しょっちゅう喧嘩しては別れる🎈🌟②オレは激怒した。かの邪智暴虐の類を除かなければならぬと決意した。
いや、別に類は邪智暴虐ではないけれど。
でもこれは許せんだろう!!
あの日二度とこんなことはお願いしないと言っておきながらこれは何だ!
オレは類の机の上にあった紙袋の中を見る。
そこには可愛いが詰まったふりふりなメイド服が入っている。
これをオレは見たことがある。
1週間前に類と別れた時に類に着てほしいと頼まれた服だ。
オレが嫌だというなら着なくてもいいんだとか言っておきながら学校にこんなもの持ち歩いているだなんて‥!!!
オレは怒りのあまり手に持っている紙袋をぐしゃりと握る。
そもそも何でこんな可愛い紙袋に入ってるんだ!
関係のないことにまで苛立ちを感じてしまっているオレを寧々は冷たい目で見ていた。
「それで、また別れたわけ?」
「学校にまで持ち込んでいるということは未だオレにこれを着させようとしているってことだろう!?オレには着なくてもいいとか言っておきながら密かにこんな思惑をしているような嘘つきとは別れて当然だ!」
オレはぐっとさらに紙袋を強く握る。
さんざんオレに荒く握られるせいで紙袋はおろか、中の服もしわくちゃだ。
「別に類が司に来させようと思って学校に持ってきたとは限らないでしょ。‥まぁ、類なら司を言いくるめてきさせようとしててもおかしくはないけど‥。」
「ん?類ならなんだって?後半声が小さくて聞こえなかったんだが。」
「別に。少なくとも類が司にこれを着させようと企んでたとしても司が簡単に見つかるようなことはしないでしょ。ましてや机の上に置いておくだなんて誰に見られるかもわかんないし。」
「それはそうかもしれないが‥‥。」
じゃあこれはなんなんだ、とオレは強く握っている紙袋の中身を見る。
何度見ても類に見せられた写真のものと同じだ。
「というかあんたが紙袋持ってたら破きそうだからこっちに渡してくれる?紙袋やぶちゃったらその服生身のまま持ち歩くことになっちゃうし。」
そう言われてオレは寧々に大人しく差し出す。
すると寧々も中の服が気になっていたのか、それともぐしゃぐしゃにしてしまったのを直そうとしているのか紙袋の中からその服を出した。
その服は白と黒のヒラヒラとしたレースがたくさんついたまさしく可愛いという言葉がぴったりなメイド服でありながら、女性が着るにしては少し大きいサイズをしていた。
やはり類はこれをオレに着せようと‥。
と思ったところで寧々がこれ‥と不審そうな声を出した。
「これ、司とサイズ合わなくない?」
「‥え?」
「司が着るにしては大きい気がするんだけど。ほら。」
そう言って差し出されたメイド服を広げて持ってみるとたしかにオレが着るにしては少しサイズが大きい気がする。
「類がサイズを間違えた‥?」
「いや、どっちかというと類のサイズにピッタリじゃない?これ。」
類のサイズに‥?
寧々のその言葉を聞いて再びよく見てみると確かに類が着るのにちょうど良さそうなサイズをしている。
「類は自分で着るためにこの服を用意したのか!?」
何ということだ‥!!
はっ!まさかオレに着てほしい、と言っていたのも自分一人できるのは恥ずかしいからオレを誘ったのか‥!?
そんなことも察せずオレは‥!!!
類を傷つけてしまったのでは!?と焦るオレを横目に寧々は紙袋の中をガサガサと漁っていた。
「あ、なんかメモが入ってる。司のせいでしわくちゃになっちゃってるけど。」
「メモ‥?」
類へ
せっかくボクにこんなかわいい衣装作らせたのに着ないなんて許せないからこれは絶対類が着てねー!!
ぜっっっったいだよ。着ないと許さないからね!
瑞稀
なんて可愛らしい字でメモに書かれていた。
つまりこれは暁山が類の机に置いたもの、なのか?
先日、写真で見たメイド服は類が暁山に頼んで作ってもらった服なのだろう。
それをオレが拒否してしまったため、類が着ることになった、ということか?
