Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Ruztie_Rusty

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    Ruztie_Rusty

    ☆quiet follow

    神様に魅入られたお弦の話(仮)
    設定捏造しかねえ〜〜〜〜〜〜!!!!!!たのし〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!

    桜魔の季節のひとつに、「涙期」というものがあるんです。
    ちょうど先日、その季節が始まったところで……うーん、日本で言うなら梅雨に近い感覚ですかね。こちらの梅雨にあたる季節も、これとは別にあるんですけど。

    神様が涙を流すと人間の世界に雨が降る、だから涙期。神様と密接に結びつく桜魔ならではの季節ですね。

    涙期は半月で終わることもあれば2ヶ月以上続くこともありますし、訪れる間隔も数年単位でバラバラ、梅雨のような前兆もないので予報することさえできません。

    だからこそ、特別な季節なんですよ。

    梅雨は雨が降り続けると言えど、数日に一度くらいは多少の晴れ間があるでしょう?涙期は神様が泣き止まれるまで、文字通りずーっと空が雲に覆われて雨が降り続くんです。
    涙期の間は分厚い雲からザアザア雨が降ってくるのがほとんど当たり前で、太陽の位置が分かる程度に雲が薄い小雨の日になると、お、今日ラッキーじゃん!みたいな。

    そんな調子なので、お相手がいくら神様とはいえ、ずっと雨を降り続けさせるわけにはいかないんです。多すぎる雨で川が氾濫したり、日中に十分な明るさがなくて魔が出てきやすくなったり、お布団が干せなかったり……とにかく、いろいろ大変になっちゃいますから。
    だから僕たち官吏は、神様と直接の対話でお話を伺って宥めたり、神様を楽しませるために国を挙げた催し物を用意したりして、神様が少しでも早く涙を忘れられるように手助けをするんです。
    え?……あはは、こうやって活動してるとよく忘れられますけど、こう見えても僕は桜魔の人間、優秀な宮使いですから!実は桜魔に戻ると超忙しいんですよ〜?なんてね。ふふ、冗談は置いといて。
    そうやって僕たちが関わっていくと、だんだん神様の涙が……長く続いた雨が止んで、桜魔は新しい季節を迎えるんです。全てが洗い流された、まっさらな季節を。

    僕ね、この季節のことを初めて教えてもらったとき、不思議で遣る瀬なくて我儘で……なんて美しい季節だろう、って。そう思ったんです。



    「弦月が倒れたァ?」
    祓魔任務が大方片付き、共同戦線を組んだ後輩と任務の後処理を行っていたときのこと。後方支援部隊への報告へ遣った後輩が戻ってくるや否や、長尾先輩は確か弦月さんと仲が良いんですよね?と切り出してきた話に、長尾は面喰らったような顔をした。
    「ええ、この任務に同行している官吏の友人がさっき教えてくれたんです。討伐が終わった直後から念話で任務終了の一次報告を試みているのに、作戦本部……というより宮全体が混乱していて、こちらの報告がなかなか通らない、と。
    僕の顔を見た途端、一次報告より先に前線報告が来ちゃったかあ、なんて嘆いていたのでワケを聞いたら、そのように」
    「ほーん……?」
    確かに弦月は宮の中でも特に優秀な官吏である。それも、直々に弦月を対話相手にご指名する神様がいるくらいには。
    とはいえ、長尾の記憶における官吏の面々は良くも悪くも他人に無関心だったはずだ。それこそ、こんな繁忙期に過労で一人や二人倒れたくらいなら、それがいくら弦月といえど特別扱いする余裕などないだろう。せいぜい救護室に付き添ってもらえたら良い方ではないか。
    ……それが、宮全体に影響する騒ぎになるほど?
    ざらりと粟立つ胸騒ぎは、長尾の表情に怪訝の色を滲ませる。彼の優秀な後輩はその意図を汲み取ったらしく、少し言い淀んでからこう続けた。
    「えっと……様子が、その、どうやらかなりのイレギュラーだったみたいで」

    なんでも、神様に魅入られてしまったかも、だとか。

    それは長尾にとって、全身の血がひどく冷えて抜けていくような感覚だった。視界が真っ暗闇に落ちそうになるのを、理性と矜持で何とか繋ぎ止める。
    あとは僕でもできる処理ですから長尾さんは彼のもとへ、と後輩が伝えるや否や、長尾は礼もそこそこに宮へと駆け出していた。

