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    かつら

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    かつら

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    💜の少女レイに感化されてそれにより生まれた作品です。
    ほんのり不穏?てゆうかホラー?ぽい感じになってしまっているような
    つまり雰囲気で読んでください。
    💜🧡未満です。

    踏切その日は運が悪かった。
    たまたま朝寝坊して、たまたま苦手な授業であてられて、たまたま嫌いな奴に絡まれて、なんだか途端に全てが嫌になった。
    だから、逃げ出した。


    午後1時。
    いつもは乗らないような電車に乗って、知らない駅で降りて、知らない道を歩く。
    少し都心から離れただけでそこはもう田舎と呼べるような、自然に囲まれた場所だった。
    夏は始まったばかりとはいえ、正直かなり暑い。額に手をかざして目元に影を作りながら、ゆっくりと熱いコンクリートを踏み歩く。
    じんわりと汗をかきながら、意味もなくただ足を動かしていると、ブーッブーッとポケットから電子音が響く。
    見えにくい液晶に目を凝らすとそこには見知った文字。
    さっきまで全てがしがらみに感じていたのに、なんとなくこの電話には出ないといけないような、そんな気持ちが湧いてきて。
    気に食わない緑色のボタンを押して、向こうに声をかける。



    「……もしもし」

    「あ、ミスタ?僕だけど」


    軽やかな声音で彼は応答する。
    仮病使って帰ったから、人の良い彼は心配して電話をかけてきてくれたのだろう。


    「大丈夫?熱出て帰ったって聞いたけど」

    「あ"〜……うん、大丈夫だよ…平気」

    「…ミスタ?」


    こちらを伺うような、なにか感づいたような声に顔をしかめる。このまま切ってしまおうかとも思ったが、正直、後が怖い。
    多分、シュウはオレがサボりだって気づいてるんだろう。
    このまま小言が飛んできて、明日はちゃんと来るようにって言われるはず。
    だから、適当に謝って切ろう。うん、それがいい。


    「…サボり?」

    「えっと……あ"〜…あはは…」

    「…………はぁ、もう…」

    「あは……あ"〜…えと……ごめん…明日はちゃんと学校行くから、な?そんなに怒んなって」

    「……」

    「……………シュウ…?」


    いつもならここで、仕方ないなぁって言葉が続くはずなんだけど。
    携帯は以前なんの音も拾わず、黙ったままである。
    え、なに、怖いんだけど


    「え、っと……シュウ……?お〜い…?…もしも〜」

    「ねぇ」

    「うぉぁ"!?ビックリした……てか、急に黙るなよ!!」

    「ふは、ごめんごめん」

    「ったくも〜……で、なに?」

    「今どこ?」

    「…は?いや、どこって…ぇと…………わかんない」

    「わかんない?」

    「どこの駅で降りたか見てないし……適当に歩いてきたから……」


    そう言うとぶはっ!と携帯の向こうで吹き出す音が聞こえた。


    「あはは!ミスタらしいね!」

    「オレらしいってなんだよ!!!」

    「は〜、ね、現在地送ってよ」

    「?、いいけど……なにすんの?」

    「ふふ、僕もやんなっちゃったんだよね」


    そう言って楽しそうに笑うシュウに、変なのなんて思いながら現在地を送る。
    じゃ、今からそっち行くから、と一言言い残してぶつりと電話は切られた。


    「はぁ?………なんなんだよ」


    なんて
    口では毒づいてみるけど、正直嬉しくて。
    このちょっとした逃避行に付き合ってくれるのが嬉しくて、誰もいない道でちょっとだけ笑ってみたり。


    彼の到着を待ち遠しく思いながらも
    ふらりふらりと、歩いていると
    小さな踏切を見つける。
    向こう側には青だけの空に大きな入道雲だけがぽつんと残されている。
    その下には地平線まで見える海が広がっていてまるで踏み切りが別世界への入口のようで
    少し怖くなって踏切の前で足を止めた。
    なんとなく、1人では向こうに行きたくなかったのだ。

    すると、ピロンっと軽快な音が鳴って、よく使うチャットアプリには待ち人の名前が1番上に来ていた。
    そそくさと返信を返して、しばらくすると遠くから自分を呼ぶ声がした。


    「ミスタ〜!」


    パタパタと駆け寄ってくる彼は汗だくで
    急いでカバンからタオルを出して拭いてやる。


    「あ、ありがと」

    「別に走ってこなくていいのに」

    「うーん、でも、ミスタに早く会いたくて」

    「……なにそれ」


    ケロッとした顔で言うもんだから、おかしくてつい笑ってしまった。オレが笑うとシュウもつられて微笑む。
    さっきまであんなに憂鬱だったのに
    今はなんだかじんわりと胸が暖かいような気がする。


    「ねぇ、シュウ」

    「ん?」

    「あっち、行ってみようよ」


    今なら踏切の向こう側に行けるような気がして、シュウの手を引いてみる。
    不思議そうに踏切の方に顔を向けたシュウ。
    途端、目を見開いて、くっと顔を強ばらせた。
    そして、何かを押し込むような、堪えるような顔をして、俺に向き直って


    「ミスタ」


    その一言と、強く握られた右手が全てだった。
    オレは何も言わず、ただシュウの熱い手をにぎりかえすことしかできなかった。
    もう一度、踏切の向こう側に目をやって、なんとなくシュウの気持ちがわかった気がした。


    「帰ろっか」

    「……うん」


    オレ達が歩き出すと、カンカンカンカンと踏切がなり始めて、電車が来るんだと意味もなく思う。
    でも来るであろう電車をオレ達が見ることはなくて
    ただ背中に響く踏切の音がやけにうるさい様な気がした。



    なんとなくもう二度とここには来ないようにと、オレはシュウの手を握りながら、強く願った。
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