ある昼下がりきー!!!
くやしーーーい!!
しのぶは『2分の1モデルぎょこたんぬいぐるみ』を振り回し、巨体の同居人を殴りつける。
別にこの男にからかわれた訳でもなんでもない。
ただの八つ当たり。
ぬいぐるみなので痛くも痒くもない。故に同居人は事も無げにいつものヘラヘラした笑顔を浮かべたまま。
「君の気が済むまで叩けばいいけど、玉壺は痛いかもねぇ」
そう言ってはははと笑う。
しのぶは振り上げた玉壺を下ろし、今度は同居人の豊満な胸筋をピンッと伸ばした人差し指でいじいじと捏ね始めた。
「でもぉおかしいじゃないですかぁ。なんでアフタヌーンティーが略して『ぬん』なんですか。しかも、普通にお茶会しようとか、言えばいいじゃない『アフタヌーンティー活動』って、なんですか!?」
事の発端は、友人から「ヌン活」とやらに誘われたことから始まる。
流行に疎いしのぶは、その言葉が分からない。
素直になんの事か分からないと聞けば良いものを、当てずっぽうに天然発言をしてしまい、友人から失笑、苦笑、爆笑を買ったのだ。
梅が腹を抱えて笑っていたのを思い出し、また悔しさが込み上げてくる。
いや、梅に笑われたことが腹立たしいのでは無い。
大して親しくない、通りすがりのもの達が内容を聞きかじり プークスクスと笑い、そのネタをあちこちに吹聴して回られた事が腹立たしいのだ。
ぷんすこ怒っているしのぶの頭に、宥めるように大きな手のひらが置かれる。
「知らなくっても別になんの問題も無い言葉なのにねぇ。女の子って本当に面白いね。そんなことでマウントとっても意味ないのに」
むぅーー
しのぶは不貞腐れて、童磨の胸筋をこねくり回し続ける。
「ぬんって言ったらヌンチャクでしょう。何がおかしいのよ」
ククク
童磨の喉が耐えきれないというように笑い声を漏らす。
「しのぶちゃん?それ以前の問題でしょ(くっ)、普通の女子高生はヌンチャクなんて持ってないと思うよ?しのぶちゃんは持ってるのかい?」
押し殺した笑い混じりの言葉にさらに頬が膨らむ。
「だから!ヌンチャクなんて持ってないって言ったんですよ。大体、メンバーに恋雪ちゃんもいたし恋雪ちゃんなら持っていてもおかしくない!!!」
童磨まで笑うなと、睨みつけてきたしのぶに「くすぐったいよ」と答えた。
「確かに、恋雪ちゃんだけなら違和感無いねぇ。でも……くくく」
「まだ笑ってるしぃ!この間鳴女さん言ってたぁ。護身用にダガーナイフと三節棍隠し持ってたって!
巌勝主任に過剰防衛だって怒られたから、今は指輪ではなくメリケンサックにしてるってぇ」
童磨のバイト先のお姉様の言行を引き合いに、頭から湯気を吹き出すが如くに怒り狂っている。
怒りすぎて涙目になってきたしのぶを見て、童磨は 「ごめんね」と微笑むと しのぶの額に柔らかく唇を落とした。
「笑っちゃダメだね。そうだ。じゃぁ、護身具としてヌンチャク買う?今度ヌン活とやらに誘われたら出せばいい」
明らかに、そうじゃない
だが、しのぶは何故か納得し満足気に微笑んだ。
「それと、今度のお茶会は食べ物は持ち寄りなんだよね?スコーンがいいかな?シフォンケーキが良い?焼いておくよ」
さらにしのぶの機嫌が治る。
「両方!童磨の作るお菓子おいしいの!!」
「はい、了解」
童磨は鼻先をしのぶの鼻の頭に軽く触れた。至近距離で虹色の瞳とアメジストの瞳がにっこりと微笑みあった。