山頂に架かるは輝く天の川 季節は春。
だが、2000m以上の山頂は深い雪に覆われ気温も氷点下になる。修行の為にこの山に訪れたクンブレは、寒風吹き荒ぶ山頂で満天の星空を見ていた。近くにテントを張り、その中にはキュイチが分厚い毛皮を被って寝ている。
「あぁ、この山の春は遠い…。地上に降りれば暖かいのに…。」
口から白い息が漏れる。
満天の星空に白く輝く天の川が見える。クンブレは赤い眼で天の川を見ていた。
「ん?なんだ?…流れ星?」
夜空に流れ星の様な一筋の光が現れた。小さな星を散りばめながら夜空を駆けていく様子だった。だが、その一筋の光はクンブレの方に向かってくる。
「おい、なんだなんだ?こっちに来るのか?」
その光は近づくにつれて大きくなる。クンブレは腰に差している双剣を抜刀し、身構えた。やがて光の正体が分かるようになる。
「……ドラゴン?」
クンブレは光を目で追う。すぐ近くにその光は降りたった。白いたてがみに夜空のような深い青の長い体、体には星を散りばめた様なキラキラした輝く鱗、そして優しい黄色の眼をしたドラゴンだった。
「お前があの光の正体か?」
クンブレは双剣を構え攻撃に備える。
「わぁ、驚かしちゃった僕らは悪い龍じゃないよ」
「そうか…。分かった…。」
ドラゴンの敵意の無い眼を見たクンブレは双剣を鞘に納める。
「僕らは夜空を飛んでいたんだ。そしたら君の姿が見えて近づいたんだよ。この山頂に人がいるの珍しいから。」
「そうだったか。へへ、俺はこの山に修行しに来たんだ。…この山の山頂に人がいるのは珍しいとはな。ところでドラゴンなのに喋るの初めて見たぞ。」
「あぁ、僕らはセイガとイッテン。二人で一体の龍になれるんだ。星空を駆ける龍に」
「セイガとイッテン…。よろしく、俺はクンブレだ。」
「へへっ、クンブレだね。よろしく。」
セイガとイッテンは変身を解いて一体の龍から二人の少年が現れた。灯り代わりに小さな星を幾つか作り出し周りに浮かべた。
「これが僕らの本当の姿。右角が僕セイガ、左角が弟のイッテン。」
「変わった少年達だ。すげぇ能力だな。…セイガとイッテンは夜空を飛んで何しているんだ?」
「んー散歩かな。僕らが駆けた後に小さな天の川ができてね、みんな喜んでくれるんだよ。」
セイガが得意気に言う。
「小さな天の川、確かにさっき見た時は驚いたが綺麗だ。……。」
クンブレは普段見せない寂しそうな目をしながら夜空を見上げる。
「クンブレ?何かあった?」
イッテンはクンブレを気にかける。
「……何て言うか、俺の父ちゃん俺が小さい時に死んじゃったんだ……。俺を助けようとして。……セイガとイッテンの天の川を空から見ていたのかなと思ってな…。」
「……見ていたと思うよ。僕らは信じてるもん。」
「きっと喜んでくれたと思う」
セイガとイッテンはクンブレを励ます。
「へへっ、ありがとう。俺は父ちゃんと約束したんだ….。『世界一強くなって頂点に立つ』って」
「それがクンブレの夢?」
「そうだ。」
「きっと…必ず叶うよ。『一念、天に通ず』。努力と信念があれば願いは天に届き必ず叶うんだって」
「いい言葉だ。忘れないでおくよ。」
氷点下の山頂で三人はにこやかに笑いながら話をしていた。
「……そろそろ帰ろうか。気温も下がってきた。」
「そうだね、兄ちゃん。」
「もう、帰るのか。」
「うん。僕らもお家に帰らないと…。」
「そうか…、へへ、ありがとな。またどこかで会おうぜ」
「うん。」
セイガとイッテンは再び一体の龍の姿になり、クンブレに向けにこりと笑うと星を散りばめながら夜空に飛んで行った。クンブレはその姿が見えなくなるまで見送っていた。
「きっと父ちゃんもセイガ達の作った天の川を見てたはずだ。」
クンブレは冷えきった体を暖める為にテントに戻り分厚い毛皮を被り暖をとり、キュイチと共に眠りに落ちた。