散歩中は別の顔今日もあの人は一人でいる。
宜野座伸元、歴史上の人物のような名前の彼。
彼はこの学校では異質な存在で知られている。
人目を避けるように、目立たないようにしているが、すべては徒労でしかない。
実際、僕もこうしていつも見てしまう。

モデルのような長身。学年で1，2を争う成績。ややうっとおしさを感じさせる前髪と今時珍しい眼鏡。しかし前髪と眼鏡は、非常に整った顔を隠す機能を果たしている。目立たないようにする努力で、唯一、それは功を奏しているのかもしれない。常にうつむき加減のその前髪でどんな顔をしているのかわかりにくいうえに、誰とも話すこともないので、表情もわからない。
でもそれでいい、彼の美しさを誰にも知られないといいと思っている。


彼を「発見」したのは、偶然だった。
親が検査入院をしたので、学校の帰りに様子を見に行った時だった。綺麗な公園があり、回り道かもしれないが、通り抜けようとした。
園内には犬を連れた人物がいた。本物の犬を見かけることが珍しいのでつい視線を向け続けていた。こちらに向かってきている。

シンプルな紺色のシャツに薄青のスラックスはすんなりとした身体をスタイルよく際立たせていた。やや大人びて見えたが綺麗な少年に見えた。
リードをつけた大型犬に何やら話しかけながら散歩してる、強めな風と犬に合わせて少し速足のせいか、前髪がなびき、額までがすっかり現れていた。
艶やかでさらりとした細かな髪から現れた秀でた額。眉の下の切れ長の瞳は、常緑樹の緑を映しキラキラと輝いていた。通った鼻すじに薄く淡い色の唇は、息を乱して開かれている。

男に見とれていた自分に軽く衝撃を受けつつも、あれだけの美形だと男女の別など超越するのだと思う。こんな市井に、モデルや俳優みたいな人が歩いているのに驚いたのだと思う。

初めは全く気付かずにいた。しかし、僕は人の顔を覚える性質であり、ついでに人の輪郭も記憶に残るタイプだった。公園でみかけた美形の顔、輪郭を学校内でみかけた時の喜びと動揺と複雑な気持ちで思わず声が出そうになった。

あの時は学生服と違いラフな服装であるし、何よりも学校で見かけるような陰鬱な雰囲気がなかった。リラックスした足取りも軽い雰囲気で見違えるようだった。
それでもあの美しい顔は彼でしかなかった。
いつも不機嫌そうに引き結ばれているツンとした口元は、人を寄せ付けない雰囲気だが、禁欲的で目奪われる。

しかし、本来なら、ゆるくカーブを描いているのだ。あの時、公園でみたように。

彼はその境遇から、人を寄せ付けない…というより周囲から避けられている。
避けるだけならまだしも、時には苛烈な態度をとるヤツもいる。
同じ年齢の未熟な人間が集まれば、こういうことも起こりえるのだ。

それは、シビュラシステムが管理する世の中になっても変わらなかった。
色相が濁るかもしれない行為だと思われるが、今のところ濁ったヤツはいない。
なぜなら彼をイジメたヤツが、翌日から校内からいなくなる～なんて事がいまだ起きていないからだ。

いつか完成できたらいいのだが