猫のような男たち②カブトが俺に背を向けて眠っている。
すぅ、すぅ、というゆっくりとした呼吸音とともに、はだかの背中が膨らんだり、萎んだりしている。背中に彫られた登り鯉が、ゆっくりと動いて、まるで生きているかのようだ。実際何度も膾になりかけながらも、この鯉は決して、死ぬことはなかった。傷つけられ、痛めつけられ、ひどい荒波に揉まれながらも、鯉はやがて滝を遡り、そして龍となるのだろう。
カブトの背中の傷に手を這わす。そこだけ触感の異なる、ボコボコとした皮膚。少し熱を帯び、しっとりと湿っているのは、昨夜の名残りか。シーツの波間に溺れさせられて、淡水魚の鯉は、さぞかし苦しい思いをしたことだろう。
背中を何度も撫ぜられても、鯉の飼い主は全く起きる気配がない。そうなると、なんだか無性にこちらを振り向かせてやりたくなる。背中の傷痕にかるく爪を立てて、猫の爪とぎのように引っ掻いてやる。と、擽ったかったのか、相手はすこし身動いだ。が、それでもやっぱり、起きることはない。
1728