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冷たい暗闇なのに暖かい。
目が覚めると、寝ている阿絮の両腕に頭をくるまれている。
そんな朝が多い。
いつも嬉しすぎて速攻でぎゅうぎゅうとき抱き締めてしまい、寝起き最悪の阿絮に怒られる。今日はもう少しこの暖かさを楽しんでいたいので絶対に動かない。
───絶対動かない。
しばらくじっと耐えていると頭の後ろを暖かいものがゆっくり髪を滑る。何度も何度も行ったり来たり。
───絶妙に動かないっ。
後ろ頭を温かさが行来していると、頭のてっぺんにもぬくもりがやって来た。髪を掻き分けてそれはそれは柔らかいものが地肌に触れる。
───絶っ対に動かないっっ。
動かないよう必死に堪えていると頭の後ろの温かさがするりと耳の裏を通り首に降りてきた。優しく肌をなぞりながら、それは喉元の少し手前で止まった。触れるものが皮膚を押し込む。
───え。
強く押されると、こちらにも規則正しい振動を感じる。しばらく圧迫した後、それが緩まるり、地肌に触れる柔らかいものから暖かい空気がふわりと流れ、阿絮の体から力が抜けるのがわかる。
───あぁ、私は何てことをしたんだ。
「阿絮…」
名を呼び、体をずらして阿絮の頭をくるりと包む。先程私にしてくれていたようにすると、阿絮の耳元が胸に触れる。
強く押し付けるのがわかる。
───今の阿絮ならそんなに押し付けなくても聞こえるだろ?
これからは毎日阿絮より早く起きよう。
彼が目覚めるまで絶対に隣にいよう。
そうして教えてあげよう。
すべての感覚に教えてあげよう。
「おはよう阿絮。」
おしまい。