散兵様の情景寄せては返す波の音。
晴天の下、私は少し滲んできた汗を拭いながら海辺を歩いていた。
名椎の浜。ここへ来るのは久しぶりだ。前に訪れた時と違い、静かでとても落ち着く。
(うーん、懐かしい)
幕府軍と戦ってからそこまで日は経っていないというのに、早くも思い出と化してきている。
あんなに酷い目に遭っておいて。自分で呆れたが、過ぎたことはそこまで気にならない性分なのだ。
それに今の稲妻はとても平和で、雷電将軍に殺されかけた記憶すら風化しつつある。
(私って本当に肝が据わってるよね)
いや、人間自体が案外強くできているのではないか?
"貴女と戦った時の恐怖、もう忘れちゃいました"。
雷電将軍が聞いたらどんな顔をするだろう?想像して笑いかけて……止まった。
11113