末っ子の幻想「ただいま!!!」
いつも通りの時間に帰宅した我が家の愛しい末っ子を、ひとり出迎えたIkeは絶句した。
そこに居たのは、鮮血で真っ赤に染まった男だった。
「Luca、それ、」
顔を引き攣らせながら指を差すと、目の前の男は酷く爽やかに笑った。
「なんでもないよ。シャワー借りるね」
本当になんでもないように、なんなら上機嫌に鼻歌を歌いながら、Lucaはバスルームへ颯爽とかけていく。
Ikeはその場にひとり取り残され、考える。
痛々しいほどの赤と、いつも通りのLucaの笑顔。
そのふたつがあまりにも乖離していて、現実味がまるでなかった。
呆然と暫く玄関に立ち尽くしていたIkeは、数分かけていつもの常識的な思考を取り戻した。
そして、ひとつの事実に辿り着いた。
あんなにも大量の血を浴びていたのに、彼の身体には傷ひとつなかった。
つまり、それは─────
「Oh my god…」
愛しい末っ子の罪に気がついたIkeは、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
あの純真無垢な笑顔に、いったい僕たちはいつから幻想を見ていたというのだろう。
はぁ、とどうにもならない感情を少しでも逃がすように溜息を吐いたIkeは、未だ頭を抱えながら、
いざというときには頼りになる我が家の長男に電話をすることにした。
「………Hello?…ねぇVox、あのさ、…」
今夜は、家族会議の予感。