すべてはお前らが嫌いだったから確かに、こうなったのは我儘すぎたオレの私情が原因であり、あれもこれも全てオレの仕業だ。
だからって、神代少佐殿。
いくらオレが貴方より位が下で刃向かう事さえ許されない立場を利用してこんな可愛い可愛い後輩に銃口を向けるのはさすがに悪趣味だと思いますよ。
おまけに肉食動物に匹敵するような鋭い眼光までチラつかせて。
これは相当怒っていると伺える。
「結構冷静だね。東雲くん」
「そんなまさか」
結構だなんて言い過ぎだ。冷静に見せてるだけで実際マジで余裕じゃないっつーの。オレらの周りじゃ、貴方は怯えながら必死に命乞いをしてくる相手を見下すのがお好きっていう噂があるんすよ。そんなドン引きするような噂を耳にして、わざわざ先輩を喜ばせる為に命乞いするなんて残念ならがら一切してやりませんよ、ぜってぇお断りだ。
「どうして君は僕に銃口を向けられているか理由が分かるかい?」
「神代先輩が愛してやまない司先輩をスーパースターにするまでの脚本と演出、オレがぶち壊してしまったから、ですよね」
「うん、そうだね。それで?」
「オレの勝手な行動が原因で司先輩は今後の活動に支障をきたすまでの重傷を追ってしまったから、ですか?」
「……で?」
「…そうですよ、全てオレの仕業です。焼くなり煮るなり殺すなり先輩が満足する方法でさっさと処分して下さいよ」
生きる事を放棄する台詞を今か今かと待っていたと言わんばかりに視線はそのまま、口元を緩ませにんまりと神代は笑った。悪魔なんだか死神なんだか、とても不気味な笑みだ。
これは神代流の脅しだ。神代はオレが”殺して下さい”と言うまで意味も無い質問を永遠と繰り返すつもりだっだろう。そんなくだらないお遊びトークに付き合える程オレはヒマじゃない。
「東雲くんは死にたいの?」
「さぁ、どうでしょうか?」
狼と狐の睨み合いは沈黙を生んだ。
目を逸らせば額に向けられた銃口からは弾が1発や2発が容赦なく打たれるだろう。そうなればオレはゲームオーバー。ジ・エンドだ。
思えばあのカイト大佐と唯一チェスで互角に張り合いえるのは神代だ。この人は挑発が上手い。今だってオレを手の平で転がしながら反応を楽しんでいるに決まっている。ほんと腹立つ、ムカつく、クソが付くほど気に入らない。
「東雲くん、これからする質問に僕がトリガーを引かないようにイエスかノーかで応えてみてよ」
「?、…イエス」
何を企んでやがる。
「東雲くんは大切な人がいる?」
「…イエス」
「それは守りたい人?」
「イエス」
「それは手に入れたい人?」
「…イエス」
「それは、青柳っていう人?」
『何もかもお見通しって事かよ』
マジで嫌いだ、大ッ嫌いだ。
「……」
「どっち?」
向けられた銃口は額から右瞼へ。急かす男は嫌われますよ。いっそ1人を除いた世界中の人間から嫌われればいいのに。
「………イエス」
「君は、」
「……?」
「君は、自分の利益の為に司くんを犠牲にしたってことかい?」
「……」
「どっち?」
右瞼に当たる銃口が更に強く押し当てられる。
一歩間違えれば右眼が失明するかもしれないのに、オレは思わず頬が緩んでしまった。だってあの神代がたった三文字の疑問台詞を小さく震わせながら発したんだ。神代はやはり司先輩が絡むと時として弱くなる。だからこそ一瞬、こんな状況でも今やオレは神代より有利な立場になったと思った。気分が思いのほか良くてそれはそれでオレも神代と差程変わんねぇなって胸の奥底で自嘲した。
「イエスですよ!神代少佐殿!!」
隙あらばと思っていたが、幸も早く反撃のチャンスが来るとは驚いた。
遠距離戦の人間が近距離戦を得意とする人間とタイマンで勝負をするなんて最初から勝敗は決まっている。
狐は狼に勝てないと誰が言ったか。
それは決して不可能では無いことを貴方は知らないだけだ。
「このナイフは貴方が調合した毒薬が塗られている。効果は貴方が1番良く解っているはずです」
「これが東雲くんが作ったシナリオであり演出かい?」
「だったら何です?」
ふざけた台詞を言ってみろ、すぐにその白い首筋に赤い線を引いて貴方も司先輩と同じ部屋に送り込んでやる。
「…ククッ、アハッ!!…ハハハハハ!!」
「何が可笑しい!?」
「いやぁ、こんな近くにカイト大佐や司くん以外に僕を楽しませてくれる存在がいたことが嬉しくて、つい」
「生憎オレは楽しくないっすよ」
「それは残念。ではこれから僕がそんな東雲中尉を楽しませてあげるよ」
パァンッ____
オレが咄嗟に判断した事、それは神代から距離をとる事だった。弾が発砲された音、焦げた匂い、間違いない。
「神代先輩、本当は二丁拳銃だったんすか?」
これは誤算だ。神代は遠距離に特化して主にスナイパーライフルで司先輩をサポートしてるイメージしか無かった。
「どう?楽しいでしょ?」
神代は再びオレの右眼に銃口を向ける。
これも脅し、な訳がない。ガチだ。
「オレの質問聞いてました?」
「ごめんね東雲くん、僕は今君の質問に答える余裕は無さそうだ」
「それは残念です」
「残念…か。うん、そうだね。………ほんと、」
「···ほんと?」
オレはアンタら先輩達が苦手だし大嫌いだ。
アンタらはオレに持っていないものをいつもいつも日常でも戦場でも持ち込むし見せつける。
周りから愛されている、
特別に愛してくれる人がいる、
気にかけてくれる人がいる、
心配してくれる人がいる、
嫉妬するぐらい沢山見せつけるアンタらが気に入らない。
「可愛くない後輩をもって僕は最高に不幸だよ!!」
「俺も後輩をそんな脅し方でショーに招待する先輩をもって不幸ですよ!!」
不幸者同士、
楽しく、
愉快に、
滑稽に、
2人で作ってみようか、
赤の先が魅せるハッピーエンドを。