あなたに絡み付く『拙僧、残念ながら御身を裏切りましてございます…』
(あー、ハイハイ。知ってた!知ってましたけーどー!)
───。
今夏に起きた微少特異点アークティック・サマーワールド修復中の一間、用意されていたクルーザー内の1室でベッドに腰掛け机の上に置かれた朝顔(?)を眺めている藤丸立香がいる。
立香がある朝目覚めると枕元に、一輪残された朝顔の花があった。その朝顔は中心に人の瞳のような模様があり何の気なしにその朝顔を水に挿しておけば時に萎んではいたが今では普通の朝顔より色濃く赤く大きく花開いている。時折その瞳がキロリとこちらを向く事もあった。(何か本当に生気でも吸われてそうだなぁ…)そんなことを思いながらも立香はその花に向かい誰に言うともなくボソリと呟く
「道満のバカ…」
『ンンン、言うに事欠いて莫迦とはなんですか』
突然浴衣姿の道満が立香の前に現れる。
「なっ…!」
『儂が居らぬとはいえ陰口とは、我が主ながら少々はしたないかと思われますぞ』
「な、何で道満がここにいるの!?」
驚きで目を白黒させながら立香が問う
『何故?貴女に名を呼ばれましたので…と、言いたいところですが拙僧の裏切りに驚愕かつ、悔しさで歯噛みし、落胆で枕を涙で濡らす様を一目見ようと式神の姿で伺ったのですが…』
「いや、別にその事は驚いてはいないし泣いてもいませんけど…」
相変わらずの嫌味のこもった言い回しにまたか…と思いながらも冷静に返す。
『ンンンンン…それは何とも味気無い』
道満の表情が曇る。
「何を企んでるか知らないけれどまたみんなにこっぴどく怒られてお仕置きされても知らないからね!」
まるで子供に諭すように立香が道満に詰め寄る。
『それは嫌ですねぇ…それにしてもふむ…』
道満がチラリと部屋の朝顔に目を向ける。
『マスターにおかれましては拙僧が居りませんで独り寝が寂しいようで』
「は!?」
急に突拍子も無いことを言われ調子を狂わされる。
「まさかその朝顔でこっちを監視してたりしてたの?」
『いえいえ、まさかその様なこと…それにしても見事に咲き誇りましたなぁ、いやはや、マスターも中々のンフフフフ…』
「さっきからなんの事?やっぱり呪いとか…」
立香が道満に更に詰め寄る。それを途中で遮るかの如く道満が言う。
『此方の朝顔、情欲を吸う術を施してございまして…』
「じょうよく…?」
暫しの間意味が分からずようやく理解して赤面し、あわてふためく。
「ま、またそうやって人の事からかって…!」
『フハハ、真のことにございますれば。そうですねぇ、赦されるならば後程たっぷりとご奉仕させて戴きたく…我が主…』
刹那に間合いを詰められ皮肉な笑みを浮かべた道満に耳元で囁かれる。
「…ッッ!この…!!」
先程よりも顔が上気し赤くなる。立香はベッドにあった枕を道満へと叩きつけるように投げつけた。
『ンフフフフ…』
壁に吸い込まれるように道満の姿が消え、投げつけた枕が空しく壁にぶつかり落ちる。
今度は部屋中に響き渡る程に前に呟いた言葉を叫ぶ。
「道満のバカ!」
~了~