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    mukuo1910

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    mukuo1910

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    声変わりネタを書きたくて。春。
    大した内容も落ちもありません。ぽいぴく使ってみたかった!

    声変わり(ハナタイ)「なあ、なんで、俺のこと避けんの?」
    これは壁ドンだ、とハナビは思ったが、その“壁ドン”は決してロマンチックなものでもなんでもなく、むしろその逆だった。ハナビは朝からずっと苛々していた。自分と会話はおろか、目も合わせようとしないタイジュに。そんなハナビからの、ロマンチックとは程遠い“壁ドン”を受けたタイジュは、それでもなおハナビから目を逸らせ、何も声を発しない。至近距離にハナビの顔―恋人の顔―があるにも関わらず。
    「…俺、なんか、した?」
    ここまで避けられると、さすがのハナビも不安になる。タイジュの様子がおかしいのはいつからだっただろうか、と思い返してみたが、特に思い当たる出来事―事件―はなかった。ハナビの言葉に、タイジュはちら、と一瞬だけ視線を投げて寄越したが、すぐにまたその視線をあらぬ方へと向けてしまう。壁ドンが駄目、ならば…。ハナビは手をそっと伸ばすと、タイジュの顎を掴んだ。相変わらず弾力があって柔らかいな、と思いながら、握ったその手にぐいと力をこめ、半ば強引に自分の方へと顔を向かせる。
    「…なあ、タイジュ」
    鼻と鼻が触れてしまいそうなほどの距離に顔を近づけ、ハナビは、その名を呼んだ。目を見開いたタイジュが一瞬にして、その顔を真っ赤に染める。
    「あ…っ、あ、あ…!」
    その反応に、嫌われた訳ではなさそうだ、と少し安心したが、タイジュは赤い顔のまま小さく唇を震わせるだけで、やはり、言葉を発しない。
    「タイジュ、一体、な…ゲホッ、ゴホッ…!」
    その時、襲ってきた喉の違和感に、ハナビはタイジュから離れて咳き込んだ。ここ数日、ずっと喉に違和感があって、それが今日、やっと落ち着いたところだった。
    「ゲホッ、わ、わり…」
    数回咳をすると違和感は少しマシになった。改めてタイジュに向き合うと、なぜか、タイジュは目をぎゅっと瞑り、両手で耳を覆っていた。
    「…そ、そんなに、うるさかった?」
    そのしぐさに少しショックを受けながら尋ねたが、タイジュの反応はない。耳をふさいでいるからだろう。
    「ごめんって、タイジュ」
    「…っ‼」
    耳を覆っていたその片手を、ハナビは掴む。ビク!と、タイジュが体を震わせ、恐る恐るといったように、目を開ける。そして、窺うように、ハナビの顔を見た。
    「…は…ハナ、ビ、くん」
    「どうしたんだよ、一体。何が…」
    「…っこ、こえ、が」
    「…声?」
    気付いてねえんですか、と、驚いたようにタイジュは言った。何のことだ?とハナビは返す。
    「気付くって…何に?」
    「…声、変わって、ます、よ」
    「…へ?」
    声が、変わっている?どういう意味だ?と、表情からハナビの混乱に気づいたのか、タイジュがさらに続けた。
    「前より…低く、なって、ます…」
    「…低く…?」
    「…声変わり、ってやつじゃ、ねえですか、ね」
    声変わり―。ハナビは一瞬ポカンとし、次いで、喉に手を当てた。「あ、あー!」と、何度か声を出してみたが、自分では今一つ、変わったのかどうか分からない。
    「…あ、もしかして、喉の違和感、これか」
    数日前から感じていた違和感の正体に思い当たり、風邪でなくて良かった、とハナビは胸を撫でおろしたが、いや、それではタイジュの態度がおかしいことへの説明になっていない、と気付く。
    「ご、ごめんなさい、変な、態度、とって…で、でも」
    ハナビが聞くより先に、タイジュが話し始める。耳まで赤く染めて、ハナビの顔は見ず、俯いたままで。
    「その…こ、こえが、変わって、と、とまどって、しまって」
    「…戸惑う…?」
    戸惑う、というのがどういう意味なのか、ハナビは本気で分からなかったので聞き返しただけだったのだが、タイジュは何故か「う」とおかしな声を出した。
    「…ど…ドキドキ、して、しまったんです…だ、って」
    ハナビくんの声じゃない、みたいで。おとなの、男の人、みたいで。そう言い終えたタイジュはやっと、顔を上げてハナビの目を見た。恥ずかしそうに、どこか不安そうに。
    「お…怒りました…?ずっと、避けてた、から…ご、ごめんなさい、で、でも…」
    「そんなに、違う?」
    こく、と頷いたタイジュの表情に、胸の奥が、疼く。
    「…じゃあ…避けられて傷ついた心、慰めて、もらおうかな」
    タイジュ。耳に顔を近づけ、息を吹きかけるように、けれど声はしっかりと届くように囁きかける。ビクビク!と、タイジュが肩を震わせ、その唇から小さな声が漏れたのを、ハナビは聞き逃さない。
    壁ドン、顎クイ、とくれば、その次は。
    「…タイジュ」
    「…っ、あ…」
    唇を重ねる直前、ハナビは笑う。
    「“オトナ”になった俺と、いけないこと、しようぜ」
    その言葉が精いっぱい、大人びて響くように念じながら。
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    mukuo1910

    DONE声変わりネタを書きたくて。春。
    大した内容も落ちもありません。ぽいぴく使ってみたかった!
    声変わり(ハナタイ)「なあ、なんで、俺のこと避けんの?」
    これは壁ドンだ、とハナビは思ったが、その“壁ドン”は決してロマンチックなものでもなんでもなく、むしろその逆だった。ハナビは朝からずっと苛々していた。自分と会話はおろか、目も合わせようとしないタイジュに。そんなハナビからの、ロマンチックとは程遠い“壁ドン”を受けたタイジュは、それでもなおハナビから目を逸らせ、何も声を発しない。至近距離にハナビの顔―恋人の顔―があるにも関わらず。
    「…俺、なんか、した?」
    ここまで避けられると、さすがのハナビも不安になる。タイジュの様子がおかしいのはいつからだっただろうか、と思い返してみたが、特に思い当たる出来事―事件―はなかった。ハナビの言葉に、タイジュはちら、と一瞬だけ視線を投げて寄越したが、すぐにまたその視線をあらぬ方へと向けてしまう。壁ドンが駄目、ならば…。ハナビは手をそっと伸ばすと、タイジュの顎を掴んだ。相変わらず弾力があって柔らかいな、と思いながら、握ったその手にぐいと力をこめ、半ば強引に自分の方へと顔を向かせる。
    1935

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