拝啓、深海の貴方へ。 青い空が灰色の雲に覆われ酷く薄暗い。今にも雨が降り出しそうだ。
夏ももうすぐ終わるのだろうか、気温は高いものの肌を撫でる風は冷たい。
そんな中、杉下京太郎は一人海へ来ていた。
生憎の天気だからだろうか、辺りを見渡しても誰一人見当たらない。ただ静かにザァー、ザザァーン、と波の音だけが響いていた。
一歩、一歩とその足を進める。ザッ、ザッと砂を踏み締める音。ふとしゃがみこみ、足元の砂を握り締め胸元まで持っていき……緩める。指の隙間からサラサラと砂が零れ落ち、風に乗って消えた。
とさり、とその場へ腰掛ける。砂の感触は案外悪くないものだ。
伝えたいことはここに来るまでに頭の中でまとめた。まとめたはずなのに、声に出ない。
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