傾ぎ流れる 空調の風が規則的に首筋を撫でては遠のいていく。温湿度が管理された書庫で、薄緑は今日も何冊かの書物を紐解いていた。
書庫のすみに設えられた机の上に、まるで塔のように積みあがっているのは、いずれも恋愛に関する本である。医学的なものから風俗的なものまで、とにかく恋愛について触れたものなら見境なく本棚から抜きだして、ただひたすらに読みふけった。すべてはあの日、「まるで相手に懸想しているようだ」と膝丸に言われた一言がきっかけだった。
――しかし、果てしない……。
非番のたびにこうして書庫を訪れるようになって二週間ほど経つ。これまでに読んだ本の数は……端から数えてなどいなかったので不明だが、その感情の底知れなさを証明するように、いくら知識として身に着けても自分事として咀嚼できるかはまた別問題だった。
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