イマジナリー・ペンフレンド②『そういえば、光ノと僕っておんなじ見た目をしているの?』
ふと気になった疑問を、シュウは数ページ目にもなった光ノシュウ──自分との別人格との交換日記に綴った。
きっかけは、ほんの少し寂しがりなもう一人の僕が、「ずっと一人は寂しい」とアクションを取ったこと。
そして、僕はそれに応え文字上でやりとりを続けていた。
僕の一方的な質問ばかりのノートは、果たして交換日記だとか、会話と言えるのだろうか。彼は、光ノはこれを楽しんでいるんだろうか。
そんなことを思いながら、少しインクの減ったペンを置いた。
返事が来るのは、決まって眠って目が覚めた後だ。
今回も例に漏れず、机上には自分が置いた位置とは違う場所にペンが戻されていた。
『そうですね、基本的には闇ノと同じです。いちいち書き出すより、見せた方が早いでしょう。書き終わったら動画を撮ります』
なんで僕のスマホのパスワードを知ってるんだろう。それも認知してるもんなのかなぁ、と少々不可解に思いつつ、気になりスマホを手に取る。
スマホの画像フォルダを開くと、一番上には自分と瓜二つ…というか、同じ顔の青年の動画があった。
バナナなんて揶揄される黄色のメッシュは紫に、インナーカラーは青緑と、いわゆるゲームの2Pカラーといった風に変化しており、心なしか肌の色も薄紫に見え、妖しい雰囲気を醸し出している。
何より、ネオングリーンの瞳が純粋に綺麗だと思った。
「─えぇと、上手く映っているのでしょうか。こうやって姿を見せるのははじめてですね」
動画の中で彼は心無しか楽しそうに喋る。それもまた、酷く丁寧な英語で。
「口調までこんな丁寧になるんだ」
自分と全く同じ声色の男は画面の中でくるりと一回りし、姿を見せる。
正直言うと、いつもお固い文章だし、質問にも多少の皮肉を混ぜて淡々と答えるだけで、最初の“寂しい”と溢したとき以来の感情があまり読めていなかった。
だが画面上の彼には、文章同様に冷静に喋るが、そこには紙の上にはない感情が確かに乗っている。
なんだか、ようやく光ノというもう一人の自分に愛着が湧いたような気がした。
動画は数秒で終わり、画面には少しブレた彼の静止画が映っていた。
何て返事を書こうか、とノートを開くと、よく見れば文章には続きがあった。
そういえば他にも質問していたんだったなと思い出し、文字を読み進める。
『僕が配信をしていることは知ってるよね。同じグループの仲間については、知っているのかな。』
これまでのやりとりでわかったことは、彼は僕の好みや経験、記憶についてを一人精神の裏側で見ていたこと。
ならば僕の関わってきた人たちについても知っているだろうと質問をしたのだった。
『勿論知っています。大切な仲間なのでしょう。私も意識の底で、闇ノが楽しそうなのをよく感じていました』
彼の書いた丁寧な返事が、脳内でやけに鮮明な声で再生される。先程の動画と同じように、ほんの少しの揺れた感情を滲ませる声で。
『共有しているのは記憶だけではありません。闇ノの感情も、私にはある程度伝わるのです。そうでなければ、私は生まれてませんから』
確かに、光ノが生まれたのは曖昧にぼかされたが僕の精神や思考が一因であるのは間違いない。そうなれば僕の感情の動きに敏感なのも頷ける。
「そっか、知ってるんだ」
彼はずっと、意識の底で僕を見てきた。
ラクシエムのみんなと話し、笑い合っているところを、光ノはどんな気持ちで見つめていたのだろう。
──その答えが、きっとこの交換日記のはじまりなのだ。
シュウはペンを手に取り、新しいページを開く。
『光ノ、僕以外と喋ってみない?』
それだけをページの真ん中に書き、少しくたびれた日記を閉じた。
「案外、君のこと好きになってるみたいだ」
ふふ、と笑いを溢し、シュウはもう一度動画の再生ボタンを押した。