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    ⚔️勝利の厚焼き玉子⚔️

    @bwgenryu

    曲擬の進歩絵や色々ぶん投げる所。自宅の世界観の話やキャラ、キャラにまつわるバックストーリーとか設定多め。
    ※独自の解釈で曲擬をしているため独特な世界観や設定で作ってます。

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    POIPOI 41

    ヴィクトの祖父(先々代)ズィークとユーゲンの壮絶な戦い!!意外な結末が……
    ⚠暴力、流血、切断表現あり。(少年誌の深夜枠漫画表現)

    冴ゆる風に散る凱歌40年前、世界の強者と渡り歩いたVixの勇者がいた。 砂漠の国で巨大な暴獣『ベヒモス』と戦い、はたや海辺で『ポセイドン』と三夜通して力比べをし、東国で『第六天魔王』と呼ばれた武将と剣を交え酒を飲み交わした。当時、その名前を知らない者はいなかった――先々代「Vixの勇者」ズィーク
    時は流れ、今から18年前―― ズィークは息子のスリアン・ヴォスに勇者の引導を渡し、かつて自分と渡り歩いた強者達と力比べや勇者譚を話したりして自由な人生を送っていた。 寒風吹き荒ぶ12月上旬――
    「ただいま。」
    ズィークは扉を開け、にこやかな表情を浮かべながら家に帰ってきた。
    「おかえり、親父。」
    出迎えたのは息子のスリアンと生まれて間もない孫のヴィクトワール。
    「おーおー、ヴィクトも出迎えてくれたとはじぃちゃん帰ってきたぞ。」
    かつての勇者も孫の前ではにこやかな笑顔を浮かべる。
    「ちょうど夕飯ができる時間に帰ってきてよかったよ。嫁と母さんがシチューを作ってくれてる。」
    「ほほぅ、そうか体が冷えてきたからちょうどいい。」
    ズィークは家に入ると武具を外し壁に掛ける。暖炉のある部屋に向かい椅子に座る。
    「あんた、おかえり。この三日間お疲れ様。さぁ、冷えて疲れた体をこれ食べて温まりな。」
    ズィークの妻はシチューをよそおい彼の前に置く。
    「ありがとう。それじゃあ頂くとするか。」
    家族揃っての晩御飯。暖炉の火がパチパチと音を立てる中、ズィークは出掛けていた三日間の話を始めた。
    「…そういえば、あの噂は本当だったようだな。実際目にしてきたが酷いものだった…。」
    「親父、見てきたのか?」
    「あぁ。もうあの国には兵士はおろか国民すら逃げている状態。僅かに残っていた者から話を聞いたが戦慄する話だ。」
    「俺はまだ友人の話でしか聞いてはいないが誰が反乱を起こしたんだ?」
    「……『ユーゲン』。10年程前に兵士として志願した者。だが、一か月前に突如反旗を翻し王を殺し、向かって来た者を殲滅したようだ。剣術と闇の力を使い一夜にして国を落とした…。刃向かう者は命を落とした。」
    「なっ…。」
    スリアンは父の話を聞き驚く。
    「あいつはまだあの国にいるがいつこの国にも手をかけるかも知れん。……私は決めた。ユーゲンを止め、これ以上被害を出さない事を。」
    「…親父。そ、そうだよな。親父がユーゲンって奴を止めるなら俺も行く。世界に名を馳せた勇者と当代の俺が力合わせれば止められるだろう…。」
    「スリアン、お前も行ってくれるのか?相手の実力は知れないがお前となら一緒に戦おう。」
    ズィークは嬉しそうに口角を上げる。
    「いつ、ユーゲンの元へ突撃しに行くんだ?それによっては準備もいるはずだ。」
    「そうだな…。明後日の朝に出発しよう。馬を走らせれば昼迄にはユーゲンのいる国に着く…。日にちはないがしっかり準備をしていこう。」
    「明後日だな、分かった。俺も道具調達をしていく。」
    「あぁ、頼んだ。」
    先代と当代の勇者達はユーゲン討伐に燃えていた。困っている国や人を幾つも救ってきた『生きる伝説』とも呼ばれたズィークにとって普通のことであった。
