めめんともりもりもり「あなたは十分に苦しんだ。貴方の心は、ずっと昔に開いた一つの穴に囚われ、縛られている。何を捧げても、何を得てもその穴が埋まることはない」
「やめろ……」
暗い瞳が、私を閉じ込めたまま優しく揺れる。
「優しくて寂しがりなジョゼフ、もう苦しまなくていいんですよ」
穏やかな声音が失った半身の言葉をなぞる。
「やめろ!!」
「永遠の探究もあなたを救ってはくれなかった」
「……っ」
私室どころではない。人の過去、心にまで無遠慮に踏み込んで、私が求めたもの、何もかもに抗ってまで手に入れたいと切望したもの、その全てを否定するつもりか。温もりも、幸福だった時間たちも、それを失いたくないと願う心すら。
「忘れてしまっても、彼らの心は共にある。そう思えばどうでしょう。あなたは何一つ失ってはいない。死は喪失ではなく、行先が違うだけの別れなのだから」
私はこの男が嫌いだ。
一片の疑いも迷いもなく私を否定し、否定された私を肯定する。そんなものは望んでいない。全てを受け入れて穏やかに生きることなど、一度だって望んだことはない。望んだのは失われてしまった全てが微笑み合う箱庭。二度と戻らない、陽光の下で様々な言葉を交わした思い出たち。
「何故、私なんだ……」
「永遠なんて必要ない。ただ、送られる時には全てが穏やかであってほしい。僕は誰もが穏やかに死を迎えられるように願っています」
胸に手を当ててぐっとこちらに顔を近づけたイソップは、マスクの向こうで明確に微笑んだ。
「僕はあなたの隣人になりたいんです」