envy「…お前さ、弟嫌いになったりしないの?」
「なんないよ。」
俺の双子の弟、シュウはいい子の真面目ちゃん。
先生にも友達にも恵まれて。
今じゃ彼女がいるとかいないとか。
でも別に、それで嫌いになるわけでもない。
確かにシュウは俺にも優しくしてくれる。
嫌いになる要素がない。
むしろ好き。
対して俺は一部の先生と生徒からは好かれていても、やはり俺を毛嫌いする奴もいる。
まぁそんな、
皆俺のこと好きになってよ!!
て訳じゃないし、いいけどね。
「ミスタ〜!今日部活なかったよね、」
「シュウ!ないない部活ない!一緒に帰ろ!」
シュウと違うクラスになってからも、部活がない日はこうして一緒に帰ってる。
「今日のカラオケは?」
「パス!」
「だろうな…了解。皆に伝え直し。」
「ありかと!じゃあな〜!!」
よく皆にブラコンだとか言われるけど家族が好きって結構大切なことじゃない?
俺はシュウが大好きだからいつも一緒にいたいし、今までだって一緒だった。
「ミスタ。」
「何?シュウ。」
「僕、彼氏ができた。」
…ワッツ?
「え、何言ってんのシュウ…?」
「だから、彼氏…」
「え、彼氏…?」
少し顔を赤らめるシュウを見て、思考を停止しそうになる。
待ってくれ。
恋人ができた+彼氏!?
彼女じゃなく!?
別に同性とか異性とかはどうでもいいとは思っていたけど、シュウに彼氏!?
「ぇ、相手は…?」
「ヴォックスさん…」
…それって上級生だよな…
年上の彼氏!?
余計に頭が混乱して何も言葉が出なくなる。
ぇ、え、え?
「母さんたちには…?」
「言ってないよ。だからまだ内緒にしておいてね。」
まだ!?何、結婚でもするつもり!?
そんなに愛し合っちゃってるの!?
マジかよ!!
「シュウ。」
前から聞いたことのない低い声でシュウの名前を呼ぶ声がした。
「ヴォックス!」
シュウが嬉しそうに走っていく。
バッと顔を上げるとそこには髪の長い男。
「君が…ミスタ?
シュウから話はよく聞くよ。」
なんだコイツなんだ…!!
シュウは嬉しそうにヴォックスとかいう奴と何か話してる。
「ミスタ、この人がヴォックスだよ。」
嬉しそうな顔でそんな…
「そ、うなんだ…へぇ…」
返す言葉が何も出てこない。
まさかシュウがこんなにも早く俺から離れちゃうなんて。
「丁度いいや!家寄って行ってよ!
今日は母さんたち帰り遅いし!ミスタとも会ったばっかりだからさ!」
「ぁ、あ…そうだね。」
正直追い返してやりたいけど…それでシュウが悲しむのは嫌だ…
ヴォックスはそのまま家に上がってしばらくシュウと話した後、帰ろうとしていた。
俺もぎこちなくも何とか会話に混ざったりして、
「じゃあな、シュウ。ミスタも、今日はありがとう。」
「うん、またね!」
楽しそうなシュウを見てまた心が痛くなる。
「ま、また…!」
「あぁ、そうだミスタ。」
ヴォックスが立ち止まって俺に近づいてくる。
少し警戒をしながらも、何かと伺うとヴォックスは耳元で確かにこう言った。
「大丈夫だ、君の大事な『弟の』シュウは君に上げるから、『外での』シュウを俺にくれればいい。」
動きが止まる。
ヴォックスはニコリと笑って家から出て行った。
アイツ…!
この時俺は、アイツに…ヴォックスにだけはシュウをあげないと強く誓った。