    「ふふ、三日も家を出てまた出掛けるのはあんたらしいよ。国を救う元勇者とその息子…、行っておいで。私と嫁、ヴィクトは帰りを待っているから…。」
    ズィークの妻は目を瞑りにこりと笑う。
    「行ってくるよ。ユーゲンを倒し、勝利を手に入れる。…いつか大きくなったヴィクトに話してあげたい。」
    視力を失った左目に暖炉の炎が映る。その視線は揺り篭で眠るヴィクトワールに向いていた。 翌日、ユーゲン討伐に向けてズィークとスリアンは各々準備を進める。戦闘に欠かせない回復薬や解毒薬、自らの能力を高める道具を買い集めたり、剣の刃を砥石で研いで切れ味を保ったりと武器の手入れもいつも以上に気合いがこもる。 そして運命のユーゲン討伐の日―― 12月らしい寒さと風が吹く寒い朝。暖炉で暖まりながら朝食を食べ英気を養う先代と当代の勇者。朝食を食べ終わると討伐に出掛ける準備を始めた。レザーベストの上に金属の鎧を着て、腰にはアーマープレート、動き易い革のズボンを履く。二人の装備の形は違うものの勇者としての風格あるものであった。そして赤いマントを肩に留め、剣を背中に掛ける。
    「スリアンも立派になったものだ。代々伝わるその剣似合うぞ。」
    ズィークは立派になった息子を褒める。
    「いや、親父も現役の頃と変わらない。未だに覚えているさ。」
    親子で会話を交わす。
    「……さて、行こう。」
    ズィークは部屋の片隅に置いてある魔法陣が刻まれた拳大の紅い石を手に取り握りしめ、自分と息子の武運と勝利を祈った。準備が終わり部屋を出る。
    「それじゃあ、行ってくるよ。明日か明後日には帰ってくる。」
    「いってらっしゃい。あんたとスリアンの武運と勝利を祈り、帰りを待つわ。」
    「あぁ、ありがとう。」
    ズィークは妻との会話を交わし、笑顔を浮かべながらヴィクトワールの手を優しく握る。
    「じぃちゃんは戦いに行ってくるよ。帰ってきたら遊ぼうか…。」
    ヴィクトワールの青い眼はズィークを見つめていた。 「よし、行こう」
    妻とスリアンの嫁とヴィクトワールが見守る中、二人の勇者は家を出る。その眼は闘志に満ちていた。ユーゲンを討伐し、困っている国を救おうする強い思い―― そしてズィークはまだ知らない……。これが孫のヴィクトワールと最後の約束だと――

    寒風が吹き荒ぶ道を二人の勇者を乗せた二頭の馬が駆け抜ける。村を抜け人気の少ない街道を蹄の音を軽快に立てながら突き進む。一時間程して大きな川に掛かる橋に差し掛かった。
    「ここが国境に掛かる橋。この先にユーゲンが居すわる城がある。さぁ、気合いを入れて行くぞ」
    「お、おぅ。行くしかねぇな」
    石作りの橋を渡り、森を抜けると人が住んでいたであろう破壊された住居が目に止まった。二人はその惨状を見ながらも馬を走らせる。その先は城下町。だが建物は破壊されたり瓦礫が目立つ。煙も所々から立ち上がる。二人は一度馬から降りて様子を伺う。
    「親父…これ、ユーゲンがやったのか?」
    「あぁ。ユーゲンと元王様の衛兵、兵士…民間の義勇兵が戦った跡だ。千人相手にしようがユーゲンは一人で戦った…。」
    「…とんでもねぇ話だ。たった一人で兵士どころか街すらも破壊するとは。」
    破壊された街を見渡すスリアン。ユーゲンの力の恐ろしさを身を持って知ることになる。 『…ガラッ』 近くの瓦礫が崩れる音がし、二人は振り向いた。
    「…あの、もしや…先日の勇者では?」
    「貴方はあの時の…無事であったか。」
    二人の前に現れたのは、ズィークが三日前に会いユーゲンの話をしてくれた国の兵士だった。
    「またお会いできるとは夢にまでみました。…その隣にいる方は?」
    「あぁ、私の息子だ。次代の勇者を継いだ者…。二人でユーゲンを倒しにこの国へ来たのだ。なに、息子もそれなりの力を持っておるぞ」
    「初めまして。話は親父から聞いている。…実際に見てみると酷いものだ。」
