猫のような男たち①ペロ、と、肩の後ろ側を舐められて目が醒めた。
柔らかな唇が、優しく肉を食む。唇でやわやわとはさまれて、ちゅ、ちゅ、と、吸い付かれる。時々軽く歯を立てて、滑らせるように甘噛される。
ごつごつとした大きな手は、俺の腹の傷のところを撫ぜている。べつに、労っているわけではないように思う。ただそこに皮膚の他の部分とは違う凸凹があるから、その皮膚と別の平らな部分の感触の違いを楽しんでいるのだ。やらしい触り方ではない。探究心旺盛な子供が、飽きるまで同じことを繰り返しているような。
まるで、母猫の乳を吸いたがる子猫のようだな、と思う。子猫はとても執念深い。自分の食欲が満たされるまで、執拗に母猫の乳をまさぐり吸いつづける。俺はそんな母猫の苦労を思いながら、己を後ろから抱き込むようにして褥に横たわっている。ただ、相手のするがままに、その行動に身を任せている。
相手は相変わらず、俺の肩の後ろに唇を押し付けている。カリカリと軽く歯を立てると、今度はその鼻先を俺の首筋にグリグリと押し付けるようにする。それも猫の甘える行為に似てるな、と思った。または、己の匂いを相手の体に擦付けるマーキング行為だ。
と、いきなり歯を立ててがぶりとやられて、思わず「痛ッ…!」と、悲鳴をあげる。
「ゆきさださん、いたいです……」
慌てて振り向いて抗議の声をあげる。と、
「だってカブトが、そっぽ向いてばっかで、ちっとも構ってくんねーから」
クスクス笑いながら、ギュ、と腕の中に深く抱き込まれた。今度は俺の後頭部に顔を突っ込んで、すぅ、とその匂いを吸い込んでいる。
「……汗の匂いがすんなぁ」
お前の匂いだ。耳の近くでそう囁かれて、ぞわ、と肌が泡立った。自分の体が中心からドロドロと溶けてしまうような錯覚を覚える。脱力する快感にふるり、と体を震わせると、俺は思わず、両足の腿と腿とを擦り合わせる。
が、それ以上は待てど暮らせど、相手から何もされることはなかった。それに気づいて、軽く絶望を覚える。ああ、まただ、また生殺しだ! 恐ろしいことにこの人は、寝ぼけているのかなんなのか、大体において早朝の戯れをこのへんでやめてしまう。さんざこちらを煽っておいて、そのまま放置するのだ。それでいてギュッと抱き込んで二度寝するから、その場を離れてトイレで処理することもできない。それに、何度泣かされたことか。
甘やかな疼きに身を焦がしながら、俺はただ、相手がもう一度目を覚ますのを待つしかなかった。腹の奥の所が、じくじくと甘くうずいている。そして心に決める、起きたら絶対に、上から覆いかぶさって、またがって、差し込んで、しゃぶりつくして、思う存分あの硬くて柔らかい巨大な杭のようなモノを味わい尽くしてやる!!