綿花糖「……冥界の、いつまでそうしてるつもりだ?」
顎下から動かない銀髪の頭を始皇帝は軽く叩いた。かれこれ半刻ほど抱きついて離れないその人が他の神からも恐れらる冥界を統べる神だとは、到底信じられないだろう。
部屋に入ってくるなりがっしりと胴を抱きしめられ、胸に顔を埋められた時は驚きもしだが、流石に長い。何度か引き離そうとはしたが、無駄な抵抗に終わっていた。
呼びかけても応じる声もないまま抱き締められているのは、いくら相手が好いた者であっても不快ではある。
ずっと立ちっぱなしな体勢も辛い。
「不好」
頬を膨らまし、ひとつ強めに離れない頭を平手で叩く。
「痛い」
地を這うような低音が胸元からきこえた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
再度問いかけると、胴に巻き付いた腕に力が込められ、今度は始皇帝の方が痛いと抗議をする事となった。
「余の気が済むまで、と言ったらどうする?」
「唔受理」
思わず拳で胸元に埋まったままの頭を殴る。短い呻めき声と共に、やっとハデスの頭が胸元から浮いた。
肌を走った感覚に始皇帝は目元を覆う布の下で、思わず強く目を瞑っていた。向けられた強い感情に、肌が粟立つ。抱きしめる腕が緩んでいたら、その場に膝をついていたかもしれない。
「貴様のせいだ」
なんのことだ、と返そうとした言葉は重ねられた唇に奪い取られていた。呼吸ごと奪われるかのような深いくちづけに、脳が甘く痺れていた。