    「いい息子だ。二人の勇者が力を合わせればユーゲンは一溜りもないであろう。ははっ、二人の武運を祈りながらユーゲンを倒し凱旋する時をこの場所で待とうではないか。」
    兵士はズィークとスリアンにこの国の希望を託した。
    「では、私達はユーゲンが居座る城へ突撃する。突撃されれば油断し、首を取れるはずだ。」
    ズィークはにこりと笑う。兵士と一時の別れを告げ、馬に乗り城へと向かった。瓦礫の城下町の道を駆け、兵士のいない城門を抜ける。不気味な静けさと今までに感じたことのない雰囲気が二人を取り巻く。
    「ユーゲンの威圧感が伝わってくる…。なるほど、私が今まで戦ってきた強者より一回りも二回りも威圧感がある。ただ者ではない…。」
    城の入り口の前に着き、馬から降りる。気合いを入れるのかズィークは深呼吸をし、両腕に力を込める。
    「よし、行こう。」
    「あぁ。このまま『王の間』に突撃しよう。急襲ならユーゲンも動けないはずだ。」
    二人は人気の無い崩れかけた城の扉を蹴り飛ばし、ユーゲンがいるであろう王室に向かい走り出す。城の中もユーゲンと兵士の戦いによる傷痕が生々しく残っていた。
    「頑丈な石造りの壁に刀傷…。やはりただ者ではないようだな。」
    「あぁ、俺も感じるさ。ユーゲンの腕力と剣の威力は人間を超えている。」
    「城に入ってからとんでもない威圧感を感じている。……私は力の限り戦うが何があるか分からぬ。」
    「親父…」
    ズィークは目を細め眉間に皺を寄せた。その表情はどこなく厳しい感じであった。父の表情を心配しながらもスリアンは走り付いていく。二階へと繋がる階段を昇り破壊された部屋や廊下を駆け抜け、王室のある三階へ辿り着く。廊下にはユーゲンに殺された兵士の血の跡が生々しく残る赤の絨毯が敷かれていた。石壁の一部は大きく破壊され、刃物で斬られた跡も残る。その廊下の先に大きな扉が二人の前に現れる。絢爛豪華な装飾を施した扉だが所々刃物の跡が刻まれていた。
    「漸く着いた……。ここがユーゲンが居る王室。…スリアン、覚悟は出来立ているか?」
    「勿論だ。ここに来てユーゲンの威圧感なるものを感じる…。俺は当代Vixの勇者の威厳をかけて如何なる戦いなろうとも戦うさ。」
    「その意気だ。……よし、行くぞ。ユーゲン、貴様の首を取る」
    闘志を滾らせたズィークとスリアンは剣を構え、勢いよく王室の扉を斬り裂いた。分厚い木製の重い扉は「ドスン」と音を立てて倒れ埃が舞う。ズィークはユーゲンの威圧感の場所を探り剣を構え走り出した。
    「そこかぁぁぁぁぁ」
    ズィークは薄暗い王室の中で剣を振るう。
    「……おや、新たな客が来たようだ。もてなすとしよう。」
    王座から「ぬぅ」っと巨体が立ち上がる。2メートルは超え、頭には二本の角、眼は赤く鋭い眼光を放つ。
    「私に怖じけず向かって来る人間は、何日ぶりかな。ちょうど暇をしていた所だ……、相手になってやろう。」
    巨体の主は右手から闇の塊を集め、剣の姿に変化させズィークの剣を止めようとしている。
    「そんなもので私の剣を受け止める気か?」
    『ガキーン……』
    「ただの闇だとは思うな。純粋な闇ほど強力なものになる。貴様はなかなかの剣士と見える……。私を怖じけず剣を振るう所がな。」
    「ユーゲン…貴様の犯した罪は許される事ではない。…私は貴様を倒す為に遥々やってきた。剣士ではない…『Vixの勇者』だ」
    「私の名を知っていたとはな。『Vixの勇者』か…。昔『勇者』と名乗る者と戦ったが、私を殺したと思っていたようだ。……だが私は禁術により再び現世に戻ってきた。ははは、その『勇者』は私を殺した直後に死んだと聞いたさ。」
    「……そうか。貴様は過去にも勇者と戦い、殺したのだな。貴様に挑んだ勇者はさぞ強かっただろうな。」
    ズィークはユーゲンの闇の刃を軽く受け流し、後ろへ距離を取った。次の一手、どうユーゲンの懐に飛び込むか考える。
    「距離を置いたか。だがこの大太刀『羅刹』から逃れられるかな?」
