災で彼を生き残らせてしまった。
    13歳ぐらいになるのだろうか、アズイルはようやく大きくなった果実を一つ取り、もそっと口に含む。
    大きくなってもまだ、成熟していない果実は酸っぱいだけで甘さなど欠片もない。
    それでも、彼の腹を満たすには十分だ。

    ここ数日、食べ物にすらありつけずに彷徨っていたのだから。

    果実を食べ終え、食べる部分のなくなった芯の部分を雑に投げ捨てた。
    他に食べれる果実はないか、と実を取るが高いところにしかなく彼は諦めてその先にあったはずの村へと歩いて行く。

    人が生きているとは思えない、壊れた瓦礫の中にあった元々寝床だったのであろう場所から毛布を取り、適当に寝れそうなスペースを見つける。
    そこで毛布にくるまれば、あとは眠気が来るのを待つだけだった。

    ……だが、足音が聞こえてアズイルは身体を震わせ警戒する。
    誰か来る、と逃げようとするが半壊しかけた門からしか村からは出れず、その前まで行き誰が来たのか様子を見ながら彼はくるまった毛布をギュッと握った。

    「……おやおや、ここも……これでは、誰も生きていないかな」

    男性の声だ。彼はフードを被っており表情は伺えない。物陰に隠れて、様子を見ているのをその人は何の仕草もなくアズイルの元へやって来た。

    「こんばんは。この村の子?」
    「っ……!? だ、誰だ……!」
    「誰? うーん……誰、か……吟遊詩人って言えばいいかな? 歌を歌って、各地を旅しているんだよ」

    男性は、その黄色い瞳を優しく細めて笑う。

    「……」

    そこで、マズイ果実しか食べてないアズイルの腹が盛大に鳴った。男性はクスッと声を漏らして、アズイルを引っ張る。

    「晩ご飯にしようか、お肉を食べさせてあげるよ」
    「……お、にく……?」
    「うん、とびきり美味しいさ」

    と、男性は村から出て近くの茂みへとアズイルの手を引いて歩いて行く。
    そこでは、すでに野宿の準備がされており彼は焼き上がり始めた肉を、クルクルと少し回すと丸太に腰掛けるように彼へ伝えた。

    「……」
    「そう警戒しないで、大丈夫だから」

    と、フードを取る男性の耳にはアズイルと同じミコッテの耳が生えている。

    「私もミコッテ族だ。君とは、種族が違うけれど」

    そう言って、アズイルの頭を優しく撫でた。

    「……」

    それに、ようやく彼の表情が和らぐと男性は優しく笑う。

    「私にも、昔せがれがいてね。けれど……4歳の頃に、妹を助けて湖で溺れて死んでしまったんだ」
    「……」
    「だから、あの時のことを忘れられないかと旅をついしてしまうんだ。妻と娘もいるというのに……情けない父親だ」

    ポツリ、と独りごちる男性。

    「君の名前は?」
    「……アズイル……アズイル・ト・ルベル……」
    「アズイル……ルベル……そうか……ルベル……それより、アズイルか……運命の巡り合わせとは、怖いものだね……」

    クルクルと肉を回し、また独り言を呟く男性は少し目を伏せてからアズイルに向く。

    「私は、カ・メハル・ティア。黒髪のカ族……も言っても、君には分からないか」

    苦笑いを浮かべてから、慣れた手付きで肉を切り裂きアズイルに渡すメハルは笑った。

    「私の息子も、アズイルという名前だった」

    アズイルは目を大きく見開く。それから、息子のことを聞いた。
    他人事とは思えないような気がしたアズイルは、肉を頬張りながらも彼の話を聞いている。

    それから、歌を教わった。

    「息子に教えたかったんだけどね……君が息子の代わりに受け継いでくれると嬉しい、私の歌と音楽を」

    楽器を奏で、歌を歌う彼をアズイルは目を輝かせて見て、聴く。

    「……おじさん、俺なんかでよかったの?」
    「うん? ああ、気にしないさ。君が……本当に息子そっくりだから」

    アズイルの頭を撫でる。

    そして、夜を共に過ごして朝を迎えた頃。

    「私と一緒に、来ないかい?」

    メハルは、そう告げた。

    「私の息子として、一緒に来てくれないかな」

    嬉しい誘いだ、だが。

    「……俺は、あんたの息子にはなりきれない。俺、汚いし……」

    それがどういう意味なのかメハルには分からなかったが、行かないという意思表示なのだということは分かり、彼は首を横に振った。

    「……分かった。気をつけてねーーアズイル」
    「……さよなら」

    たった一晩すごしただけだったと言うのに、この感情はなんだろうか。

    アズイルは、心にモヤモヤとした感覚を思い出しながらも周囲の冷たい空気に、独りに戻ったんだと言う気が強くなり服をギュッと掴んだ。

    もし、ついていけば何か変わったのだろうか。

    分からない、分からないが……。



    ふと、口ずさんでいた。



    昨日教わった歌を。
    こんなにも上手く歌えるのであれば、もしかしたらメハルが帰って来てくれるかもしれない。

    だが、そんなことに期待してはいけない……そんなことは分かっていた。

    彼は、踵を返して森の仲を歩いていく。


    ただひとつの、歌を響かせながら。



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