    人でないものに魅入られるとは、即ちとそのものに喰い殺されると同義である。相手が魔であれ神であれ、その強大で一方的な力の押し付けに対抗する手段を、本来人間は持ち得ない。だからこそ、魂のかたちが相容れない三者は互いの均衡のために関わりこそすれ、喰われぬ限りは喰いもしない、絶対不可侵という暗黙の歴史がある。そのはずなのだ。
    それに何と言ったって、長尾は魔に魅入られたことのある人間を知っている。俗世の存在でさえあの影響力だったのだ、それが人間より上位の存在である神にだって?そんなの、そんなの。
    無事じゃ済まない、脳内に反芻するその言葉を直視しないよう必死に振り払う。

    今回の祓魔任務が皇都からそう離れた場所でなかったことは、唯一の幸運と言えるだろうか。長尾は交通手段に術式にむーちゃんに、とにかく自分が使える手段を全て用いて、最短時間ぶっちぎりで宮へと到着した。
    長尾はそのままの勢いで門前の長い階段を駆け上がり、玉砂利を強く踏み鳴らして宮の大門をくぐり抜ける。内宮で慌ただしく移動していた宮使いたちも、必死の形相で駆ける長尾を目にすれば彼が口にせずともその用件を悟り、今は一時的にあちらの棟の救護室です、こちらの通りの方が近道ですよ、と口々に教えた。同期と共に桜魔で名を上げ顔が知れ渡っていたことにこれほど感謝したことはない。
    今回の状況が状況だからか、救護室に近づくにつれあからさまに人が減っていく。しかしそれまでの多くの道案内によって、入り組んだ建物の中でほとんど迷うことなく辿り着いた。目の前には艶が剥げた木製の扉。それを叩き割らんばかりの勢いで開ける。
    「弦月ッ……!」
    ほとんど悲鳴のような叫び声で、普段通りの返事を祈りながら名前を呼ぶ。
    しかし長尾の呼び声に応じたのは、ぞっとするまでに何もない静寂だけ。備品の衛生を守る独特の薬品臭ばかりが、長尾の心臓を掴んで刺すようだった。

    ゆっくりと左方に視線を動かして、救護室の奥、1ヶ所だけカーテンが閉じ切られた寝台を捉えた。その内側に彼の気配を認めて、うまく動かない足を叱咤しながら一歩ずつ近づく。

    お弦、とうじろう、とーじろぉ。あれだけの大声で叫んで何もなかったあとだ、返事がないことなど頭の隅では分かりきっているのに、呼ぶのを止めたら本当にいなくなってしまう気がして。声のかたちを成しているかも分からないほど掠れた呼吸で、情けないほど力が入らない唇を動かしつづける。
    そうしてひたと辿り着いてしまった、拒むように締め切られた薄いカーテンの前。長尾にとって途方もなく厚い壁のように思えたそれを、僅かに震える手で鷲掴んで引き開ける。

    そこには、まるで生気を纏わず目を閉じて横たわっている、弦月の姿があった。

    無意識に、喉の奥がヒュッと引き攣る。
    違う、大丈夫だ、呼吸の音はある、ここは救護室だ、霊安室じゃない、間違いなく弦月は生きている。そう自身に言い聞かせても、目が回るほど動転した脈拍は一向に落ち着く気配を見せなかった——それは、普段の彼なら手放さないはずの冷静さと警戒すら失っていることにさえ、盲目になってしまうほど。

