甘いくちびる 買い物をした2人きりの帰り道。
ちょっとだけ離れたところへ阿絮と寄り道をしてきた。
二人並んで歩く影の長さは同じくらい。
夕日が何もかもを茜色に舞って、美しい阿絮の横顔も照らしていた。
あまりにも阿絮がお正月飾りを売っていた店の娘に色目を使ったと言って不機嫌になるから「阿絮、私のこと好きなの?」とふざけて聞いてみたら、「そうだ」とあっさり返されたから、慌てて「私も」と答えた。
共寝はしているけれど、そのような気持ちで抱きしめることから逃げていたから、たまにこうやって好きの気持ちでくっつくようにしている。
そういうときの阿絮も普段見せる顔とは全く違っていて新しい表情を見せてくれいた。
例えば。
口には出して言わないけれど、阿絮は手を繋ぐのが好きみたいだ。本人に聞いたわけじゃないけどわかる。出会ってからも見つめていたから。俯いている顔。髪の隙間から見える耳はほんのり赤くて、どうして今まで気が付かなかったんだろうと思うぐらいわかる。だから阿絮と手を繋ぐたびに嬉しくて、満ち足りて幸せで、でも少し胸が痛くなる。本当は好きで大好きでたくさん抱きしめたいけれど、成嶺の前と外ではしないことを約束しているから我慢した。
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