    ユーゲンは足元の影から1m以上ある鞘に納まった大太刀が現れる。
    「随分と長い刀身の武器だな。振り回されたら貴様の懐に入りづらくなるな…。」
    「流石だ。武器を見て間合いを把握できるのも相当戦いを経験してきたと見受ける。……貴様、名を名乗れ。」
    「……ズィークだ。先代Vixの勇者、今は息子に代を渡したがな。」
    「ズィークか…、覚えておこう。だが貴様が死ぬまではなぁぁぁ」
    ユーゲンは大太刀の鞘を外し、すらりと長い刀身が姿を現す。
    「これが私の愛刀『羅刹』だ。これまでに何百人の血を吸ってきた…。貴様はこの羅刹から逃れるか斬り殺されるか、果たしてどちらだ?」
    ニヤリと不敵な表情を浮かべながらユーゲンは羅刹を両手で持ち、巨体がズィークに向かいながら走ってくる。頭上に大太刀を構え、ズィークとの間合いに入ると図体に似合わない速さで大太刀を振り下ろす。長い間合いを見切り後ろへ躱すズィーク。振り下ろされた隙を付き、反撃へ出るため攻撃の構えを見せ踏み込みユーゲンの胴体へ斬り込もうとしていた。
    「長く間合いの長い武器程隙は大きくなる…。」
    「ズバッ」とユーゲンの胴体に一太刀喰らわすとすかさず踵を返し今度は背中を斬りつけた。
    「ぐっ…、貴様ぁ。…私に二太刀浴びせるとは大した者よ。」
    「どうやら私の『羅刹』は貴様と相性が悪いようだな…。初めての事だ。」
    ユーゲンはニヤリと不敵な笑顔を見せる。だがユーゲンは両手から黒い炎を出し、『羅刹』を炎で包み込んだ。
    「なんだそれは…。黒い炎を大太刀に纏わせただと⁉貴様のことだ、何か策でもあるのであろう。」
    「ほう、勘は鋭いな。これはただの炎ではない。受けてみれば分かるものよ…。」
    傷口から血を流しながらもユーゲンは再び攻撃の体勢に入る。ズィークは警戒しながら出方を伺い、攻撃に備える。その刹那、再び両者は剣を交え始めた。力を込め一歩踏み出すズィークにユーゲンは自らの体のバランスを崩さぬよう踏ん張る。一度ユーゲンは大太刀を引くと怒涛の鍔迫り合いが始まった。金属がぶつかり合う高い音が王室に響く。
    「ふん、私との鍔迫り合いについてくるとは大した者よ。だが、貴様は気付くかな?」
    「なんの事だ?」
    ズィークは更に警戒しながら鍔迫り合いの攻防を続けた。『羅刹』に纏っていた黒い炎は火の粉を散らし、周りに降り注ぐ。それを見ていたスリアンは何かに気付いた。
    「親父気を付けろ…、その黒い炎の火の粉で親父の装備にヒビが入っている」
    「何だと」
    「ははは、もう一人いたとはな。其奴に言われ気付いただろう…、黒き炎の恐ろしさをな。」
    ふとズィークはユーゲンの大太刀を食い止めながら自身の装備を見た。
    「な、なんてことだこの鎧はドラゴンの炎にも耐える特殊な金属から出来ているのだぞ…それなのにヒビが入るとは……くっ、恐ろしい闇の力か…。」
    そんな絶望な状況でもズィークは揺るがない勝利を信じ、ユーゲンを睨み付ける。視力を失った左目に『X』を浮かび上がらせ、一度距離を取ると大技を出す構えをし始め、ユーゲンに突撃する。
    「あぁ、そのパターンか。私は飽きてしまってなぁ…。」
    ズィークの一撃がユーゲンに届こうとした時、ユーゲンの背後にスリアンが回り込んできた。
    「お前、闇の力使うよな?だったらこれで一時的に封じる。」
    「な…」
    スリアンは腰の鞄から瓶を取り出しユーゲンの背中に投げ付けた。「パリン」と瓶が割れると中から透明な液体が飛び散り、ユーゲンの背中に掛かる。
    「おい?私に何をした?」
    「あぁ、闇属性封じの聖水だ。暫くは闇の力もその黒い炎も消えるだろう。…親父、これでいいか?」
    「よくやったぞスリアン。さぁ、鎧が砕ける前に貴様の首を取ろうぞ」
    「ぐぬぬ。」
    闇の力を封じられたユーゲン。だが彼は不敵に笑いズィークの攻撃を受け止めた。