    そのときを待ちわびていたと言わんばかりに、固く閉ざされていた弦月の目は綻んで薄ら開く。
    「……けい、はる……?」
    感情も思考もなにもない、意識の外にある文字列をただ転がすような響きだった。
    希った声に自らの名を呼ばれ反射的に駆け寄った長尾は、覗き込んだ瞳の奥で、霧のような煙のような、微かな気配が揺れ動いているのを確かに見た。そうしてようやく、長尾は自身の警戒が一歩遅かったことに気が付いたのだ。
    「あは、そっかあ。景、長尾景、きみが……」
    彼の端正な顔が、ぶわりと喜色に歪む。
    目を離さなければいけない。ここにいてはいけない。頭では分かっていても、その瞳の奥で手招く気配に絡め取られて動けない。
    「ねえ景くん、ふふ、長尾、聞いてくれるよねえ」
    ひどく緩慢で、しかし美しい動作でするりと長尾の左頬に触れる彼の右手。人肌でありながら明らかな異質さを纏うそれに、長尾の脳は絶え間なく警鐘を鳴らしている。それを認識していてもなお、あぁお弦は本当に綺麗な顔してんだな、なんて場違いな思考の靄でうまく頭が回らない。
    「お願いを、早く、僕のお願いだよ、楽しいんだ、きみとならもっと楽しくできる、わかるでしょ?僕の手を取れよ、僕のさ、ほらね、きみなら」
    文章の体を成さない言葉たちを投げかけながら、きしり、不自然なほど寝台に体重を掛けない僅かな音で、彼はその身を起こす。その急な動作で、必然的に鼻先が触れ合いそうなほど——その瞳に宿る昏い揺らぎに呑み込まれそうなほど、接近する。
    駄目だ!警鐘すら奪われた最後の理性が叫ぶ。思わず拒むように退け反ろうとして、しかし知らぬ間に頬から後頭部に移動していた彼の右手がそれを許さなかった。彼の手は怒りのままに力を込めて、かつて弦月が褒めてくれた桔梗のまとめ髪をぐしゃりと崩す。眼前の瞳には、底が見当たらないほど激憤の血が滾っている。
    しかしその瞼が不意に伏せられたかと思うと、数瞬間のうち、恐ろしいまでに静謐な瞳があらわれた。それは長尾のすべてを見透かすように、キュウと細められる。

    「どうして?景くん、ぼくのことがきらいなの?」
    その悲しそうな表情は、紛れもなく弦月の顔で、弦月の声だった。
    「そんな、わけ、」
    ない、と続く言葉が長尾の声帯を震わせることはなかった。長尾がそう答えることなど当たり前だと言わんばかりに、目の前の弦月が端麗に微笑んでいたから。
    もはや内なる警鐘も叫びも、今の長尾に知覚する術はない。視覚も聴覚も、すべての境界が次第にぼんやりと曖昧になっていく。

    拒む必要なんてないでしょう。
    手を取れば、全部、しあわせになるよ。

    いつの間にか脳髄まで深く立ち込めた思考の霧が、甘美な響きで長尾に囁く。ああ、そうか、手を取って、彼の前に跪かないと。ほとんど意識なく、その声に身を委ねかけたときだった。

    「目を離せ景!!」

    濃霧を薙いだ怒号。刹那、左肩にのしかかる重み。理解する間も無くその力は長尾を後方へ大きく押し飛ばし、勢いを殺す間もなく背後の寝台に背中を打ちつけた。
    「ッたぁ……!」
    「そのまま床見てて、絶対に顔を上げないで」
    いつの間にかすぐ左横で立膝をついていた甲斐田が、長尾の左肩にその左手をかけたまま後方を見つめて——甲斐田自身も決して彼と目を合わせないよう背を向けて、長尾の耳元で端的に呟く。
    その甲斐田の声に覆いかぶさるように、頭上からきゃらきゃらと弦月の笑う声が響いた。弦月の気配は確かに長尾の目の前にあるのに、声は後方、耳元、足下、頭上、そして脳を直接掻き回すような感覚へとぐるぐる動き回る。長尾はそのえも言われぬ不快感と、先ほど背中で受け止めた衝撃の名残りに目を顰めながら、甲斐田の言いつけ通り床板のしみ一つをひたすらに睨み続けた。左肩に乗った手にも、ぐっと力が籠る。
    その状態でどれほど耐えただろうか。無限に反響していくとも思えた笑い声が、不意にビタリと止む。
    「あーーーあ、つまんない、つまんなあいなあ。せっかく遊ぼうって言ったのに」
    それまでの笑い声の代わりに空間を支配したのは、今までのどんな祓魔任務でも感じたことがない、息の根を止められそうなほど冷え切った殺気。は、と微かな息を絞り出すのが精一杯だった。
    「おまえ、甲斐田晴、晴くんか、甲斐田、きみ、長尾を返せよ」
    間違いなくこの殺気は今、甲斐田を喰らおうとしている。それなのに、左肩の重みはふっと消え、立ち上がり、ゆるやかに振り返る気配がした。
    だめだ晴、逃げろ、逆らうな、そう声を上げたくても、取り込んだ空気の切っ先が引き攣った喉を虚しく掠めるだけ。
    そうして止めることさえできないまま、言葉を紡ごうとする甲斐田の呼吸がいやに大きく聞こえて。己の無力さに、血の味がするほど強く唇を噛む。