「うわ、知り合いにメイド服作らせるって‥。」
と寧々はメモの内容を見てドン引きしていた。
うん、気持ちはわかる。
まさか暁山を巻き込んでいたとは‥。
しかしこれで自分が誤解していたことはわかった。
類は本当にオレに着せようとしていたわけではないのだろう。
「‥‥オレ、類に何も言わずに別れる!って言ってきてしまった‥。」
おそらく類はこのメモを、そもそもこの紙袋自体見ていないだろうから、オレが唐突に別れを告げたことになってしまっている。
サァーっと顔が青ざめていく。
どうしよう、と寧々に助けを求めると寧々ははぁ、とため息をついた。
「別に大丈夫でしょ。どうせもうすぐ類が迎えに来るって。ほら。」
寧々がそう言った途端ガシャンと音がした。
音が鳴った方向をみると焦った様子の類が立っていた。
「類‥!」
そう呼ぶと類は一目散にオレのもとに駆け寄る。
「司くん‥!どうしていきなり別れる、だなんて言ったのかわからないけど、きっと何か誤解があると思うんだ!もし、僕が君を怒らせることをしてしまったというなら謝るからどうか、考え直してくれ!」
そう必死に話しかけてくる類にオレは罪悪感に飲まれそうになる。
「ち、違うんだ。類の机の上にこれがあるのを見てついカッとなって‥‥。」
オレはそう言ってルイに紙袋を見せる。
それと手にとって中身を見た類は目を見開いて驚いていた。
「どうしてこれが‥。瑞稀にはもう必要がなくなったって伝えたはずなのに‥。」
「そこにメモが入っていた‥。作らせて置いて着ないのは許さない、と。」
「うわ、本当だ‥‥。結構怒らせてしまったみたいだね‥。」
「‥‥それ、着るのか?」
「え?」
「暁山は着ないと許さないと書いてあったが‥。」
「いや、瑞稀にはなんとか頼んで許してもらうことにするよ。」
「‥‥着ないのか‥‥?」
「んん?司くん‥??」
みたい、と思ってしまった。
類がふりふりの可愛いメイド服を着ているところを。
今ならあの日オレに類が着てほしいと頼んだ気持ちが理解できた。
男とか女とか関係なく恋人のメイド姿は見たい。
「お前がそれを着るっていうならオレも、そう言った服を着てやらんことも、ない。」
「‥‥‥え!?!?今なんて!?」
「だから、類がそれを着るならオレも着てもいいと言ったんだ!」
「どういう風の吹き回しなんだい!?あんなに嫌がってたのに!」
「類がオレに着て欲しいと言っていたようにオレも類に着てほしいと思ったから‥‥。」
そういうと類は目を白黒させながらオレとメイド服を交互に見ていた。
「ちょっと‥。そういう話は私がいないところでやってくんない?」
「ね、寧々!すまん‥。」
寧々の一言ではっと我に帰る。
寧々がいることをすっかり忘れていた。
オレ結構恥ずかしいこと言わなかったか!?
一気に顔が熱くなるオレとは対照的に類はニコニコとすまなかったねと謝罪していた。
「はぁ、少しは別れない様にでもしてよね。しょっちゅういざこざに巻き込まれるのは迷惑なんだけど。」
うぐ。
確かに寧々にはしょっちゅう別れるたびに相談やら愚痴やらを聞いてもらっている。
オレだって別に類と別れたい訳ではないし‥。
寧々だけじゃない、いつも率先して話を聞いてくれる冬弥や冬弥と一緒になってなんやかんや話を聞いてくれる彰人、それに今回は暁山まで巻き込んでしまった。
少しは別れない様に、か。
そうだよな、普通こんなに頻繁に別れることはないはずだ。
だいたい別れる時はついカッとなってオレの口から別れを告げてしまう。
ならばオレが我慢すれば類と別れることなくいられるのでは‥?
よし、そうしよう!
もう二度と類とは別れないぞ‥!!!
オレは心の中でそう決心してぐっと手を握った。
そんなオレを類は不思議そうに見ていた。