    「まだ私に分があるようだな…。ならそのヒビ割れた鎧を砕き、貴様の息の根を止めようぞ。……この技を受けて生きてられた者は一人もいない……『九五斬り』」
    黒い炎が消えた大太刀を自在に操り目にも止まらぬ速さでズィークを追い込む。だがズィークは剣での防御を捨て、ユーゲンの技に追いつく。時々攻撃が当たるとヒビが入った鎧が欠けていく。
    「この速さに追い付こうなど人間風情が。ははは、どうした、貴様の鎧がどんどん砕かれていくぞ。」
    不気味な余裕の笑みを浮べるユーゲン。ところがユーゲンは何か得体の知れない雰囲気をズィークから感じ取っていた。ズィークは先程よりユーゲンの太刀筋を見極めいなしていく。その目は光を失い、深い青みがかった色をしていた。
    「貴様は私を見くびっていたようだな…。『Vixの勇者』の本当の力というものを」
    剣撃をことごとくいなされ自慢の必殺技も半分程防がれ余裕の表情も消えていく。
    「私の『九五斬り』を受けて生きられたのは、貴様が初めて…。私は諦めん。」
    ユーゲンはズィークの頭上から大太刀を振り下ろす。ズィークは剣で受けとめる。
    「闇の力が使えない貴様に教えてやろう。……貴様が倒し殺した勇者は私の曽祖父だあの時貴様であろう怪人の姿と特徴を残した兵士が曾祖母に伝え、記録に書き記した。私はそれを読みここに来て貴様だと判明した…。曽祖父の無念を私が晴らそう」
    大太刀を受け止めていた剣を太刀筋に添わせ、その切っ先をユーゲンの右目目がけ刺突する。思わぬ展開にユーゲンはどうすることも無くズィークの剣がユーゲンの右目を貫いた。
    「ぐぁぁぁぁぁ」
    悲痛の叫びと共に血を流す。更にズィークの攻撃は止まらない。剣を引き抜くと空かさずユーゲンの右腕を一太刀で切り落としたのだ。大太刀を持ったままガシャンと音を立て、床に落ちる。
    「さて最後はその首だな。」
    不敵な笑みを浮べるズィークは立っているのもやっとなユーゲンに剣を向けた。
    「くそっ、この私が…人間に追い詰められるとは…。想定外なもう一人も私を狙ってくるであろう。……ははは、絶望的なお知らせを見せよう。」
    するとユーゲンの右目から紫色の炎が吹き出し、また切り落とした右腕とその切断面から黒い炎が吹き上がる。どうやらスリアンの投げた聖水の効果が消え、再び闇の力を取り戻したようだ。切り落とした右腕は宙に浮き、再び元に戻そうとしたが聖水で濡れた床に落ちたため効力は消えていた。
    「ふん、右腕はこのまま使うのも悪くはない。」
    大太刀を左手に持ち替え、戦闘態勢を取る。
    「不便だな。片手だけでは操れまい…。貴様は私の必殺技で仕留めるとしよう…。」
    「親父…あれをやるのか?」
    「そうだ我ら『Vixの勇者』の最凶の必殺技をな。スリアン、お前は距離を置いて攻撃の間合いの外にいろ……ユーゲン、貴様はこの技で絶望を味わいながら地獄に落ちるといい。」
    「ははは、地獄だと?私は地獄生まれの獄卒の鬼だ。それに私には『自己蘇生』の術が掛けられている…即ち、貴様が私を殺そうが何れ蘇るってことだぁぁぁぁ。」
    「そうか……、ならいつか貴様が蘇った時はスリアンか孫のヴィクトワールが貴様を倒すであろう……。」
    「ほぅ孫に託すとはな。世代が変わろうとも人間に私は倒せぬ、ははは。」
    「お喋りはこの辺でおしまいにしよう…。」
    ズィークは突撃の構えをし、ユーゲンの懐目がけ勢いよく駆け出す。攻撃の間合いに入った瞬間、目にも追えぬ様々な剣のコンビネーション技で斬り裂いていく。縦斬り、横斬り、斬り上げ…予測不能な技にユーゲンの体に傷が増えていく。ユーゲンも反撃に出ようと左手に持った大太刀で防ごうとするが左手だけでは扱えきれず、ズィークのコンビネーション技を受け止められずにもどかしさを感じていた。その技の威力は床の大理石すらも斬るものであり、鎧を装備していないユーゲンにとっては恐ろしく見えたであろう。素早い予測不能な連続技を受け続けたユーゲンの体は血塗れであり、床には血溜まりができる程であった。そしてその時は前触れなく訪れる。