    「ごめんね藤士郎、僕たちお仕事が入っちゃってさ。ひと通り片付けたらまたお見舞いに来るから、ここで待っててもらってもいいかな?」
    張り詰めた空気を伝ったのは、明瞭でいて、少しの申し訳なさを含ませた声。驚くほど普段の会話と調子の変わらない甲斐田の声である。どういうつもりだ、と長尾はひとり呆気にとられる。
    すると甲斐田に向けられていたはずの殺気はすっと消え、狂おしいほど穏やかで楽しそうな弦月の声が再びからからと鳴り渡った。
    「なんだあ、いいよ!うふふ、待ってるよ、待ってる、僕はきみたちだけ待ってる、さんにんが楽しいよ、そうだね、待ってるんだから、あは、へへへ」
    そのまま譫言のように、待ってる、待ってると数度繰り返して、彼は糸が切れたように再び意識を失った。

    「……もう大丈夫かな。長尾、顔上げていいよ」

    その甲斐田の声に長尾は軽く返事をしようとして気付く。自分はどうやら相当強く当てられてしまったらしい。
    あの靄の残滓が未だ抜けきっておらず、声帯を震わせることもできなければ身体を起こす力もうまく込められない。それでもなんとか立ち上がろうとして目が回るようにふらつき、それを即座に察した甲斐田に支えられてしまった。
    まさか俺が甲斐田に支えられる日が来るとはなァ、なんてどこか呑気に考えながら甲斐田を見遣る。目が合うや否や、さっきはごめんね、痛かったでしょ。そう言って本当に申し訳なさそうな顔をするから、へらりと笑って首を振った。
    そうして長尾は甲斐田の肩を借りながら、先ほど背にしていた寝台に腰掛ける。出せない声での礼代わりに右手をひらっと挙げれば、甲斐田はほんの僅かに目を見開いて、すぐに水持ってくるから、と入口近くの給水器へと駆けていった。

    甲斐田を待つ間、長尾は先ほどまでの怒涛の出来事をぼんやりと思い返しつつ、弦月の寝顔を眺める。今の弦月は、長尾が最初に見たときより、その表情や呼吸は幾分か穏やかであるように思う。それでも生気は相変わらず感じられなくて、長尾の眉間に少しだけ皺が寄った。
    ほどなくして、甲斐田がふたつのコップを手に戻ってきた。ちょっとこれ持ってて、と言われるままに長尾が両手のコップを受け取ると、甲斐田は腰に携えた術式帖を取り出しぱらぱらと捲りはじめる。同じような頁を何度か往復しながら、これじゃないな、こっちか?と時折呟いているのを見るに、甲斐田にとってもこれが慣れた状況ではないことが察された。
    そうして選んだ数枚の頁を破り取りながら、一応大丈夫だとは思うけど念のためね、と伝えられ、長尾は大人しく簡易的な祓穢といくつかの結界の処置を受ける。それらがひと通り終わる頃には長尾の思考もある程度の整理がついて、心身ともにおおよその調子を取り戻していた。

    手帳を閉じて腰に携えなおしながら、甲斐田は肺に詰まった重たい空気をゆるやかに吐き出して、できるだけ柔らかく長尾の隣に腰掛ける。そのタイミングを見計らったように右からすっと差し出されたコップを受け取って、そっと利き手へ持ち替える。長尾は手持ち無沙汰になった左手を少し泳がせたあと、自分の右手が支える自らのコップに収束させた。

    「ありがとな、助けてくれて」
    「いや、間に合ってよかったよ。……ほんと、あんな博打は二度と打ちたくないけど」
    はは、と取ってつけたような甲斐田の冗談めかした笑い声が動かない空気に押し潰されて、再びの沈黙。長尾は手元の水面に反射する自分の重苦しい顔を隠すように、それを一口分だけ流し込んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works