    「がはっ…。はぁ…ぁ…。」
    2メートルを越える巨体は力無く膝から崩れ落ち、床に倒れ込む。
    「貴様もこの技を受けて無事ではない。首を取る意味もないだろう…。」
    「は、ははは…。人間が私をここまで追い込むとは『あの勇者』以来だ…。貴様の強さは認めてやろう…。」
    そう言い残すと、突如ユーゲンの体は黒い影に沈んでいく。不気味な笑みを残しながらゆっくりと沈んでいきやがて黒い影も床から消えた。ユーゲンが消えたことを確認し、離れて見ていたスリアンがズィークに駆け寄る。
    「…親父やったな首は取れなかったがアイツは負けを認め逃げた…、これは親父の勝利だな。」
    「そうだな…。あっけない決着だがこれも勝利の一つだ…さぁ凱歌を掲げようじゃないか」
    自らの勝利を記すべく、剣を高く掲げるズィーク。凱歌を奏する時、彼の胸を大太刀が貫く。
    「ぐほっ、が、がはっ…。」
    口から血を流し膝から崩れ落ちる。貫いた大太刀はユーゲンの右手が持っていたものであった。その右手も床にできた黒い影に消えていく。
    「親父、親父…しっかりしろ。」
    床に横たわるズィークを心配そうに涙を流しながら声援を送るスリアン。だがズィークは息も絶え絶えであり、出血も酷かった。
    「……はぁ、は……、ユーゲンを倒した、と思いきや…私を道連れに…するとは…。……ヴィクト、すまない…。じぃちゃん約束を守れなかったよ…。なぁ、スリアン。……いつかじぃちゃんの話を…ヴィクトに教えて、やってくれ…。妻や嫁は、お前に任せた……。お前は、立派になって…私は誇りに思う。それを……次代のヴィクトに……頼んだ………ぞ…………」
    「うわぁぁぁぁ、親父……。」
    壮絶な戦いの後、ズィークは絶命した。この時何処からともなく悲しみの鐘の様な音がスリアンの耳に入ってきたという。それはズィークの人柄を気に入り何度か彼と出会った『友』の悲しみの声であった。

    夕方、ズィークの亡骸を布で包み荷車に乗せ城を出たスリアン。そこへ街で出会った生き残りの兵士がやってきた。
    「あの勇者さんですよね?ユーゲンはどうなりましたか?」
    「ユーゲンは親父が致命傷与えて闇に消えた…。だが親父は…。」
    スリアンの言葉を察して荷車を覗き込んだ兵士は驚きを隠せずに涙を流した。
    「あ、あの勇者さんが…。こんな結末になるなんて…。でもユーゲンを倒してくれたのは…偉業なこと。この国を救ってくれた……大勇者として讃えたい。」
    「立派に戦ってくれた大勇者だよ。俺もその息子として胸を張って勇者として頑張るからよこの国の復興に力を貸したいぜ」
    悲しみにくれる中、一筋の希望と決意が生まれた。スリアンは兵士に別れを告げ、乗ってきた馬に荷車を取り付け悲しき帰路に着く。途中休憩を挟みながら夜空の星を見ながら思い出に浸り、涙を流すスリアン。そして夜明け頃家に着いた。悲しい知らせにズィークの妻とスリアンの嫁は泣き崩れた。
    「偉大なる勇者…あんたに相応しい……。スリアンも立派に育て、いつかヴィクトもあんたと同じく立派な『Vixの勇者』に…なると願うよ。ありがとう。」
    ズィークの亡骸は村外れの墓地に埋葬された。数日後、世界に名を馳せた勇者の死はかつての強者の耳に入り、冥福を祈った。


    それから12年後――

    「ヴィクト、お前にこれを渡そう。」
    「父さん、これは?」
    「これはお前の祖父…先々代が髪留めに使っていたものだ。親父はヴィクトの成長を楽しみにしていたが、ユーゲンに殺されてな…。形見として髪に着けて、いつの日か仇を討って欲しい。」
    「先々代の形見の髪留め…。うん、僕いっぱい修行して立派な『Vixの勇者』になるよそしてユーゲンを倒す。」
    亡きズィークの思いは新たな継承者ヴィクトワールに受け継がれた。そして話はヴィクトの時代へと移り変わる――
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